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No2:様々な形を持つ野菜・果物の「散らし図」作品の制作方法⇒「絵心」を鍛える


はじめに

 前回の記事(下記)からの続きになります。

「絵心」は自分で鍛えて育てるものでは?

 上に挙げた小見出しは、今思いついたものです。私は以前、絵を描きたいのに諦めている大人の方々が「私には”絵心”がないから」という言葉で描こうとしない理由を述べることに対して、下記の記事を投稿したことがあります。

 なぜ、この記事を思い出したかというと、仮に絵を習い始めたとしても長く続かない人がいることも確かだからです。
 その一つの理由は、絵画教室で講師が教えることができるのは、誤解を恐れず言えば「技術」のみで「心」を教えることが出来ないからです。

 実際、私の個展会場を訪れた、水彩画を習っているという方から、先生が鉛筆デッサンなど基礎訓練ばかりをして、中々「絵(作品)」を描かせてもらえず、習うのを止めたくなったという話も聞いたことがあります。

 ですから、私の教室では、「心」は教えられなくても「作品を創る」喜びを早い段階から味わってもらいたいと考えました。
 具体的には、基礎技術を習得するたびに、その技術を使った「作品」を毎回創っていくのです。
 読者の中には「作品創り? 基礎技術を学ぶだけも大変なのに、絵画として通用するものを初心者ができるのか?」と疑問に思われる方がいるかもしれません。

 しかし、そのような疑問は杞憂です。なぜなら大人が頭の中で思い描いている「絵」とは、教科書ですでに評価が定まった「絵」を思い浮かべているからです。初心者が最初から教科書で目にするような絵を描くことはできません。
 むしろ、大事なのは制作を続けていくことです。おそらく、30枚ほど続けたあとに、最初の絵と比べれば格段に絵画としても水準が上がっていることを体感できるでしょう。
 私はそれを「絵心を鍛える修練」と名づけたいと思います。

 それでは、No1の記事で習った野菜・果物単体の線描法を用いて作品を創ってみましょう。

 作品制作の入り口として、日本の絵画が生み出した「散らし図」というジャンルを使います。

(1)「散らし図」とは

 下に前記事で紹介したミカンキュウリ2種類の線描のみを用いた「散らし図」作品の例を示します。

図1 ミカンとキュウリの散らし図 ペンとインク

「散らし」とは

 日本絵画に特有なモティーフの配置形式で、西欧絵画の対称的、幾何学的配置に対して非対称構造を特徴とします。平安時代の装飾料紙の金箔の散らし模様や、扇を散らした扇面図などの例があります(図2)。

図2 日本絵画における散らし模様

 以下に、最初に図1で示した作品の制作プロセスを解説します。

(2)図1《ミカンとキュウリの散らし図》の制作プロセス

 図1で注目してほしいのは、以下の点です。

●描く野菜・果物の数は自由です。絵画的なレイアウトを得るためには、少なくとも三個以上が必要です。
●それぞれの野菜果物の配置は重なりは無くランダムです。すなわち、天地の向きは無視、間隔も自由です。
●大きさの相互関係も独立です。すなわち、現実の大きさとは関係なくサイズも自由です。

 ですから、西洋絵画における静物画、風景画などと違って、一種装飾デザインに近いと考えてください。しかも幾何学的配置ではなくランダムな配置です。ですから、西洋的な対称性を持つ整然と並んだレイアウトではないので、かなり難度が高いと思われるかもしれません。
 しかし日本で生まれ育った人ならば、着物や手ぬぐいなど身の回りの品で一度は目にしたことがあるはずなので、自分の美意識を信じて楽しみながら配置してみてください。

 以下に図1の制作過程を示します。

図3 図1の制作プロセス(描いた順) 数字は描いた順番を示す

1)まず中央に大きめのキュウリを右奥になる様に描いた。
2)次に、四隅を埋めるように、ミカンを右上の隅に描いた。サイズは最初に描いたキュウリの尻尾に近くなるように。
3)右下隅を埋めるようにキュウリを描いた。
4)左下の隅に最初に描いたキュウリの左に並べてミカンを描いた。
5)左上の隅に、下向きのミカンを描いた。サイズは小さめに。
6)真ん中のキュウリと右下隅のキュウリの間を埋めるようにミカンを描いた。ヘタの位置は右下になるように描いた。
7)さらに、右上の隅のミカンと6)で描いたミカンの間に小さいキュウリを描いた。
8)5)と7)のミカンと1)のキュウリの間を埋めるキュウリを縦に描いた。
9)最後に、4)と5)のミカンの間を埋める小さなキュウリを描いた。

 図1に挙げた私の例が果たして絵画的に意味がある(美しい、感動を与える・・・など)かどうかわかりません。
 しかし、できあがったものは作品なのです。配置を決めるのはあなた自身です。少なくとも創作活動といってよいのです。
 このような創作活動を繰り返すことで基礎技術の習得だけでなく、作品作りを通して絵画によって自己表現するための感覚が養われていくでしょう・

 次章以降、様々な形を持つ野菜・果物の単体の線描を用いて、図1のシンプルな「散らし」様式をもとに、さらに発展させたと形式の作品とそれらの制作プロセスおよびコツを紹介します。

以下はこんな方に読んでいただきたいと思います(有料記事のパートを設けた理由について)

 「線スケッチ」に関心を持つ人が多く増えてもらいたいと願ってこれまでの記事は無料で公開してきました。
 その意味でも今回から始めるシリーズも無料で公開してもよいのですが、実践技術記事部分は、内容的に対象が絞られて若干専門的な内容になります。
 そこで単なる読み物としてではなく、線スケッチを実際に描き始めた方で長く継続する意思のある方に読んでもらいたいと思い、最低料金での有料記事にすることにいたしました。
 なお、実践技術記事の前の、1)記事内容の背景、2)基礎技術、基本技術、3)実践技術内容(有料)の概要 は無料記事パートにいたしますので、読むだけの方はその部分だけでも十分お楽しみいただけると思います。

 参考のため有料部分の概要を示します。 

文字数:2748文字
図版:単独図版 11枚 
概要
3)
野菜・果物の「散らし図」の発展形として、1)多種類の野菜・果物を配置した「散らし図」、2)同じく多種類の野菜・果物の重なりを含む「散らし図」の例を紹介する。
4)新たな展開として、1)東洋絵画、日本絵画の伝統的な「果蔬(果物と野菜)図」の配置を参考にsいて描く方法、2)幾何学的、ランダムに配置したイラスト絵画の二つの展開について例示する。
5)最後に、新たな発想で野菜・果物を描写し、普通の描写と組み合わせて、意外性と面白さを併せ持つ作品制作について紹介する。

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