きる
切るために生まれた
冷たく硬い材料でできた少ししなってまっすぐに伸びる2つの刃
刃を合わせるとなんでも切ることができた
「君しかできないよ」
切ると褒めてもらえた
言われたものを切るととくべつ褒めてもらえる
それに気づくとどんどん切りたくなった
次に切るものが欲しくなった
次から次へと
次?
次はなに?
気が付くと欠けていた
自分の一番好きな部分が
月の光のようには戻らなかった
同じように冷たさに満ち溢れているのに
「次はない」
でも、欠けるほど切れといったのはあなたでしょう?
欠けたものたちは隠している
隠して生き続ける
でもわたしにはそれがみえる
取り繕いや雄弁や嘲笑や沈黙
何を纏っても見えてしまうだろう
月に照らされたときには
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ある日
ハサミは
2つの刃をつなぐコマを抜いてみた
もう自分でいられなくなるのではないかと期待したけれど
そんなことはなかった
欠けた刃と欠けていない刃
2つの刃がそこに転がっただけだった
見えない力が2つの刃をつないで
ハサミの存在は失われなかった
しばらくして
ハサミは
自分の刃がなんでも切れることを思い出し
欠けていない刃で欠けた部分をそっと切り取った
できるだけ滑らかに
ゆるやかな曲線を描きながら
自分の一番好きな部分では、もうなにも切ることができないように
すると
柔らかく滑らかになった部分を持つ人があらわれて
その人は
刃の先端のエッジで
心の表面を少しだけ切った
その人の心は凍ったチョコのように固く黒くなっていたけれど
切られた場所からは熱がどんどんとあふれだして
暖かく柔らかく戻っていった
コマは戻された
刃を逆にして
そして
光沢のある強い背でゆるやかに溝がつくられることで
柔らかくなって救われるものたちがいて
ハサミは初めて
欠けた部分と自分を愛することができた。