#8-2 リーダーの「心のスキル」が組織を変える。社会全体のポジティブチェンジの実現ー髙橋理里子さん
こんにちは。「ワーク・ライフチャレンジ〜未来をひらく私たちの働き方〜」8話目後編は心の知能指数であるEQを軸に、「社会全体のポジティブチェンジの実現」に取り組んでいるエピソードをお届けします。
本日も、ミライズ株式会社/代表コンサルタントをはじめとして、様々な分野での委員としてご活躍の髙橋理里子(たかはし りりこ)さんをお迎えし、福島県よりお送りいたします。
先週は、ワーク・ライフバランスに取り組まれるきっかけについて、息子さんの一番の理解者なりたいという想いからキャリアカウンセラーの道を選ばれ、人々の困りごとを解決し、課題を乗り越えるお手伝いをしたいという思いで発展していかれたお話を伺いました。
>>前編記事 #8-1 息子への想いが原点。人をつなぎ社会全体の課題解決へー髙橋理里子さん
ワーク・ライフバランスの取り組み
リーダーに重要なEQ教育。日本とアメリカの違い
──前回の最後にお話いただいた「EQ」について お伺いできたらと思います。
髙橋さん EQは、感情のエモーショナルのE、 いわゆるIQの知能指数に対して感情指数であるということは、前回お話しさせていただきました。皆さんは、会社で「仕事に感情を持ち込むな」と言われたことはありませんか。
実は感情は、仕事をする上でもすごく大事なのです。日本では、「仕事に感情を持ち込んではいけない」という捉え方をしているのですが、 アメリカなどでは、「感情」こそが仕事のパフォーマンスを高めると言われています。ただし、自分だけのエゴ的な感情と、EQは違います。
例えば、子供が保育園や幼稚園でブランコの順番の取り合いとかで、喧嘩になることがあります。日本では、先生が仲裁に入り「そういう風に怒る感情は、ダメだよ」とどちらかというと抑えるような教育をしています。しかし、アメリカでは、決してそういう抑えつけをしません。
「悪い感情」という言い方をしないのです。怒りや悲しみを出したり、いつまでも泣いたりするのは、良くないことではなく、まずは、その感情を受け止めます。その上で、相手はどう思うか、自分はどう感じるかを考え、一つ一つの感情と、どういうふうに付き合っていくかという、SEL(ソーシャル・エモーショナル・ラーニング)を、小学校の頃から取り入れており、今では必須科目になっています。しかし、日本では同じ段階でも、そのような感情教育を受けていません。
そのため、誰でも感じるはずのジレンマ、人を羨ましいと思う、いわゆる妬みや、他人と比較して自分を卑下するのは、「悪い感情」であるとしてしまいます。さらに、それを仕事に持ち込んで、仕事のパフォーマンスに影響が出るのは良くないと会社の上司が言ってしまうのは、感情教育が全く異なるから起きてしまうのです。
ですので、すごく仕事できる人が、リーダーになっても「あの人、すごく仕事はできるけど、人としてちょっとね」という風になり、うまくいかなかったりすることがあります。
前川 確かにありますね。
髙橋さん 逆もまた真なりで、そこまで成果をあげていなくても、すごく相談しやすくて、親身になって話を聞いてくれる人がリーダーになった途端、チームがとても元気になって、パフォーマンス上がったということがあります。
実は、それがEQの差で、IQだけが全てを解決するものではないということに、いろんな企業さんで気が付き始め、EQ教育を導入し始めております。まだ、日本では、知名度が低く「感情=仕事の邪魔者」的な扱いがあり、EQでパフォーマンス上がるということを、広める活動をしているところです。
前川 ありがとうございます。EQにはすごく興味があり、情報としては知っておりましたが、子供に対してのEQ、そして働く現場でも、こんなにも影響するものだということは、知りませんでした。大変、素晴らしいお話をお聞きすることができました。
2024年問題でのEQの活用法
──実際に、2024年問題として、建設業や運輸業、または別の分野の病院など、いろいろな現場があると思いますが、例えば、EQはどのように、活用されるのでしょうか。
髙橋さん ありがとうございます。まさに、2024年問題に直面している企業さんからのご相談が増えております。ご存じの通り、時間を守らなければいけないという逼迫した状況があるのですが、その中で、EQは心理的安全性を担保するために、欠かせないものです。
「心理的安全性」という言葉はすごく認知されてきました。具体的にどのようにして、心理的安全性を職場に担保するのかと言われた時に、上司の叱咤激励方式のマネジメントだと、言いたいことが言えません。
そこで、若手が「わからない」と思っても、「これ聞いたらまた叱られるのかな」とか「お前、何回、聞いたらわかるのか」と言われるのではないかと不安になります。そうすると、もう心理的安全性はありませんよね。
その時、上司がしっかりとEQを持っていると、きちんと感情にフォーカスすることができます。相手が一体何に困っているのか、言葉の背後に何があるのかという視点を持ってもらえるので、心理的安全性を作りやすくなります。
そうすると、部下が安心して、上司に相談しやすくなります。上司も、部下からの報告・連絡・相談ができていないからと怒るのではなく、「何か困っていることないか」と自ら関わっていくことで、1人で抱え込んでいた部下も、ちゃんと見えるようにオープンにすることができ、困っていることに対しても協力を求めやすくなります。
今、お話ししている2024年問題に対しても、同じです。それが医療であろうと、建設の現場であろうと、運輸業であろうと、これは共通でお伝えしているものです。
前川 ありがとうございます。
──例えば、ロジカル寄りな建設業と感情労働の職種が多い病院のように、働いている現場が全然違う考え方だと、EQの取り組み方にも違いがあるのでしょうか。
髙橋さん 全てが全て、EQにこだわっているわけではありません。コーチングもしておりますが、家を建てる時の道具のように、ロジカルシンキングも、製造の現場なんかでは、使っています。ボトルネックを探したりするのに絶対的に必要なものなのです。
ロジカルシンキングで、課題はどこにあるかとみんなで要因分析を意見を出し合います。分析を進めていく中で、ラスボス的な課題を見つけて、意見を出し合って、作戦を立てるところまでは進みます。
しかし、いざ進めようとなると、頭ではわかっているけど、何か腑に落ちず、感情がついていかず、モヤモヤ感で始めの一歩が踏み出せないということが、よく起こります。
それこそ、まさにEQの領域で、頭ではどうしたら良いかをわかっているのに、なぜ自分は踏み出せないのかということを、なかったことにすると、結局、職場は停滞してしまいます。そこに対しての私たちのやることとしては、問いを立てることです。
始めの一歩が踏み出せないのは、きっと何か理由があると思います。個別には「今、1番気になっていることはどんなことですか」や「それをやらないこと、もしくはやったことによって、ご自身の感情はどんな風に変化が起きそうですか。」と感情にフォーカスした問いを立てます。
そうすると、内省が深まっていくので、「なるほど、自分はこれがとても気になっていて一歩が踏み出せないでいたのだ」ということがご自身の中で、ご理解いただけると、先に進めるようになったということがあります。
しかし、逆もあります。感情だけの場合は、例えば、対人支援の福祉の世界や幼稚園の先生とかだと、やっぱり感情が一番大事になってきます。しかし、そんな中で、感情だけでいくと、今度は感情がすごく先走ってしまって、ロジカル的な考えを忘れがちになります。
そういった時は、逆に感情が暴走しないように、みんなでロジック的に考える方に意識を向けてもらいます。今、お話ししたように、業種や職種によって全く考え方が違うので、ツールの使い分けと問いの立て方には、すごく意識しております。
前川 ありがとうございます。ツールの使い分け、問いの立て方と、今、伺いましたが、その問いの立て方というのに、非常に興味深いと思っております。
──例えば、社内でそういった推進する時に、リーダーが問いを立てていくコツや進めていく方法というのはあるのでしょうか。
髙橋さん そうですね。身も蓋もない答えになりますが、やっぱり経験値が大事かと思います。昭和から脈々と繋がって、プレイヤーとして優秀な人がリーダーとしてどんどん登用されていくというのが、日本の昇進のデフォルトになっている気がします。
その方たちは、おそらくプレイヤーとしては素晴らしいのだけど、コーチングや、いろんな関わりの部分や、問いの立て方などの教育をしっかりと受けていないままに、その期待を受けて上に上がってしまっている方が、おそらくとても多いと思います。
だから、私としては、リーダー本人の責任にするのではなく、企業がきちんとそういった方たちに、リスキリングの機会を与えてあげて、新たに必要なスキルをきちんと身につけていただくような機会を作るというのが大事ではないかと思います。
日本では、「働き方改革」とは、残業しないで帰ることや、きちんと有休を取ることを、全て本人の努力に任せようとしている傾向が、とてもあります。ですので、そういったスキルの身に付け方にも、単に頑張れと本人のみに任せるのではなく、きちんと学びの時間を作ってあげてほしいです。
そのためには、企業が設定した研修会も必要です。自らが、内発的モチベーションで「学びたい。こんな資格を勉強したい。」と言った時に、長時間労働をしていたら、その時間は作れないので、ちゃんと定時で帰れるようにし、学びの時間を取れるようにすることが、すごく大事ではないかと思っています。
前川 ありがとうございます。本当に、そうですよね。ダイバーシティが求められ、多様な背景を持つメンバーがいらっしゃる中で、それぞれに合わせたリーダーとしてのマネジメントについて、新たに勉強をする時間は重要だと思います。
そういった意味でも、長時間ではなく、業務時間内でお仕事を終わらせて、帰ってから自己研鑽に充てる時間を確保できるような環境づくりをお願いしたいですね。
フラットな社会を創り、社会全体のポジティブチェンジの実現へ
──もう一つ、お伺いしたいのですが、ミライズ株式会社さんで、「社会全体のポジティブチェンジを実現」というテーマを掲げられていると思いますが、これについて、髙橋さんご自身の想いをお伺いできたらと思います。
髙橋さん ありがとうございます。ポジティブチェンジなんて、ものすごく大それたこと言っていると思われていると思いますが、今でなくてもいいのですが、 100年後かもしれないし、500年後かもしれないし、宇宙の向こう見ている話になりますが、フラットな社会を創っていきたいです。
今、よく言われているダイバーシティは、いろんな人がいるだけの多様になっていて、同様に、よく耳にするインクルーシブですが、その人たちが、それぞれの個性を出し合って、力を発揮できパフォーマンスが上がっているのかというと、意外とそうでもないと思います。
マイノリティとマジョリティのよう区分ができてしまっていると思います。2030年度の女性管理職比率30%目標も、実は30%になるとマイノリティじゃなくなる、というデータがあるからこその目標値なのです。だから、障がいのある方やLGBTQなど、色々ありますが、いろんなものに対して、冠がつかない、本物のインクルーシブになってほしいという想いがあります。
女性活躍とは言いますが、男性活躍とは言わないですよね。そういう想いがあって、社会全体のポジティブチェンジという、ものすごく大きなものを掲げているという感じなんです。
前川 ありがとうございます。そのビジョンを掲げている髙橋さんが、名乗られているお言葉がある、と伺ったのですが、お聞きしてよろしいですか?
髙橋さん そこに、あえて触れてしまうんですね(笑)。実は未だに私、自分のことをコンサルタントといことに、まだピンと来てないのです。前回も申し上げた通り、なろうと思ってコンサルタントになったわけではなく、やっていてそうなっていった、という経緯があるんですよね。
コンサルタントとして見られるようになり、最初は、自分の肩書を説明することに、とても困って、「地球の平和を守る地球防衛軍です!」と答えていた時代があったんですよね。それが今前川さんがおっしゃった名乗っていた言葉になります。そして最近やっと、コンサルタントと名乗っていいのだと、自分の中で腑に落ちてきたかなという感じです。
前川 地球防衛軍のエピソードをいただきありがとうございます。「フラットな社会を実現する」そして、「ポジティブチェンジを実現していく」ということ。やはり様々な人材育成や育児の経験で培われたビジョンかなと思うと深く共感します。
ぜひ、地球防衛軍の隊長の髙橋さんを、これからを応援していきたいと思います!
髙橋さん ありがとうございます。隊員絶賛募集中ですので、よろしくお願いします!
前川 はい。私も隊員の1人に加えてください!もっと学びを深めて髙橋さんについて行きます!では最後に、髙橋さんの「今日からできる!一つのアイデア」をお願いいたします。
「今日からできる!一つのアイデア」
髙橋さん 女性の方からのご相談受ける時、企業に女性活躍のセミナーや伴走支援の依頼があると、大体ご担当者が女性で、その方も悩んでいたりします。決して役職のついた管理職になりたくないわけではないけれど、「今の上司を見ていると・・・」という、どこにでもあることの悩みのご相談をされます。
家庭のパワーバランスも当然、悩みとして出てきます。ご主人との関係や役職について、例えば、「ご主人が主任クラスで、自分が係長とか課長になってしまった」などです。「女性は、キャリアと私生活を、天秤かけなきゃダメですよね」と皆さん色々悩まれております。
決めるのはご本人ですが、ただ一つだけお伝えしていることがあります。それは、「やりたい仕事ができるポジションにこだわる」ということです。
役職や立場にこだわるのではなく、今、自分が仕事をしていて楽しいと思えることや、やりたいと思えること、やりがいを感じられるものを絶対皆さんお持ちだと思います。全くないという方はいないと思っています。
例えば、プロジェクトに関わったり、お客様からの嬉しいお声をいただいたりして、それぞれにやりがいを感じたりすることがあると思います。この会社で、この仕事で、自分は何がやりたいのか、やりたい仕事ができるポジションとは何かを考えてほしいと思っています。
一般の社員という立場では、見えない風景もあれば、聞いてもらえない状況もあります。主任や係長になったら、見える風景が変わって、話を聞いてもらえるようになったということもあるので、自分がやりたい仕事、それができるポジションというのにこだわってほしいと、毎回、力を入れてお伝えしています。
女性に限らず、若手の男性でも、もし、今、自分のキャリアに悩んでいる方がいたら、ぜひご自身のやりたいことができるポジションということを大事にしていただいて、管理職というポジションにこだわるのではなく、そこの想いを大事にしていただけるといいなと思っています。
前川 ありがとうございます。やりたい仕事ができるポジションですね。役職など、分かりやすいことでキャリアアップを目指すものだと思っていました。自分自身がやりたいこと、そのやりたい仕事というのを理解した上で、それが叶うポジションにこだわっていくというところは、自分の仕事に対して、前向きに捉えていけますよね。
そして、何をしていくか、ということから、そのポジションこだわっていくことで、本気で勉強をして、仕事に成果を出していくというところに一番繋がっていくのかと思います。すごくいいお言葉だなと思いました。この言葉、今の自分にも大変響きますし、ぜひ皆さんにも、伝えていきたいと思います。素晴らしいお言葉をありがとうございます。
髙橋さん ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです。
前川 ありがとうございます。まだまだお聞きしたいことがたくさんありますが、エンディングのお時間となりました。
髙橋さんはお仕事でも大活躍されていますが、ライフの面でも活動されていると伺っております。捨てられている子猫の保護をされてとってもかわいい猫ちゃんがご家族にいらっしゃったり、地域活動も活発にされており、ぜひ別の機会に伺いたいと思っています。引き続きよろしくお願いいたします。
髙橋さん はい、よろしくお願いします。本日はありがとうございました。
前川 貴重なお時間いただきまして、ありがとうございました。
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株式会社ワーク・ライフバランス
経営戦略としてのワーク・ライフバランス福利厚生の一環ではなく、企業業績向上のために。 現代の社会構造に適応し人材が結果を出し続ける環境を構築する「サスティナブルな働き方改革」のプロフェッショナル集団です。
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大家 三佳
東京在住、京都造形芸術大学卒。子育てをしながら、水彩画、ドローイングを中心に人、食べ物、動物を描くイラストレーター。パッケージやポスター、グッズなど幅広い分野で活躍中。透明感のある優しいタッチで、日常の風景や人物を描く。ペーターズギャラリーコンペ2014 宮古美智代さん賞受賞など。
編集、プロデュース、インタビュー:前川美紀(ワーク・ライフチャレンジ プロジェクト代表/ブランディングディレクター)
note編集:松本美奈子(次世代こども教育コンサルタント/認定ワーク・ライフバランスコンサルタント)
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