キナコ

かけら 断片 書きかけ 未完成 途中 一部 hikarinomichi

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最近の記事

クレアおばさん .3

クレアおばさんが何者だって僕はどうだっていい。 クレアおばさんのうちがあるこの場所は空き地なんだ。 クレアおばさんがおばけだろうが、なにか知らないものだろうが、僕には見えているし、暖かいチャイも僕の身体に染み込んでいくんだから。 それでじゅうぶんだ。  あの日僕は、なんで毎日学校に行かなきゃいけないのか急に嫌になって、家を出てから学校と反対向きに歩き出した。知ってる学区を出るのは簡単じゃない。どんどん歩いたってまだ、幼稚園の頃の友達のうちの辺りだ。足が勝手に動くままに、

    • クレアおばさん .2

      一週間、学校に行かなかったら、親が学校から呼び出された。 「マサト、学校行かずにどこ行ってんの?」 ママはキョトン顔で僕に尋ねてきた。 ちょっと面白くなって僕は、 「クレアおばさんのところだよ。ママも行く?」 って言ってみた。 「何それ!うん、行く!」 ママはキョトン顔のまま、そう言った。 「いらっしゃ〜い♪マサト♪」 「手を洗ってうがいをしてね〜〜♪」 いつものようにおばさんに呼び込まれて、僕は洗面所に手を洗いに行ったけど、ママは玄関で突っ立ってた。 僕はママをそのままに

      • 蒼と碧 .2

        アオ。 お元気ですか。 今年の夏は暑いです。 昨日、あなたと話したあの芝生公園はどこにあるのでしょうね。 わたしの大好きな景色だったよ。風が気持ちよかったね。 アオが話していた、心を開く相手の話、そうだね。あれからわたしも考えているよ。 あなたはわたしに心を開いていいんだよ。 わたしたちには長い月日があるもの。 今は忘れちゃってても、思い出す時もあるかもしれないし。 アオ。 今はどこにいますか? ミドリ。

        • 蒼と碧 .1

          六月。梅雨時の、雨が降り続ける日々の中、ミドリは胸の奥が拡がり、楽になっていく感覚を味わっていた。しっとりと水気を帯びた空気が、こんなにも息をしやすくしてくれるとは、少し前の自分なら感じなかったことだろう。 (アオ。元気ですか。) 薄暗くぼんやりとした室内。窓を開け、ベランダ越しに届く雨音。 ミドリはじっと耳を傾けていた。 (アオ。どこにいますか。) ミドリはソファから立ち上がり、テーブルの上のいくつかのキャンドルに火を灯した。ぼんやりと薄暗い部屋に、ぽわんとした明か

          クレアおばさん .1

          僕の町には不思議なおばさんがいる。 ひとりで暮らしているのに、おばさんのうちにはいつも誰か彼かが居て、出入りは自由。 そんな僕も学校に行きたくない日はおばさんのうちに行く。 クレアおばさんは、時々急にすっごく若い綺麗な人になる時があるんだ。 今日も。 ハナちゃんがすっごく怒った顔でおばさんちに入ってきた。 「いらっしゃ~い♪ 手を洗ってうがいをしてね、ハナ♪ココアを入れておくからね~♪」 って、いつもの調子で声を掛けて、ハナちゃんが洗面所に手を洗いに入った背中を見て、

          クレアおばさん .1

          ものがたり のはじまり

          ある日、突然、体のあちこちに不具合が出始めて、 ああこれは先は長くないというお知らせだな と感じた。 何をするにもまだ早い、と修行中な見習い感がなくならず、先延ばしにしてきた全てが、もう時間切れで間に合わないんだなぁと、ぼんやり、焦りもなく感じていた。 全てが終わるのに、やり残しもへったくれもないよなぁ。 何もどこにも持って行けやしないのだし、ずっと大切すぎて取っておいたとっておきは、年月がただ過ぎ去って、煤けて古ぼけた何かになってしまうことも、とうの昔に思い知っている。

          ものがたり のはじまり