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バーンアウトした今年読んで良かった本 ー経済・生き方・心理学などー

2024年は、私にとって絶望の1年でした。
それまでの生きる意味を失い、バーンアウトを経験したのです。
抑うつ状態が続き、ひどい不眠や動悸、咳、胃痛、さらには失神に至るまで、自律神経が乱れ切った1年でした。精神も身体も限界に近く、文字通り“ぼろぼろ”だったのです。

このままではいけない。生きる意味を取り戻し、心身を回復させる必要がある——そう思った私は、仕事をやめさせてもらい、体調改善と読書・内省の時間を最優先にしました

なぜ人間は互いに争い、なぜ労働者は搾取され、格差が広がり、地球環境までも破壊され続けるのか? そんな疑問に答えを求めるように、哲学、倫理学、宗教、心理学、精神医学、量子力学、経済学、経営学……分野を問わず、様々な本を読み漁る日々が続きました。

正直、今も体調や生き方は「三歩進んで二歩下がる」状態で、時に絶望の影がちらつくこともあります。しかし、その過程で見えてきたのは、人間や社会、そして宇宙の在り方を捉える上での共通する構造や意味でした。私自身がつまずき、もがいたからこそ、生きることへの新しいヒントが少しずつ繋がりはじめたように感じます。

そんな背景もあり、11月から本Noteをはじめ、そうしたことのヒントとなる書籍を1冊ずつ紹介していますが、大まかには、以下のような体系にまとめられるのだろうと思っています。

1.ホモサピエンスの歴史や人間社会の現在地…狩猟革命、農耕革命、産業革命を経て、次のステージへと移行しなければ、人類は地球を滅ぼす目前にある

2.世界における日本の位置づけと役割…日本は世界の先頭を切って人口減少社会に突入している。一方で英・米は当面人口は増え続ける局面にある。人口減少社会において、株主資本主義やGDPは国民の幸福をもたらさない

3.素粒子~原子~細胞~人間~組織・社会~地球~宇宙というフラクタル構造素粒子レベルで決定していない以上、人間存在の在り方も同様に決定していない。また個人の在り方と組織や地球の在り方は相互に連環している

4.心理学・幸福学・哲学・倫理学などを横断した生きる意味の再形成人は何のために生きているのか、人を人たらしめている特徴と、それが宇宙にとって意味を遺せるとしたら何なのか。その意味は個人の幸福とどうリンクするのか

今回は、そんな各分野で印象深かった本を、簡単な紹介文とともに挙げていこうと思います。


1.ホモサピエンスの歴史や人間社会の現在地

本カテゴリは、当然『サピエンス全史』や『銃・病原菌・鉄』などのグローバルな名著も含まれますが、それらは割愛し、特に歴史から見る現代の人間社会について触れている本をご紹介します。

① 『ポスト資本主義――科学・人間・社会の未来』広井 良典

本書は、京都大学こころの未来研究センター教授であり、公共政策や科学哲学を中心に幅広い分野で活動する広井氏が、資本主義を人類史の中で位置付け、科学・情報・生命・福祉社会など多形に渡る分野や先人の知恵を横断しながら、未来へのシナリオを提示している書籍です。
特に、これからの社会が持続可能であるために必要な変革を具体的に論じており、資本主義の限界を乗り越えるための方針を探っています。
(詳細は以下の書評にて)

② 『なぜ私たちは燃え尽きてしまうのか―バーンアウト文化を終わらせるためにできること』ジョナサン・マレシック

本書の著者であるマレシック氏は、大学時代の恩師の影響で大学教授に憧れ、実際に大学教授となり、テニュア(終身在職権)まで手にしましたが、その後バーンアウトし、テニュアも手放して大学教授の職を辞します。

そうした彼が、専門である神学に加え、あらゆる学問を研究しながら、現代の職業観が燃え尽き症候群の原因となっていること、それを形作ってきた宗教観や経済の流れを明らかにし、社会が求める労働観を超越した新しい生き方を探る一冊です。
(詳細は以下の書評にて)


2.世界における日本の位置づけと役割

③ 『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』坂本 貴志

リクルートワークス研究所の研究員・アナリストである坂本氏による著作です。
本書では、豊富なデータと取材を基に、「失われた30年」が本当に「失われた」ものなのか?その30年でどんな構造変化が起こっているのか?を時系列や国際比較をもとに明らかにしながら、人口減少時代に突入した日本経済が直面する「10の大変化」と「8つの未来予測」を明快に解説しています
既に地方では、人口減や高齢化に伴う深刻な人材不足が発生していますが、それは個人的には東京などの都市圏の数十年後を先んじて示してくれていると思っており、「これからの日本」を考えるにあたっての土台を与えてくれた一冊でした。

④ 『「新しい資本主義」のアカウンティング 「利益」に囚われた成熟経済社会のアポリア』スズキ トモ

スズキトモ氏(現・早稲田大学教授)は、オックスフォード大学で主任教授(サステナビリティ・マネジメントと会計学)を務め、欧州やインド等の政府との協働を通じて、多くの政策提言を行ってきた人物です。
本書は、成熟経済社会における「利益最大化」経営が、かえって経済成長を阻害するというパラドックス(アポリア)を解明し、持続可能な成長のための新たな会計モデルを提唱しています。

特に印象的だったのは、「この30年間、日本企業全体の売上は横這い、人件費は微減にも関わらず、株主還元だけが10倍近く増えている」、「企業が資本市場から調達するお金の10倍以上が株主に還元されている」、といった事実です。成熟・人口減社会において、今のように「欧米モデル」を盲目的に信奉し、株主還元として外国機関投資家に資金が流出し続けていくのは正しい姿なのか?と改めて問い直すきっかけとなります。

ちなみに、③の本でもわかる通り、英国や米国は2060年頃まで人口増が続く見通しであり、それらと同じ経済モデルでは成り立たないことは明らかでしょう。

それに対し、著者は、従来の損益計算書(PL)に基づく経営モデルから脱却し、企業が生み出す付加価値を株主だけでなく、従業員や事業再投資などの主要なステークホルダーに適切に分配する「付加価値分配計算書(DS:Distribution Statement)」の活用を提言しています。
これにより、企業内部からガバナンスを強化し、持続可能な成長と市民のウェルビーイングを実現することを目指しています。

本書は、前岸田政権で始まった分配政策に影響を与える内容を含み、利益最大化経営の限界と新たな資本主義のあり方を探求する一冊としておすすめです。

3.素粒子~原子~細胞~人間~組織・社会~地球~宇宙というフラクタル構造

フラクタル構造とは、「部分と全体が同じ形となる「自己相似性」という特徴を持つ図形や構造」ということを指しており、雪の結晶樹木などもそれにあたります。
素粒子~宇宙までの全存在においても、全体と部分は調和し、全体の中に部分があり、部分の中にまた全体がある、という実感を持つに至った書籍を紹介します。

⑤ 量子力学の初心者向け書籍

「自分は存在するのか?」「運命は決まっているのか?」といった実存の問いは、自分の根源が揺らぐとどうしても気になります。

現代では、ニュートン力学などの古典物理学の世界から、相対性理論や量子力学、量子重力など、物理学の面では従来の人間の経験則では想像できないところまで科学は進んできました。

量子力学をざっくり学ぶことで、ベルの不等式が破れたことにより、量子は不確定であり、非決定論的であることがわかります。
そうすると、量子が不確定なら細胞のはたらきも不確定で、人間の電気信号も不確定、ということは人間という素粒子の動きによる現象も不確定じゃん!ということで、少しばかり生きる意味を見出せた気がします。
(ただ、ブロック宇宙モデルをあてはめると決定論的になるなど、まだまだ分からないこともいっぱいあるのですが。。。)

量子力学は我々の直観と異なることが多く、とっつきづらいので、ぜひ自分に合いそうな本を選んで読んでみていただくことをお勧めします。
(ちなみに私はブルーバックスとYoutubeで勉強しました)

⑥ 『ものぐさ精神分析(増補新版)』岸田秀

岸田秀(1933-)は日本の著名な精神分析家であり、フロイトの理論をベースに、人間の本質や社会との関わりについて深く考察した独特の思想(唯幻論)で知られています。
本書初版は1977年に出版され、伊丹十三、橋本治、内田樹等の多くの人物に影響を与えたと知られています。
本書は人間の本質的な不完全さと、社会との関わりを鋭く分析した思想書で、特に彼の「私的幻想」と「共同幻想」による解釈を通じた人間社会に生まれる不全や、日本社会自体を一人の人間のように精神分析した論考は、人間個人と集団(組織・社会)のフラクタル構造に思いを巡らせ、新たな視点へ誘導してくれます。
(詳細は以下書評にて)

⑦ 『ティール組織』フレデリック・ラルー

「今更。。。」な一冊ですが、私自身は今年初めて読みました。
後にも触れますが、私自身、「成人発達理論」をここ数年独学ながら勉強しており、また今回のバーンアウトを機に、個人としての意識段階の変容も見られたため、そうした「発達段階」を集団にあてはめるとどうなるか?という観点で本書を手に取りました。

本書は、人類の意識の進化と共に、組織運営がどのように進化してきたかを探り、次世代型の組織モデル「ティール組織」を提示します。著者はこれを「進化型組織」とも呼び、企業や団体が柔軟で持続可能な形で機能するための方法を具体例と共に解説しています。

世界全体として、マクロでみれば不平等や不合理が減り平均寿命が延びてきている中、産業革命以降の「生産性の時代」に適したモデルであった「オレンジ型」の組織から変容する必要が出てきているのは必然の流れでしょう。
特に示唆深いのは、「組織のリーダーの発達段階はティール以上である必要がある」一方で、「組織のメンバーの発達段階は問わず運営することができる」点です。
私としてはそれをダイナミックスキル理論的に捉え、「場の文化とスキル・仕組みが十全であれば、個はその場面(=当該組織)においてティールの発達段階のようにふるまうことができる」と捉えました。
これは、組織という仕組みによって「平凡な人が平凡なまま幸せに生きる可能性」を提示しており、大変興味深い組織モデルでした。


4.心理学・幸福学・哲学・倫理学などを横断した生きる意味の再形成

⑧ 『人が成長するとは、どういうことか ーー発達志向型能力開発のためのインテグラル・アプローチ』鈴木規夫

「成人発達理論」は、成人がいかにして精神的に成長し続けるかについて探るものです。
成人発達理論では、いわゆる「スキル的」な成長でなく、「人の器」や「視座」といった「内面的な観点」での成長を研究しており、個人が自身の世界観や価値観を超え、より複雑な他者との関係性や社会的文脈を含む考え方へと進化していくことが示されています。

詳しくは、以下Noteをご覧ください。

その中でも本書は、ロバート・キーガンの理論でいう「自己主導段階」以降、インテグラル理論でいう「オレンジ」以降にフォーカスし、段階別に詳細な特徴や支援のあり方を解説しており、支援者や自己主導段階で苦しんでいる方などにおすすめの一冊です。

この書籍は、単に発達段階の特徴を述べるだけでなく、それぞれの段階でどのように人が成長し、他者や環境とどう関わっていくべきかについて具体的に説明しています。読者が自分自身の発達プロセスを振り返り、どのような価値観や行動が現在の自分にとって適切であるかを考えるきっかけを与えてくれる内容です。


⑨ 『ずっとやりたかったことをやりなさい』ジュリア・キャメロン

これまで触れてきた、『ものぐさ精神分析』や「成人発達理論」、あるいは「幸福学」などを突き詰めていった一つの幸福の結論は、「自分らしくある」ことです。
(ただし狭義の「自己実現」「自己啓発」「自己搾取・酷使」ともいうような競争的・盲目的な”Doing”の生き方でなく、”Being”、文字通り「あり方」)

一方、「自分らしくある」ことは、繋がりすぎ、忙しすぎている現代においては昔よりも遥かに難しくなっていると感じます。

本書は、「自分らしくある」「創造性を回復する」ために、「モーニング・ページ(毎朝30分の書く瞑想)」と「アーティスト・デート(週1回の自分とのデート)」の2つの習慣を勧める本です。
これらを実践することで、周囲の人や周囲の価値観に合わせてしまっている状態から、自分の中に眠っている創造性やアイディアを引き出し、自分らしく日々を生きるように促してくれます。
(詳細は以下書評にて)

なお、本Noteで紹介した以下の書籍も、同様のコンセプトの書籍としておすすめです。


⑩ 仏教関連書籍

生きる意味」の探求と切っても切り離せない宗教ですが、心理学や哲学、幸福学を深堀りしていくと、必ずと言っていいほど仏教にたどり着きます
仏教関連は読んだ本・紹介したい本とも多く、カテゴリとしてまとめさせていただきました。

仏教(現代のいわゆる「大乗仏教」に限らず、古くからの仏教や多様な流派を含む)の大事にしていることは、あえて言うならば「ストレスなく生きようぜ」だと思っています。
(輪廻転生といった死後の世界観はあるものの、それはあくまで当時のインドの宗教観を活かしつつやっていた側面もあるように感じています)

例えば、唯識(ゆいしき)は、私たちの世界のすべては「識」、つまり心や感覚器官によって作り出されるという思想です。
外界の出来事や他者の言動による苦しみも、それをどう捉えるかという自分の心の動きが大きく影響します。唯識の教えは、心のあり方を見つめ直し、心そのものを調えていく重要性を説いています。

仏教は、現代の心理学や哲学とも響き合い、多くのインスピレーションを与えてくれる存在です。自己を見つめ直し、日々の「苦」を軽くするためのヒントとして、仏教関連書籍に触れてみるのも良いかもしれません。


ご紹介は以上です。
本当はもっと取り上げたい本や思想もあるのですが、今回は切りよく10冊(カテゴリ・・・?)とさせていただきました。

今後もこういった内容の書評や論考をアップしていきますので、よろしければぜひ、フォローやスキ!をしていただけると幸いです。

そして私個人としては、来年は、こうした考えをより一歩進めた形で統合しつつ、少しでも良い宇宙を未来に遺せるような1年にしていきたいです。


本noteは全記事無料で提供しております。
私の気づきが、少しでも皆さんの幸福に繋がれば幸いです。

また、これまでのキャリア経験(大企業・戦略コンサル・スタートアップ)を通じた示唆や、性格理論・成人発達理論・自己実現・自己超越などの知見をもとに、キャリア・ライフコーチングを行っています。
人生・人間関係・キャリア・成長・成熟など、お悩みの際はいつでもご相談ください!ご相談はこちらから。


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