パンと具材が極上なら、それ以上のサンドイッチなどあるはずもない
神戸に多い横文字の名称の一つ、トアロード。
明治の開港の頃、外国人が居留する海手エリアと山手エリアを結んだ道。
北端にあった明治41年創業の〈トアホテル〉がその名の由来とされる。
その歴史背景からか、トアロードは歩くたびいろんな発見があって楽しい。
ドンク
全国展開のフランスパンベーカリー〈ドンク〉は、神戸が本店。
明治38年創業だが、フランスパン作りが始まったのは昭和40年のこと。
フランスから「パンの神様」レイモン・カルヴェル、弟子のフィリップ・ビゴを招聘し、一気にフランスパンの名店として花開いたのだ。
のちにビゴは独立し〈ビゴの店〉を出す。
本店は、1Fがショップ、2Fが喫茶室になっている。
食べるならやはりフランスパン、ローストビーフバゲットサンドを選んだ。
クラスト(皮)はパリパリ、クラム(内)は驚くほどしっとりやわらか。
バゲットにありがちな、目をひんむいて食いちぎるようなことにはならないから、中身がニュウッとはみ出してボトボト落ちたりもしない。
パンのうまいサンドがうまくないわけがない。
1Fの豊富に並ぶパンを買って帰るだけで心ウキウキだが、せっかく本店まで来たらぜひ2Fでできたてのサンドを。
トアロードデリカテッセン
昭和24年創業、外国人御用達のハムやソーセージ、ローストビーフ、スモークサーモンなど、洋惣菜の店。
©神戸新聞社
©KOBECCO
1Fがショップ、2Fがサンドウィッチルームだ。
村上春樹はこの店のサンドを次のように表現している。
「僕にとってのサンドイッチの原点は、神戸のトアロードにある『デリカテッセン』のサンドイッチです。スモークサーモンかローストビーフの二種類しかなくて、カウンターで食べるんですが、これがほんとうにおいしかった。パンから、マスタードから、野菜から、みんなおいしいんです。高校生のときからこれにはまっていました。生意気な高校生だったんです。いまでもあるのかなあ。懐かしいです。これを凌駕するサンドイッチにはまだお目にかかれていません。(村上春樹『村上さんのところ』新潮社、2015年)
同著『ダンス・ダンス・ダンス』にもこの店のサンドは登場する。
ハルキストでなければ、それが?という感じだろうが、谷崎潤一郎や田辺聖子もこの店に通ったというから、文人に愛される店だったのは間違いない。
ミックスサンドを頼んだ。
ローストビーフ、スモークサーモン、ハム、ソーセージの4種のサンドだ。
この店を代表する4種がサンドされているのだ、うまくなかったら問題だ。
スモークサーモンはあれよあれよという間にとろけ、口の中は旨みの余韻。
さすがと言うしかない。
しっとりしたパンは、これまた神戸で人気の〈イスズベーカリー〉製。
震災までは〈セントラルベイカリー〉製のパンだったそうだから、村上春樹が食べたら違う!となるかもしれないが。
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ベーカリーのサンドイッチ、デリカテッセンのサンドイッチ。
パンと具材が極上なら、それ以上のサンドイッチなどあるはずもない。
トアロードは他にも紹介したい店が目白押しだが、それはまた日を改めて。
(2021/9/11記)