これからの「本屋」に必要なことについての思考実験
三連休は考えごとをしていた。「庭プロジェクト」の大きな研究発表のまとめが春に控えているので、そのアイデアとあと、たぶん同じくらいのタイミングでオープンする「宇野書店(仮)」というか、たぶん本当にゴロが良いのでその名前になるのだが、そのサービスのコンセプトについてずっと考え込んでいた。
まず僕らが前提にしなきゃいけないのは、三宅香帆『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』のメガヒットの証明した「現実」だろう。同書のヒットが証明したことは二つある。まずは要するに人間は本が「読める」環境にいま、いないということだ。もちろんAmazonもKindleもあるのだけど、情報環境的にまとまった活字は「コスパ」が悪いので選ばれなくなってしまっていることに加え、三宅が指摘するように「意識の高い」ビジネスマンの自己研鑽を是とするイデオロギーは、「役に立つ」教養やセルフブランディングのための「人文系」教養といった「目的」を全面化してしまい、(社交や健康のための食事が「味」に向き合わせないように)読書の持つ豊かさを台無しにしてしまっている。
そしてもう一つはなかなか皮肉な現実だ。このような「本が読みたい私たち」を確認するための本が売れても、では実際に「教養」や「批評」そのものが書かれた本(たとえば同じ著者の書いた批評本)が同じくらい売れている……ということではないことに端的に現れているように、「本が好きな自分」のセルフイメージや「本を読める生活」は強い求心力を持つが、本そのものはそうじゃない。残念ながら「本が好きな自分が好き」な人のほうが、「本が好き」な人より多いのだ。
では、どうするか。僕がこの数日ずっと考えていたことは「庭プロジェクト」で一緒に研究している人類学者の小川さやかさんの話だ。彼女がタンザニアの出稼ぎ商人たちの社会を研究を通じて注目しているのは〈「ついで」の論理〉というものだ。
僕の考えるこれからの読書というものは、ちょっとしたエクササイズのようなものだ。と、書くと、真面目な筋トレのようなものを想像するかもしれないが、むしろ息抜きのようなものだ。
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u-note(宇野常寛の個人的なノートブック)
宇野常寛がこっそりはじめたひとりマガジン。社会時評と文化批評、あと個人的に日々のことを綴ったエッセイを書いていきます。いま書いている本の草…
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