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コミュニケーションを良い状態に導く課題とは #30 自己開示
人は、目的を果たす上で、一人で成し遂げることができることには限界があります。
そのため、同じ目的を持った人たちと共に組織を形成します。
しかし、例えば、同じ目的を持っていたとしても、そもそもの人格は違います。
結果、目的をを実現させる考えも人それぞれです。
対して、組織の中で、考えが違う状態の人たちを放置すると、セクショナリズムやエゴイズムを生み出し、良好な組織の状態とはいえなくなってしまいます。
コミュニケーションが良好な状態の組織には、全体性(ホールネス)が求められます。
全体性とは、組織において「偽りの仮面を被る必要のない、ありのままの自分で仕事ができる状態」といえます。
しかし、現実は、自分と他人は違うという認識や職場で仕事用の仮面を被って過ごし、家に帰るとその仮面を外すといったような、自分の中で精神的に分離した状態である場合が少なくありません。
全体性が伴った組織のコミュニケーションとは、そのような状態を克服し、互いが深く結びついた全体の一部だと認識した状態であるといえます。
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それは、自己啓発書あるいはビジネス書として長年に渡ってベストセラーである「7つの習慣」の中にある「インサイド・アウト」のパラダイム(モノの見方)に通じるかと思います。
「インサイド・アウト」のパラダイムとは、「外部環境(アウトサイド)を変えたいのであるならば、まずは自分自身(インサイド)から変えることが前提」となる考え方す。
「アウトサイド・イン」から「インサイド・アウト」へパラダイムチェンジする過程を可視化させるに最適なのが、「ジョハリの窓」ではないかと考えます。
「ジョハリの窓」とは、コミュニケーション心理学者のジョセフ氏とハリー氏によって考案されたコミュニケーションの状態を可視化させるフレームワークです。
自分自身に対して、横軸は、「自分は分かっている」、「自分はわかっていない」、縦軸は、「他人が分かっている」、「他人は分かっていない」で4つの窓(フレーム)に分割したものです。
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①開放の窓
自分も、他人も分かっている自分です。
ここは自分が考えている姿と、他人に見えている姿が一致している状態を示します。
つまり、この領域が広がれば、広がるほど、良いコミュニケーション状態ということです。
②盲点の窓
他人は分かっていますが、自分は分かっていない自分です。
裸の王様ではありませんが、ここの領域が大きいと、良いコミュニケーション状態をつくることはできません。
他人からのアドバイスに懐疑的にならずに、自分自身の改善にフィードバックすること、傾聴することが大切です。
③秘密の窓
自分は分かっていますが、他人は分かっていない自分です。
本当の自分を他人に隠している状態で、ここの領域が大きいと、良いコミュニケーション状態をつくることができません。
自分を分かってもらうために自分をオープンにする必要があります。
④未知の窓
自分にも、そして他人にも分かっていない未知あるいは潜在的な可能性の自分です。
この価値を開花させることができたら、飛躍的に成長できます。
新しいことにチャレンジすることで、この領域は小さくなりますが、チャレンジすることで、新しい未知の可能性が生まれるとも言えます。
ジョハリの窓でコミュニケーションの状態を可視化させて、その能力を高めるためには、如何にして、①開放の窓を広げることができるかであると理解できるはずです。
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例えば、初対面の人や付き合いの浅い人とは、相手の性格や考えを理解し難いため、どうしても警戒心を抱いてしまいます。
その意味でも、組織では、自己開示し合うことが大切となります。
自己開示とは、相手が心を開いてくれるような自分を晒すことなのかと思います。
勘違いしてならないのは、決して、個人情報を開示することではありません。
また、意味のない情報、ましてや自分本意の情報では、相手にとって迷惑なだけです。
相手から自己紹介を受けたり、郷里の話や趣味の話、家族の話などをされると警戒心が和らぐはずです。
反対に、初対面であるために、良い印象を与えようと、自分を繕おうとすると相手に見透かされ、逆に警戒心を高められてしまうかもしれません。
このように自己開示とは、コミュニケーションの状態を高めるために、自分自身がどんな人間かを相手に伝えることであると言えます。
人には、現状を現状のまま維持したいと思う無意識の欲求があるとされ、それを「現状維持バイアス」といいます。
それを考えると、この「開放の窓」を広げるということは、「現状維持バイアス」を破ることでもあるともいえます。
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遠慮したり、リスク過敏になったりして現状維持バイアスを張らずに、自己開示して、「①開放の窓」を大きくするための行動が大切となります。
また、社員が自己開示する上で、組織は、安全、安心の場である必要があります。
加えて、自己開示とは、利己的なエコイズムの主張をすることでもありません。
このバランスを保つことも組織としては非常に重要なのだと考えております。