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80年代の負の遺産(『フジテレビ』はその象徴)をどう処理するか
昨日、戦後のある時期ーー80年代以降ーーの日本社会と「テレビ」文化の関係についての文章を書いたのだが、今日はその続きだ。
前回の文章から、今回の議論に関係する要素だけを抽出するとこうなる。80年代の日本社会のモードを蹴って付けていたのが、「テレビ」的なものだ。それは言い換えれば「語り口」を偏重することだと言い換えることができる。つまり語る「中身」よりも語り方、距離感や進入角度が重視される。
《メインカルチャーとメジャーの権威をも文化資本は解体しつつあり、マイナーが分衆として資本に取り込まれるにはまだ間があった七六~八三年という転形期にあった、低成長下のサブカルチャーは奇妙な活性化をみせていたのだ。『すすめ!!パイレーツ』に『マカロニほうれん荘』。『LaLa』に『別マ』に『花とゆめ』。萩尾望都、大島弓子、山岸凉子。『JUNE』に『ALLAN』。諸星大二郎、ひさうちみちお。『ビックリハウス』『POPEYE』『写真時代』に『桃尻娘』に糸井重里。椎名誠。藤井新也。つかこうへいに野田秀樹。タモリとたけし。鈴木清順。異種格闘技戦に新日本プロレス。パンクにレゲエ、テクノ・ポップ、ニューウェーヴ、サザン、RCサクセション。YMO、『よい子の歌謡曲』『スター・ウォーズ』。ミニシアター。『ガンダム』に新井素子。世界幻想文学大系やラテンアメリカ文学。メジャー不在の大空位時代にあっては、あらゆる新しいものがマイナーのままメジャーであった。正義も真理も大芸術も滅び、世の中は、面白いもの、かっこいいもの、きれいなもの、笑えるもの、ヒョーキンなものを中心に回るしかない。この幸福な季節を、橋本治と中森明夫は八〇年安保と呼ぶ。》
これは浅羽通明による80年代前半の文化状況についての叙述だが、この「80年代安保」という造語が体現する80年代の相対主義と面白主義の帰結が、前述の「語り口」の偏重だったように思う。なぜならばそこに生まれたのは、「正義も真理も大芸術も滅び、世の中は、面白いもの、かっこいいもの、きれいなもの、笑えるもの、ヒョーキンなものを中心に回るしかない」世界だったのだから。
この80年代的価値観を、令和の日本に延長してしまったのが、今日の糸井重里的なものだと考えることができるだろう。
あらためて、また思います。ぼくは、じぶんが参考にする意見としては、「よりスキャンダラスでないほう」を選びます。「より脅かしてないほう」を選びます。「より正義を語らないほう」を選びます。「より失礼でないほう」を選びます。そして「よりユーモアのあるほう」を選びます。
— 糸井 重里 (@itoi_shigesato) February 4, 2015
悪名高いこの糸井の投稿は、彼と彼が未だに依拠する80年代的なもののまずい部分を体現してしまっている。『庭の話』でも取り上げたが、「よりスキャンダラスでないほう「より脅かしてないほう」「より失礼でないほう」「よりユーモアのあるほう」を選ぶのは当然のことだと僕も考えるが、ここに「より正義を語らないほう」含めてしまうのは、どう考えても「勝ち組」の傲慢だ。アンフェアな再分配や物価高で、または「ギョーカイ」の性搾取構造下で理不尽な苦痛を与えられている人間に、これを述べるのが実質的な二次加害にあたることくらい、少し考えれば想像できるはずだ。
当然この糸井的、80年代的な態度には歴史的な背景がある。それは20世紀はこの「正しさ」=イデオロギーがマクロにはヒトラーやスターリンの全体主義として、ミクロには連合赤軍の一連の事件のようなものとして、虐殺を反復してきた時代であったからだ。その「反省」が80年代的な「正しさ」の忌避なのだ。詳細は『庭の話』で書いたのでここでは踏み込まない。(このあたりの構造は北田暁大の『嗤う日本のナショナリズム』あたりも参考にして欲しい。)
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