2024桜スケッチ(4)町田市・芹ヶ谷公園のソメイヨシノ、国際版画美術館の企画展
はじめに
ソメイヨシノが満開になった今年の東京は、あいにく雨模様や曇り空の天候が多くカラッとした青空に映える桜をみることができませんでした。
いつもなら、新宿御苑や千鳥ヶ淵、中目黒など典型的な桜の名所に出かけるのですが、今年は丁度知人の七宝展がこの時期に町田市で開催されるので、七宝展を見た後に昔行ったことがある町田市・芹ヶ谷公園のソメイヨシノが見られるのではないかと思い4月5日に出かけました。
町田市・芹ヶ谷公園のソメイヨシノスケッチ
町田市には、数十年前には相模原北部に住んでいたこともあり、気軽に何度も訪れていました。しかし35年ほど前に都内に移ってからはほとんど行く機会がありません。
日本美術に関心を寄せてから数度芹ヶ谷公園の中にある「国際半場美術館」の企画展に出かけた程度です。
町田駅に降り立つと、いつの間にか小田急デパートや東急関連の商業ビルが出来て空が狭く感じられました。
芹ヶ谷公園南口の桜並木階段のスケッチ
知人の七宝展を見た後、芹ヶ谷公園へ徒歩で向かいました。約10分ほどで、公園入口に到着しました。すでに、満開の桜が遠目から見ることができます。
曇り空ですが、谷底へ向かう階段の両側にソメイヨシノの花が覆いかぶさるようにトンネルを作っており見事です。
そこでカップルが手をつないで桜並木の階段を下りていく姿をスケッチしました。
町田市立国際版画美術館と企画展
階段を降り、谷底に向かう坂を下りると、右手に町田市立国際版画美術館の建物が見えてきます。
近寄ると二つの企画展、「版画の青春 小野忠重と版画運動
―激動の1930-40年代を版画に刻んだ若者たち―」と「日本のグラフィック・デザイナーと版画」の案内板が見えました。
この二つの企画展は、案内板で初めて知ったのですが、共に私にとっては意味のある内容で、入るべきかどうか迷いました。
なぜなら前者の企画展の中の中心的版画作家、藤牧義夫は、「都会を描く」という観点で、松本竣介と共に「街歩きスケッチ」をする私としては外せない作家だからです。
しかも、版画ではなく「線スケッチ」という観点でも、藤牧義夫は「絵巻・隅田川」という線描だけの、50mにおよぶ白描絵巻を残しているからです。
私は約10数年前に実物を見て、その臨場感に大変驚き興奮しました。「線スケッチ」を描く者にとっては必見の作品だと思いました。
しかし、今回私はこの企画展に入ることを止めました。その理由の一つは、「絵巻・隅田川」が出展されていないこともありますが、もう一つは小野忠重氏の名前が企画展の名前に入っているのを見て気持ちが萎えてしまったからです。
おそらく読者は何のことか?と不審に思われたでしょう。実は、藤牧義夫は24歳で行方不明になり、小野忠重氏が記した藤牧義夫の生涯がその後定説化されていました。
画廊店主の洲之内徹、大谷芳久の各氏が小野忠重氏の言説に疑いを持ち、その疑いを明らかにしていくのですが、その過程を2011年に、駒村吉重氏が「君は隅田川に消えたのか」というタイトルで本を出版したのです。
私は、まさにあの東北大地震の年の秋、仙台で単身赴任していましたが、書店に並んだ瞬間、読まなければと思い、一気に読み込んだのです。
そして読了後の興奮も冷めやらぬうち、ネタバレにならない範囲でブログに記事にしました。
以上の記事の中では、ネタバレになるので、実名を挙げませんでしたが、ごくごく最近、山田五郎氏がいともあっけらかんと小野忠重氏の実名を挙げて、堂々1時間強を使い、限りなく黒に近いグレーの人物としてなぞ解き結果を紹介しています。
以上を見ていただくと、私がなぜ「小野忠重」氏の名前を見て、今回の企画展に入りたい気持ちにならなかったかお分かりになると思います。
以上の山田氏による謎解き解説は、へたなミステリー小説よりも面白く、創作作家の複雑な心理を考える上でも大変興味深くご覧いただければと思います。
なお、「隅田川絵巻」をご覧になりたい方は、私のブログの中で紹介した,
14年前の4つのyou tube動画で全巻を見れますが、大変解像度が悪くお勧めしません。
むしろ山田五郎氏の手作りの絵巻(三囲の巻)を二つ目の動画で見ていただければ、その凄さがお分かりになると思います。
さて、もう一つの企画展、「日本のグラフィック・デザイナーと版画」ですが、そちらは入室しました。
その理由は、長谷川等伯の「松林図屏風」の記事やこれまでの記事でも言及しましたが、日本美術を語る上で、西洋の「ファイン・アート」をベースにする限り必ずや突き当たる問題、「ファインアート作品vs装飾工芸品、調度品」、「ファインアートvs商業美術」に関連しているからです。
油絵を頂点とするアートの西欧的ヒエラルキーは日本美術には当てはまらず、今も昔も日本人作家の場合、そのようなことにお構いなしに作品を作り続けています。今回の企画展で言えば、横尾忠則氏がその例です。
この記事の中でこれ以上詳述するのはふさわしくないので、この企画展については別の機会に紹介いたします。
多目的広場の花見風景
国際版画美術展を出てから、広場の方に向かいます。
虹と水の広場、多目的広場の道にはやはりソメイヨシノの並木道があり、その下で近在の人々が花見をしています。
一番奥のところで、桜の下でシートを広げてお母さん方が夢中にしゃべっている光景をスケッチして見ました。
このあと、北上してトンネルをくぐり、西側の急坂を上って帰路につきました。
上り詰めた入口近くに、こじんまりとした社が見えたのですが、その名前が「母智丘神社(もちおじんじゃ)」とありました。
聞いたことがない珍しい名前の神社で、敷地の中にあった案内板を読むと、意外に新しい神社であることが分かりました。曰く、
現代といってもよい大正時代でも、市井の人々によって神社が創建されることがあるのだということを始めて知りました。しかも、その後この地域で大切に守られている様子が伺え、信心というのはいつの時代でも変わらないものだということを思いながら帰路につきました。
(おしまい)
前回の記事は、下記をご覧ください。