消えゆく食文化を心から憂う
長らくつぶやき生活を続けてきた。
忙しさは峠を越したが、非情にも入院という次なる峠ができてしまった。
またすぐつぶやきに戻ってしまうかもしれないが、今日は通常投稿で。
これ以上先延ばしにはしたくない記事があるからだ。
〈いかなごのくぎ煮〉を炊いた。
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イカナゴとは全国的に穫れる珍しくもない魚だが、近年急激に数を減らし、禁漁になっている地域が多い。
関東方言ではコウナゴと呼ばれている魚だ。
この魚が神戸の名産のように言われるのは、その独特な調理法にある。
醤油・みりん・ざらめ・生姜などで甘辛かつ硬く煮詰めるのだが、見た目・食感ともに錆びた古釘のようだから「くぎ煮」と呼ばれる。
これが神戸の塩屋という漁師町で発祥し、後に神戸名物、兵庫名物、瀬戸内名物となった。
僕は10歳で隣町・明石から、そのくぎ煮ご当地の塩屋に引っ越した。
春先になると、イカナゴの水揚げを待つ行列が早朝の鮮魚店にできること、町全体がくぎ煮を炊く甘い匂いに包まれることに驚いたものだ。
兵庫県における漁獲量は7年前から急減し、今では壊滅状態といえる。
おかげで近年は価格が高騰し、初荷はキロ5000円というマグロ並みの値をつけるようになってしまった。
しかも漁期はたった3日間ほどと極めて短いため、店頭にお目見えしたと思ったらまさに風のごとく販売終了となってしまう。
消えゆく食文化を心から憂う。
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先日、イカナゴを入手した。
初荷は驚愕の価格だったが、なんとか手が出せる価格に下がってきたのだ。
その2日後には漁が終わり、神戸の春先の風物詩は店頭から姿を消した。
成魚は20cmにもなるが、くぎ煮にするのは4cmほどの稚魚。
今年は例年より大きく、やや育ちすぎか。
昨年初めて炊いたくぎ煮はおいしかったが、母が昔炊いていたのと比べると軟らかく、まだまだだと思った。
くぎ煮は硬く炊き上げるのがよいと母から聞いていたからだ。
そこで今年は煮汁を調節した。
醤油、みりん、酒、ざらめ、生姜を寸胴に入れ、火にかける。
沸騰しザラメが溶けたらイカナゴをバラバラと入れ、強火で煮立てる。
煮汁が減るまで決して混ぜない、触らないのが鉄則だ。
落とし蓋でイカナゴが煮汁の泡に常に包まれるようにし、煮詰めていく。
煮汁が減れば、鍋を大きく振って上下を入れ替える「返し」を行う。
煮汁がなくなれば、ザルにあけて冷まし完成だ。
硬く炊けた!
まるで飴細工とは息子の弁。
火を止めるタイミングですべてが決まる。
母もこれならOKを出してくれるかもしれない。
神戸・春の風物詩〈いかなごのくぎ煮〉。
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多くの神戸人がやるように、たくさん炊いて小分けにし、親戚に送った。
たくさん余ったらnoteでご希望の方にお分けしようと思っていたが、1パック分しか残らず、断念。
冷凍で1年もつので、いつか開く予定の〈第3回リアル会〉の頃にまだあれば、より小分けにしてご参加の方にお分けできたらと思う。
(2023/3/13記)