わんたろ
ファンタジー小説『聞言師の出立』全話と、作者からのメッセージ「聞言師由無し事」をまとめました。
空は暗い。 薄暮の光も星もない。 身体は動かず、頬に冷たい滴が落ちてくる。 脇腹を押さえる手には、ずくりずくりと生温かいものが流れている。 寒い。 誰かが叫び、駆け寄ってくる音がする。 身体を抱えられるが、己から力が零れだしてゆくのが分かる。 目も利かなくなっていくのは、空がますます暗くなっているからか、それとも—— ——ここで死ぬのだろうか。 そのとき、闇を切り裂いて、何かが輝いたような気がした。 第1話 → 第2話 (1-1) 作者からの
去年もおととしもその前も今年とさほど変わらなかったし、きっと来年もおんなじような感じなんだろうな。 2022年の年末頃は、そんなことをぼんやり考えていました。 ところが。 2023年も終わりのいま、今年を振り返ってみると、あらまあびっくり。全然違う年になっていたではありませんか。 そんなわけで、今年の自分の「総括」(←生まれて初めて使った言葉)をしたいと思います。自分のための備忘録です、来年になったらすっかり忘れているような気がするので。悪かったこと嫌だったことはガン無視でい
創作大賞2023に応募しているファンタジー小説『聞言師の出立』が、昨夜完成しました。 友情と絆、知恵、欲の物語をお読みくださり、ありがとうございます。 (多分)最後のメッセージを投稿しましたので、よろしければご覧ください↓ https://note.com/wantaro_air/n/nadc6e931e38e
創作大賞2023に応募しているファンタジー小説『聞言師の出立』最終章とエピローグに、手を加えました。 友情と絆、知恵、欲の物語の大きな更新はこれで終わりです。よろしければご覧ください。 詳しくは↓ https://note.com/wantaro_air/n/nadc6e931e38e
創作大賞2023に応募しているファンタジー小説『聞言師の出立』第5章に、手を加えました。 友情と絆、知恵、欲の物語もあと1章+α! よろしければご覧ください。 詳しくは↓ https://note.com/wantaro_air/n/nadc6e931e38e
創作大賞2023に応募しているファンタジー小説『聞言師の出立』第4章に、手を加えました。 友情と絆、知恵、欲の物語はあと2章ちょっと続きます。よろしければご覧ください。 詳しくは↓ https://note.com/wantaro_air/n/nadc6e931e38e
創作大賞2023に応募しているファンタジー小説『聞言師の出立』第3章に、手を加えました。相当書き換えたので、前より読みやすくなっていると思います。 友情と絆、知恵、欲の物語はまだまだ続きます。 詳しくは↓ https://note.com/wantaro_air/n/nadc6e931e38e
創作大賞2023に応募しているファンタジー小説『聞言師の出立』第2章に、手を加えました。ずいぶん読みやすくなったと思います。 友情と絆、知恵、欲の物語はまだ続きます。 詳しくは↓ https://note.com/wantaro_air/n/nadc6e931e38e
創作大賞2023に応募しているファンタジー小説『聞言師の出立』第1章に、手を加えました。 詳しくは↓ https://note.com/wantaro_air/n/nadc6e931e38e
空は暗い。 薄暮の光も雲間から切れ切れにしか届かない。 ——降りそうだ、まずいな。 テリュク村を発って三日。リメンの町はまだ少し先だった。 村から都までの長い道沿いには、いつのものとも知れない崩れかけの石の円塔がぽつりぽつりと立っている。村への道中、アクオは夜になるとよく身を寄せていたが、雨露を凌げるその塔もリメンを越えるまではもうない。 聞言師は外套の頭巾を被ると、足を速めた。少し嫌がるような素振りをまた見せた馬も、静かに声をかけるとおとなしく早足になる。
—————————— それからの十日間は、アクオにとって長いようで短かった。 日限を切ったのはアクオ自身だった。 まず、漂陰の残っている石を盗んだという疑いは晴れて解けた。 その詫びの印と麦枯れを治した礼として、村の一角にひっそりと立っている土蔵への出入りが許された。中には、遙か昔から連綿と受け継がれてきたさまざまな書が所狭しと置かれており、その光景にアクオは呆然と立ち尽くしたのだった。 とは言え、どれほど時間をかけても読める量ではない。しかもほとんどは、触れるこ
アクオらが村に帰り着く頃には、すでに空が赤らんでいた。 ルクトやエクテと久しぶりの湯家へ行ったアクオは、面映ゆさを味わわされた。夕食の時間なのか、ほとんどの男たちが帰り支度をしており、皆から畑の枯れ麦を治したことを荒々しく感謝されたのである。 礼を言われただけではない。身体のあちこちをさんざん叩かれ、背にくっきりとついた赤い手形をルクトにもエクテにも笑われることになった。 少年たちにも、脇腹を覆った白い傷跡を物珍しそうに触られ、くすぐったさを我慢しなければならなかった
巫の小屋は一人で住むには大きい。 独りきりだったら広い方がいいのか、狭い方がいいのか。 初めて小屋の中を見たとき、そう思ったのをアクオは覚えている。アイオーニが住んでいた一つきりの板間は、衝立で半分に分けられていた。 アクオは衝立の向こう、無数の本が散らばっている方には足を踏み入れず、手前の壁に身体をもたせかけ、聞言筆を手にした。 ぐるり。 濃い霧の中に、いつもの少女の姿がすうっと現れる。 「漂陰は来た。近くに他の漂陰の気配もあるが、大きなものはもうない」 ——
6 「逃げろ!」 叫んだアクオも無我夢中で飛びすさり、漂陰の石の残骸からゆらゆらと立ちのぼる闇を凝視した。 松明の赤い光の作るどの陰よりも濃い闇がゆっくりと渦を巻き、巫の背を覆ってゆく。 見えなくなっていく巫の姿から目を引き剥がせないアクオは、気づかぬうちに聞言筆を握り締めていた。 「無駄だ」 頭の中にペティアの声が響く。 「どうにもならぬ。取り憑かれるぞ」 それでも聞言筆を突きだすアクオの腕をルクトが、フロニシが、サレオが掴んで立たせ、後ろへ引きずっていく。 「
—————————— 「アクオっ!」 返事はない。 光を失った目がゆっくり閉じられていく。 「だめだ、いくな!」 ルクトは首を振りながら、熱い涙をアクオの顔に零し続けた。 「アクオいかないでくれえっ!」 力ない身体にしがみつき、耳元で名を叫ぶルクトの強く閉じた瞼に、白い光が差しこんだ。 誰か来てくれたのかと上げた顔が、明るく照らされる。 「え?」 松明の赤い灯火ではない。 光っているのはアクオの右手。 握り締められた聞言筆。 「なん——」 一閃。 「う
—————————— 「手遅れになります、早く!」 叫んだアクオは〈山〉を駆けのぼっていったが、残された者たちは逡巡した。 だが、筆の中の漂陰が教えてきたということは、〈山〉で起ころうとしているのはおそらく漂陰絡みの凶事。それならば、聞言師ならぬ身でできることは多分ない。しかも、何かが起ころうとしているのなら村に知らせねばならない。 世話役たちは、アクオに言われた通り〈山〉を下りはじめた。 登れば登るほど重くなっていく〈山〉の空気に、思考も鈍らされていた。 山道の