バリ山行
岡山市中区にある龍ノ口山に登るのが好きだ。頂上を目指す登山ルートのバリエーションのうち、八幡宮の参道である四御神登山口からのルートは歩きやすい。山頂付近では旭川を一望でき、悠大な河の流れ、吹き抜ける風が心と体を癒してくれる。
そんな山登りを題材とした小説「バリ山行」が芥川賞に選ばれた。神戸、六甲山が舞台の「純文学山岳小説」だ。市街地近くの低山で登山を楽しめる点は、龍ノ口山と親和性がある。
分け入った自然の中での登攀は、際限のない藪、傾斜との闘いなど難所がいくつもつきまとう。まるで日常生活で遭遇する困難な場面と対峙するような心境だ。山登りは時として人生に例えられ、どのように生きていくべきかを考えさせられる。
美しい山の描写、サラリーマンの苦悩、人生のままならなさ。エッジの効いたその三点支持ががっちり岩場の斜面に突き刺さる見事な山の小説だ。著者である松永K三蔵さんの純文学愛に満ちた表現がすこぶるおもしろかった。
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