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東京都同情塔

 今年の芥川賞に九段理江さんの「東京都同情塔」が選ばれた。「トーキョートドージョートー」という言葉の響き、きれいな韻を踏んでいていいね。
 芥川賞とは、新進作家による純文学の中から優秀な作品に贈られるものである。純文学のことはよくわからないけれど、素晴らしい作品であることは間違いなさそうだ。ビビッときて発表の翌日には図書館で借りて読んだ。
 建築の側面からも読み応えがある小説で、三島由紀夫の「金閣寺」の一節に触れるところも良かった。九段さんの受賞インタビューで、建築小説として金閣寺を参考にしたと述べられていたのも納得。建築家は鉛筆で描いた設計図を、未来へ引き継いでいく構造物として現実化する。新宿御苑から見上げる巨大建築の塔がテーマの一つであるならば、実際その場に立ってみたいと思った。
 作家はあらゆる言葉を使って、建築家の思いを美しい文体で積み上げる。だとすると純文学とは、言葉で表現することの美しさであろう。

ザハ・ハディドの国立競技場が建つ東京

 黄昏時に刻一刻と豊かに表情を変えていくスタジアムの屋根に陶然と浸っていた。
 夕焼けが夜に完全に侵食されると、スタジアムの全体は幻想的な紫色の光でライトアップされ、東京の景色を一瞬にして何十年も加速させた。

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