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深層意味論/意味分節理論

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「ことば」と「意味」の謎にせまる、読書の軌跡をまとめました。
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意味分節理論とは(1) -深層意味論の奥深さ

(本記事は有料に設定していますが、最後まで立ち読みできます) ◇ 井筒俊彦氏の『意味の深みへ』に「意味分節理論と空海」という論考が収められている。全集の第八巻と岩波文庫版で読むことができる。 * 空海という方は、たいへんに偉大な人で、その偉大さはまさに「遍照」、至るところに多様に顕れるのだけれども、私のような一凡夫が個人的に特に驚異的だと思うところは、その「言語」についての思考である。 もちろん言語といっても通常の言語ではない。私たち人間が意識できる意味のある世界の

¥220

マンダラが浮かぶ手前に現れる「八」を分けつつ結ぶ夢 -ユングによる夢分析、パウリの夢にあらわれるマンダラ状のパターン(パウリのマンダラ夢17〜25)

C.G.ユングの『心理学と錬金術1』に掲載されたユングによるパウリの夢の分析を、深層意味論の観点から再読する。 パウリというのは、かのノーベル賞物理学者のヴォルフガング・パウリである。精神の不調に苦しんだパウリは患者としてユングの分析を受けていたのである。その分析の過程でユングはパウリの夢から、心の深層の動きがマンダラ状のパターンを浮かび上がらせることを明らかにした。 のちにパウリはユングと共著で『自然現象と心の構造』という本も記している。この本で二人は「シンクロニシティ

人はみな妄想するし、我々がばらばらであるかぎり分析は終わりながら続くのかもしれないー『人はみな妄想する』雑感ー

松本卓也さん著『人はみな妄想するージャック・ラカンと鑑別診断の思想』がとんでもなく明快ですごくおもしろかった。「神経症と精神病の鑑別診断」がラカンの、そして本書で著者が目する問題意識に通底する問いになっており、実用的かつ端的な記述で非常にわかりやすい。これまでのわからなさは何だったのか。強くおすすめします。 本書は、50年代から70年代にかけてのラカンの理論的変遷を時系列で整理し、その中で鑑別概念がどのように位置付けられ、また変化していったかを動的に論じるものである。 簡単

深層意味論的夢分析のケース・スタディ:ユングによるパウリの「マンダラ夢」分析をたどる(パウリのマンダラ夢1〜16)

C.G.ユングは『心理学と錬金術1』の147ページにおいて、「夢に現れるマンダラ」として次の例を挙げている。 ぐるりと円を描く蛇。 青い花。 手のひらの上の金貨。 サーカス小屋? 赤い球。 球体。 「蛇」、「花」、「金貨」。ずいぶんと具体的なもののイメージが並んでいる。 具体物の向こうに述語的様相の脈動としてのマンダラを幻視するこういう具体的なものには注意が必要である、というのはレヴィ=ストロース氏の『神話論理』がよく教える所である。 私たち人類は「蛇」などといわれる

鼠浄土/述語の極北としての分離と結合の分離と結合 -レヴィ=ストロースの『神話論理』を深層意味論で読む(80_『神話論理3 食卓作法の起源』-31,M460,461天体の諍い)

クロード・レヴィ=ストロース氏の『神話論理』を”創造的”に濫読する試みの第80回目です。『神話論理3 食卓作法の起源』の第五部「オオカミのようにがつがつと」を読みます。 これまでの記事は下記からまとめて読むことができます。 これまでの記事を読まなくても、今回だけでもお楽しみ(?)いただけます。 はじめにこの一連の記事では、レヴィ=ストロース氏の「神話の論理」を、空海が『吽字義』に記しているような二重の四項関係(八項関係)のマンダラ状のものとして、いや、マンダラ状のパター

木村敏『分裂病と他者』について 「存在するとは別の仕方同士」の禅問答

木村敏『分裂病と他者』を再読。これがとてもおもしろい。 木村先生は初めて留学した際に西田幾多郎全集を持参し、留学先での日本語の読書が全て西田だったらしい。母語で可能な唯一の対話相手が西田という特殊な期間の影響は計り知れなく、時々木村敏が喋っているのか木村敏を借りて西田が喋っているのかよくわからないことになっている部分もある。人類学者の岩田慶治は戦地に道元の「正法眼蔵」を持参し、「この生死は、即ち仏の御いのちなり。これをいとひすてんとすれば、すなはち仏の御いのちをうしなはんと

ユングの夢分析を深層意味論で読む -パウリの夢にあらわれるマンダラ状のパターン(パウリの夢 17〜22)

神話の語りや夢のビジョンは、人間の心の「深層」の同じところから立ち上ってくるようである。 神話や夢のビジョンにおいて展開する不思議な世界は、心の「深層」の脈動から立ち昇る振動のパターンが、表層意識の一番底・感覚印象の記憶の束に投射されたときに、そこに浮かび上がるパターンである。マンダラもまた、その写像されたパターンのひとつの姿である。 C.G.ユングは密教経典の言葉と、錬金術の文献の言葉を比較しながら、次のように述べている。 この一文は『ヨーガと瞑想の心理学』という、ユ

夢分析-ユングによる夢分析とレヴィ=ストロースの神話論理を共振させて意識の一番底を観察する(パウリの夢1〜16)

<本記事は最後まで無料で立ち読みできます> どうぞお気軽にご高覧ください。 + 神話も夢も、人間の心の「深層」の同じところ脈動から立ち昇る振動のパターンが、表層意識の一番底に、その底面の平面に写像されたパターンである。その写像されたパターンのひとつの姿がマンダラである。 心の表層/深層というのは、意識化できること=「なにがどうしてどうなった」と言語で報告できるようなことを「表層への表面化」と表現してみた場合に、その否定として表層へ表面化して”いない”ことが反対側に区切り

¥898

絶対無からの自己限定の中間領域を刻んでみる 木村敏の分裂病論とASDについてなど

木村敏『分裂病の現象学』を読み返していたら、恒例の西田絶対無円錐と同様の図によって分裂病(原文まま)の自我障害が説明されていたので、色々考えてみたいと思います。本書は長らく品切れになっていて文庫版が入手しづらいのが惜しいところです。 木村は分裂病の発病を、自分が他でもなくこの自分であるという事実を生きることの失敗、すなわち共通の根拠場(この発想の根本には西田の絶対無がある)からの「自己個別化の危機」にあるとしている。そこで想定される自己とは、連続的で同一性が前提とされていて

分離と結合のマンダラは2/3/6/4/8極に伸び縮みする -レヴィ=ストロースの『神話論理』を深層意味論で読む(77_『神話論理3 食卓作法の起源』-28,M430b天体の妻たち)

クロード・レヴィ=ストロース氏の『神話論理』を”創造的”に濫読する試みの第77回目です。『神話論理3 食卓作法の起源』の第五部「オオカミのようにがつがつと」を読みます。 これまでの記事は下記からまとめて読むことができます。 これまでの記事を読まなくても、今回だけでもお楽しみ(?)いただけます。 はじめにレヴィ=ストロース氏の「神話の論理」を、空海が『吽字義』に記しているような二重の四項関係(八項関係)のマンダラ状のものとして、いや、マンダラ状のパターンを波紋のように浮か

無意識はマンダラ状の形態を意識の表層の一番底に映し出す ー C.G.ユング著『個性化とマンダラ』を読む

ここ最近、ふとしたことからユングの著書を読んでいる。 ユングの著作に最初にふれたのは、随分むかしのことである。 まだ中学生の頃、とあるところから「読むべし」とアドバイスを受け、読み始めたものである。 読み始めた、といっても当時は「文字がならんでいるなあ」以上のことは理解できておらず、どうにもならなかったのであるが、それでも1ページ1ページ、一文字一文字、言葉の透明な流れに手を突っ込むように、読む。というか、「この向こう側になにかある!」という直観だけで、とっかかりになり

「絶-対無」においてあって照らされる わたしの先端について ーレヴィナス・西田ー

井筒俊彦『神秘哲学』の序文冒頭である。 「ただ独りなる神の前に、人間がただ独り」絶対的な神と私が丸腰で向かい合う。場のひらけ とはそういうものだと思う。 私にとって神は限りなく近く、そしてどこまでも遠い。そして、その果てしなさがそのまま、私の奥深くに息づいている。私よりも私に近い神をその神性そのままに私は触れることができない。指先をかすめうる神は何かしら対象化された神の似姿にすぎないのである。 ここにおいて、レヴィナスのいう「近さ」の意味を、人間を無限に超絶するところの遠さで

北米先住民の「岩戸隠れ」神話から、人類の心の深層の動きを如実に知る -レヴィ=ストロースの『神話論理』を深層意味論で読む(75_『神話論理3 食卓作法の起源』-26,M454 天体の諍い)

クロード・レヴィ=ストロース氏の『神話論理』を”創造的”に濫読する試みの第75回目です。『神話論理3 食卓作法の起源』の第四部「お手本のような少女たち」の最後から、第五部「オオカミのようにがつがつと」の冒頭を読みます。 これまでの記事は下記からまとめて読むことができます。 これまでの記事を読まなくても、今回だけでもお楽しみ(?)いただけます。 はじめにレヴィ=ストロース氏の「神話の論理」を、空海が『吽字義』に記しているような二重の四項関係(八項関係)のマンダラ状のものと

心の深層に浮かび上がる”四”について、ユングの夢、空海の曼荼羅、レヴィ=ストロースの神話論理から考える

かのC.G.ユングがノーベル賞物理学者であるヴォルフガング・パウリの「夢」を分析したセミナーの記録である『C・G・ユングのセミナー パウリの夢』を読む。 パウリの夢の分析はユングの著書『心理学と錬金術』でも整理されているが、この『パウリの夢』をつうじて、ユング自身が『心理学と錬金術』の内容をレクチャーしてくれているかのようなライブ感を楽しむことができる。 全編を通じておもしろいのであるが、特に、個人的におもしろくて仕方がなかった一節をご紹介させていただく。 まず「対立物