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マックスバリュ(スーパーでない方)

気がついたときは秋の終わりで
シルバーで縁取られた白い衣装をまとって
光でキラキラする売り場に立っていた

正確にいうと立たされてた
同じ格好のだいたい十人ほどの仲間たちと


12月
いつもの年よりはお客さまが少なくて
わたしたちの活躍の場があまりなかった

(わたしたちの役割は)売り場に並んでる商品のバリューをマックス最大限に高めるためです!!

ある日売り場にやって来たヒゲメガネスーツが力説してたけど

価値をバリューと言ったり
バリューの発音が舌足らずにバリュとなってたり
まっくすと最大限の意味が一緒だったりするし
大変だなヒゲメガネスーツ・・・

ぐらいの感想しかなく
実際、ヒゲメガネスーツが何を言おうが
お客さまが増えるわけでもなかった

何人かの仲間は売り場からいなくなったけど
補充はすぐにきて
お客さまの少ない売り場は平和でのどかだった


1月
年が明けてすぐ
いくつかの商品が売れた

なんとなくお客さまが戻ってきた予感があって
みんなちょっと嬉しそうだった

だけどお正月が終わるとやっぱりお客さまの数は減って
たちまち元ののどかな売り場に戻ってた


わたしはこのキラキラしてるのどかな売り場が好きだな

たまに誰もいなくなって昼間なのに静寂が訪れることがあって

ほんとうにその瞬間が大好きだ


2月
ちらほらと仲間が減っていったわたしは
同じころに店に入った仲間と売り場の一番前に立っていた

バレンタインという大イベントがある以上
商品が売れることをみんな期待していた

バレンタイン当日

とうとうわたしの番が来て
若い男性がダイヤの指輪を買うのを横から見てた

わたしはちょこんと指輪が鎮座した同じ格好の箱をおさめて
そのまま彼と一緒に売り場を離れた

バイバイ

キラキラした売り場と仲間たち


外は寒かった
見上げた彼の顔はほんのり赤くなっていた

意外に外もキラキラしてるなあとわたしは思い
彼に連れられてあるお店に入った

お店には彼と同じくらいの年の女性が既にいて
彼はその人のテーブルに座り
わたしは、二人が楽しそうに食事をするのを全身で感じていた

二人の感情が盛り上がると
わたしの体は一緒になってピリピリと震えた


気がつくとわたしは女性に連れられていた

彼女は駅前にある大きな交差点の歩道橋の階段に座り
箱から指輪を取り出してつけ
朝陽にかざし
しばらく手を揺らしてそれを眺めた後
ポケットに入れて駅の方向に歩き出した


わたしと
わたしと同じ格好をした綺麗な箱は
まるで時間が止まったかのように
そのまま階段に残された


わたしと箱は
ヒゲメガネスーツはやっぱり間違ってんじゃないのかなと
ひそひそと話をした


まあいいや

夜になったらまたキラキラした星が見えるよ

というかそうなるといいな