ハレの国おかやま
岡山の季節の移り変わりをエッセイに
SDGsの目標4 質の高い教育をみんなに
岡山市中区にある龍ノ口山に登るのが好きだ。頂上を目指す登山ルートのバリエーションのうち、八幡宮の参道である四御神登山口からのルートは歩きやすい。山頂付近では旭川を一望でき、悠大な河の流れ、吹き抜ける風が心と体を癒してくれる。 そんな山登りを題材とした小説「バリ山行」が芥川賞に選ばれた。神戸、六甲山が舞台の「純文学山岳小説」だ。市街地近くの低山で登山を楽しめる点は、龍ノ口山と親和性がある。 分け入った自然の中での登攀は、際限のない藪、傾斜との闘いなど難所がいくつもつきまとう。ま
「サンショウウオの四十九日」は、朝比奈秋さんが芥川賞を受賞した小説だ。両生類のサンショウウオと法要の四十九日が、どう考えても頭の中で結びつかず、しばらく読むのをためらっていた。そして1カ月余りの間、サンショウウオが私の頭の中に棲みつくようになった。 ある日、新聞でこの小説の書評を目にしたら、おいしいごはんにそそられた気がした。読書欲が駆り立てられ、さっそく図書館で本を借りた。まさに評者に背中をポンと押された感じだ。 小説を読み進めていくと、今度は2匹のサンショウウオが頭
新しい年度が始まってすぐに、講演会の講師の依頼を受けた。演題は自治体の財政運営について。人前での話しは苦手だが、地方財政に携わり3年が過ぎたので二つ返事で引き受けた。 演題の内容については、2週間かけて綿密に構想を練り万全の体制で臨んだ。貯金や借金などの現状を調べることで、財政に関する研鑽を積むこともできた。財政というと堅苦しい印象があるので、分かりやすい言葉での講話を心がけた。ここ数年、コロナ禍や物価高騰の影響で、地域経済も厳しい状況にあり、その生活支援の取り組みを中心
今年の芥川賞に九段理江さんの「東京都同情塔」が選ばれた。「トーキョートドージョートー」という言葉の響き、きれいな韻を踏んでいていいね。 芥川賞とは、新進作家による純文学の中から優秀な作品に贈られるものである。純文学のことはよくわからないけれど、素晴らしい作品であることは間違いなさそうだ。ビビッときて発表の翌日には図書館で借りて読んだ。 建築の側面からも読み応えがある小説で、三島由紀夫の「金閣寺」の一節に触れるところも良かった。九段さんの受賞インタビューで、建築小説として
「雪花が散る」。岡山に越してきて初めての冬、耳にしたこの言葉が今でも心に残っている。この地域の方言なのかどうか定かではないが、以前住んでいた街では使われることはなかった。 雪の降る様子を花が舞い散る姿にたとえ、先人たちは「ゆきばな」と表現し、長いこと言い伝えられた言葉なのだろう。 天気予報によると、その日は強い寒気が中国地方の上空を覆い、最低気温は氷点下3度、晴れ。青空が広がる冬の朝、肌を刺すような風が吹いている。風の匂い、強さからして、なんとなく雪が降りそうな気配がす
島崎藤村の代表作「破戒」を鑑賞する機会があった。藤村の生誕150年に当たる昨年、60年ぶりに新たに映画化されたものである。破戒は近代文学の黎明期の作品だと、学生の頃に教わった気がする。 明治維新が起きると、人々は職業選択の自由を得た。身分を超えた恋愛も可能となった。しかし実社会において、差別や偏見はどうだったのか。藤村は文学の手法を用い、青年教師の生きる苦悩を余すところなく描いている。 心に残った映画のシーンは、青年が恋人のお志保と出会う場面。部屋に置き忘れた「みだれ髪
クイーンニーナという品種のブドウに出会ったのは、5年ほど前のこと。「いい香りがして、うまいんだよ」と生産者が太鼓判を押します。一口いただいてみると、ほっぺが落ちそうな感じです。珍しさもあり、その名前と味をすぐに覚えることができました。 仕事の関係で、彼のブドウ畑に足を運ぶ機会がありました。空色のヘルメットをかぶり作業に励み、下草を生やさないよう、丁寧に圃場を管理しているのがとても印象的でした。接ぎ木のこと、種を除くジベレリン処理のこと、そして摘粒のこと。いくつもの行程を熱
「釣りに行こう」と息子に誘われ、小さな漁港に行きました。小学生の頃、よくハゼ釣りをしていた穴場です。波止場で釣り糸を垂らしていると、海風が潮の香りを運んでくれます。釣り竿からは、ぴくぴくと心地よい振動が伝わります。 海の沖では、もくもくと入道雲が浮かんでいます。トンビの声が聞こえる山の方向を眺めていると、たなびく秋のうろこ雲。季節の違う雲が、同時に現れることがあるのだろうか。不思議に思い、調べてみることにしました。 入道雲とうろこ雲が一緒になって、空に現れていることを「ゆ
白く美しい花を咲かせることに成功しました。そよ風にたゆたうサギソウの花。それはとても可愛いらしく、飽きることなく眺めていられます。 昨夏の終わりに、偶然この花を頂いたことが育てるきっかけとなりました。「水を切らさないように」というアドバイスをもらい、秋から冬にかけて注意深く水やりを続けたのです。すると、親株から新しい球根を増やすことができました。 春になり、土の中から小さな芽がぴょこぴょこと顔を出しました。やがて葉っぱは成長し、空に向かって両腕を広げます。「僕たちはここ
休日の午後、テレビを見ながらストレッチをしていると、ある番組が目にとまった。その名も筋肉関ヶ原。「いつの時代も筋肉は裏切らない」と合戦の地で筋トレを紹介するものだ。 知人の勧めで、3月から下半身強化のためスクワットを始めていた。さらに背筋を鍛えるいい運動がないかなあ、と思いあぐねていたところ、期せずしてこの筋トレ番組に出会った。椅子に浅く座り背中を丸めながら前屈し、顔をあげて背中を反らす。さっそくリビングの椅子を使ってやってみた。 番組では背筋のほかにも、腹筋や上半身を鍛
5月下旬、吉井川河川敷で総合水防演習が実施され、スタッフの一員として参加しました。2018年7月の西日本豪雨の時には、職場のある吉井川流域でも避難所が開設され、集落に隣接する堤防すれすれのところまで水位が上昇し、危険を感じたのを覚えています。 水害時において、地元消防団には排水作業や復旧作業など、多大なるご尽力をいただいております。水防演習当日も、河川水位が上昇するという想定で、消防団員は河川氾濫を食い止めるため、各種工法訓練を実施しました。 また、今回の演習では、地元の
1年の四半期ごとに訪れる、人前でのスピーチが目下の悩みだ。「聞き手の反応を見ながら、話し方を工夫する」と教則本には書かれている。いざ実践してみると、なかなかもって難しい。 出番の前には、心臓のばくばく音までマイクに拾われるのではないかと不安になる。強調したい大切な部分を大きな声で説明しようとすると、声が裏返る。まさにアドレナリン全開の臨戦態勢だ。 視線を聴衆に向けて語りかけた後、原稿に目を落とすと一瞬ピントが合わない。いよいよ年をとった。次の瞬間、説明していた箇所を見失い、同
防衛費増額については、本国会において大きな課題として議論されています。特に衆議院予算委員会では、野田佳彦元首相や石破茂元防衛相らが、政府の見解を求める姿勢には迫力を感じました。 野田元首相は、防衛費増額の財源を東日本大震災の復興特別所得税の一部転用で賄う岸田政権の方針に対し、直球勝負で詰め寄る姿勢が表れていました。また、石破元防衛相においては、敵基地攻撃能力保有で強化される日本の抑止力について、持論の防衛に対する熱弁からも、並々ならぬ安保外交への思いを感じ取ることができま
サギソウの親株を去年の夏の終わりにもらった。花が咲き終わった後も水やりを続ければ、次の年も球根が増えると聞いたのでやってみた。新芽が出る前の1月の終わり、恐る恐る鉢を掘り返してみた。 「あった!」。土の中をピンセットで丁寧にほじくると、明らかに土の塊とは違う白いちっちゃな球根が出てきた。幼稚園の芋ほりで、シャベルで掘り当てた時と同じワクワク感がよみがえってきた。 サギソウの花が枯れた後、水やりをしていた時期は、本当にうまく球根が育っているのだろうか、と心配だった。でも残
娘は来年、成人式を迎えます。節目に着物を着たいと彼女自身で決めました。若葉から青葉へと移り変わる6月に生まれた娘は、深みある緑色の振り袖を選びました。 前撮りは家族で一緒に行きました。普段は面倒くさがり屋の娘ですが、長時間の気着けと写真撮影をずっとニコニコして楽しんでいました。娘にとって着物は、七五三のお宮参り以来です。何重にも重ねて着付けしてもらい、小物や飾りを合わせる度に、鏡に映る自分の姿に驚きと喜びの表情を見せてくれました。 着物は日本人にとっての伝統的な衣装です
今年、サッカーJ2のファジアーノ岡山は、選手たちの躍動が素晴らしかったです。リーグ戦は3位で、最高のシーズンを終えることができました。 私は、息子がサッカースクールに入ったことをきっかけに、ファジアーノのファンになりました。息子は小学1年から5年までサッカーに励んでいました。夏の炎天下も、凍えるような冬の日も練習や試合に付き添い、応援していた日々は、中学生になった息子との大切な思い出です。 昨年はコロナ禍でファジアーノの試合観戦は少なかったけれど、今年はコロナ対策を万全