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エッセイ/ナイト様
僕は湿気が苦手。
だから梅雨時期は堂本剛並みに正直しんどい
高い湿度の空間内では身体がムズムズ、ぞわんぞわんでね。
高校の修学旅行で高額の積立金のもとオーストラリアの熱帯雨林に行ったことがあるのだが、高湿度と高温度のケミストリーでナヨナヨしながらアボリジニのぶっといブーメランを買ったという高歯痒さ度の記憶がムズムズと残っている。
今年になって僕ってほんとうに阿呆だなと実感を搾り倒した出来事がある。
「除湿機」
除外の除に、湿度の湿、機械の機。
何年も湿度に悩んでいた分際にも関わらず、湿気最重要対策本部もいの一番に推奨するであろう除湿機を、今年初めて購入したのだ。なぜ故こんなにも名は体を表すマシーンを購入しなかったのか、ほんとうに謎である。
これは僕の頭の中に除湿機の存在が希薄にも存在しなかったことだけが問題ではない。
「除湿機買うたらええやん!」
と言っていただける人間関係を構築しなかったツケが回ってきたとも捉えられる。
そして、「湿度でお悩み」とヤフらなかった情報社会の波に横乗りしきれていない僕の鈍感なアンテナもとにかく憎い。
電気屋から届いた除湿機は、段ボールの中に発泡スチロールでガチンガチンに保護られながら我が家にやってきた。ああ、僕も今日からはこの除湿機様にカランカランに保護られるのであろうと思い、丁重に若葉マークを白い機体に貼っては、運転をオンにした。
除湿機様、否、騎士様が僕の周囲の湿気を槍で切り裂いていく。
3時間ほど稼働しただけでなんリットルもの水分を体内に取り込んでいるではないか。
なんて素晴らしいんだ。
ほんとうにもっと早く購入すればよかった。
ジメジメしないやん。これはもう冬やん。
騎士様と一緒にアボリジニのダンスを、オーストラリアで観たかったと心の深海から思った。
それからというもの僕は騎士様に夢中on夢中
除湿機狂いの乾燥人間はテレワークで働く。
そのため、仕事中も晩御飯でぽけーっとコロッケを頬張っているときも、寝ているときも、どんなときもどんなときも騎士様と一緒にいた。
よく働く騎士様はいつも水を蓄える。
「お前ら!全部俺のもとへ来い!この部屋の水分全部俺が受け止めてやる!」
たくましいとはこのこと、「無人島にひとつだけ持っていくならなに?」という明日地球が終わるなら最後に何食べたい?くらいに聞き飽きた問いにようやく答えが出たのであった。
ある土曜日の休日、たっぷり眠った僕は気分良く目が覚めた。部屋の湿度も上々だ。
しかし、何故だか左眼が痛い。
少し様子をみようとボケーっとウマ娘でゴールドシップを育成していたが、やっぱり左眼が痛い。
眼科に行こう。
私はペ・ヨンジュン来日の空港の様に混雑している
土曜日の眼科の待合室で2時間ほど待ち合ってようやく先生に診てもらった。
バイ菌が入ったか、ものもらい的ななにかかと思い、
器具に顎を乗せておでこをくっつけるタイプのレンズを覗き込むと先生が開口一番言い放った。
「黒目が傷ついてますね。乾燥した場所にいます?」
先生は超能力者か?僕のバックボーンを見透かしていた。
「あ、はい。除湿機とともにしたたかに暮らしております」
「乾燥しすぎると眼球って傷ついちゃうんですよね。
目薬出しておきますので寝るときの乾燥はとくに注意して下さい」
騎士様に陶酔しきっていた僕には酷すぎる結末だ。
チョコレートも、恋愛も風邪薬も、用法用量があり
行き過ぎた先には必ず落とし穴がある。
乾燥によりお肌がカサカサくらいは範囲内とワセリン片手にたかをくくっていた僕にとって、この一連の流れは、身をもってそれを体感した話しである。
騎士様。酷使でほんますんまへん。
口を阿呆面に開けながら僕は目薬で泪を隠した。