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【伝統工芸に学ぶ教育論】第18章:筆

筆という道具が持っている役割と可能性を考える。人類の歴史を残すために、先人たちは「書く」という方法を選んできた。「書く」とは何なのか?私たちが「書いてきた」ことで、何を得てきたのか?「書く」道具である「筆」とは何なのだろうか?
守り継ぐために考えてみたい。




18-1:筆-脳を喜ばせる道具

「筆」は、人類の発展に大きな役割を果たしてきた道具と言える。
古代から筆は、単なる書くための道具以上の存在として、知識の伝達や文化の継承に不可欠な役割を果たしてきた。筆を使って書くという行為は、手の繊細な動きと脳の複雑な働きが結びついており、これによって人間は思考を表現し、知識を蓄積し、次世代に伝えることができた。

現代においても、ビジネス本を席巻する「書く」カテゴリーの本の数々。

私も、仕事や人生をより向上させるために学生時代から10年以上ノートを書き続けている。学び、ひらめき、記憶などだが、今や「人生そのもの」「生きた証」「遺書」のような存在になってきた。

<450頁を超えるライフログ、ノウハウノート>

現代で言えば、「書く」作業は、筆から鉛筆、ボールペン、シャーペン、万年筆へと変わってきただろう。
書くという作業は、手の動きが非常に細かく、脳の運動野や感覚野が活発に働く。これは「脳を喜ばせる」行為であり、筆を通して書くことは脳に快感を与え、集中力や創造力を高める効果がある。特に、書道や美しい文字を書くときは、心が落ち着き、手と目と脳が一体となってリズムを刻むため、瞑想に似た効果をもたらすのである。

筆者も、名前を書き並べ、瞑想的な効果を得て、潜在意識を向上させる文字靈®にも触れてきた。


この一連の過程は、文字を書くという行為が単なる情報伝達を超えた、脳を刺激し、喜ばせる行為であることを示している。

18-2:人類発展の道具

また、「筆を使い、書く」行為は、人類の文化や文明の発展においても重要な役割を果たした。筆を使って文字を記録することは、知識を蓄積し、共有し、発展させるための基本的な手段となった。古代から中世にかけて、書かれた記録や文書は、文明の発展を支える基盤となり、筆はその中心的な道具として使われてきたのである。
※記録や文書に関しては、和紙の章で紹介する

18-3:手本という美意識の継承

文字には「手本」があり、誰もがその手本を参考にして、同じ形を目指して書くことが基本となる。この手本は、文字の形が正確で美しいとされる基準を示しており、文化的な価値観が反映されている。
例えば、漢字やひらがな、カタカナといった日本の文字には、書道の世界で「美しい形」とされる手本が存在し、それに基づいて文字が書かれている。この「手本に従う」という行為は、書く人が皆、同じ美的基準を共有していることでもある。手本を目指して文字を書くことは、単なる実用的な行為ではなく、文字の形そのものを「美しい」と感じる美意識が働いていると言える。つまり「美のフォーマット」である。習字コンクールでも、「金賞」「銀賞」があった。学生の頃を思い出してほしい。「これは間違いなく金賞だね。」と、皆で意見が一致していたと思う。日本での生活、はたまた遺伝子のレベルで「美のフォーマット」が組み込まれていることが理解できる。これは、日本の書道文化だけでなく、世界中のさまざまな文字文化にも共通している。たとえば、アルファベットやアラビア文字にも美しいとされる書体やフォーマットがある。これらの文字を使う人々は、書く際にその美しさや正確さを意識しながら筆やペンを動かし、均整の取れた形を目指すわけである。この「同じ形を目指す」プロセスには、人間が美しさを共感し、共通の美的基準を理解する能力が関わっている。

18-4:母国語でない人でも感じる漢字の美しさ

興味深いのは、例えば日本語を母国語としていない外国人も、その日本文化圏の漢字やひらがな、カタカナに美しさを感じることが多い。書道やカリグラフィーを学ぶ外国人は、文字そのものを読めなくても、その形やバランスに美しさを感じるという。これは、人間が持つ普遍的な「美意識」が文字の形にも作用している証拠である。文字の美しさを判断する基準は、その文化特有のものもあるが、同時に普遍的な要素も存在する。直線と曲線の調和、バランスの取れたレイアウト、余白の使い方などは、どの文化においても共通して「美しい」と感じられる要素である。このため、言語の違いを超えて、文字の形そのものに対する感覚的な評価が行われ、外国人でも「美しい文字」を認識できる。
ちなみに、日本の漢字や書道は、外国人にも非常に人気があり、彼らは漢字の意味を知らなくても、その形や力強さ、流れるような線の美しさに魅了されます。逆に、日本人がアルファベットのカリグラフィーやアラビア文字の装飾的な書法に美しさを感じることも同じ理由だろう。文字の形は、単に情報を伝えるツール以上に、視覚的にも脳に強い影響を与える。

18-5:筆と文字-美しさを共有する人類の共通価値

筆を使って文字を書くことは、人類全体が文字を通じて共通の「美意識」を育んできたと記述したが、各文化にはその文字の美しさを追求する面もあり、人々の精神性や感性が磨かれていく。
「書く」行為を通して、脳を喜ばせる道具となり、美意識、感性を磨く道具となった。そして手の微細な動作と脳の活動が結びつくことで、集中力や美意識も磨かれていく。文字には手本があり、同じ形を目指すことで「美しい」と感じる共通の基準が形成され、母国語でない外国人でもその美しさを認識できることは、人類の共通価値と言える。
そして、AI時代の今こそ、「漢字」「文字を書く」など日本文化の価値を見つめ直し、誇るべきでもある。文字を通じて表現される美しさは、文化を超えて感覚的に共有されるものであり、筆という道具は、歴史、記録、知識や感性、そして美意識を伝えるための重要なものである。


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