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『西洋人との結婚に関する産業的状況』(ルポルタージュ)

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『西洋人との結婚に関する産業的状況』①~⑩までをまとめたマガジンです。
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『西洋人との結婚に関する産業的状況』⑤(作者:ヴー・チョン・フン、1930年代ベトナムのルポルタージュ)

『西洋人との結婚に関する産業的状況』⑤(作者:ヴー・チョン・フン、1930年代ベトナムのルポルタージュ)

 第五章 スザンヌは欲するか・・・欲しないか

 いつもは娘に関して何かと許可を出すような人ではないようだが、どうしてアック婦人は、私とスザンヌとで一緒にティカウとダップカウでも観光しに行けと勧めてきたのだろう? 単に風景でも見に行けということか? それとも、信頼でも深めて来いということか?
 だが、彼女の真意などわかりえないものだし、知る必要もないのだろう。しばらくスザンヌと歓談をしたわけだが、

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『西洋人との結婚に関する産業的状況』④(作者:ヴー・チョン・フン、1930年代ベトナムのルポルタージュ)

『西洋人との結婚に関する産業的状況』④(作者:ヴー・チョン・フン、1930年代ベトナムのルポルタージュ)

 第四章 枝迎南北鳥 葉送往来風

 その木製の邸宅を二部屋に区切るものが、壁でもなければ、漆喰でもなく、また竹で作られているとはしても、それは粗末な柵に過ぎず、その柵が部屋と部屋の境目に半分置かれているだけで、もう半分にはあけっぴろげになるのを防ぐために、簾が引っかけてあるだけであれば、これこそまさしく〈近所〉と呼べる間柄なのだろう。ここの主人である女は簾に数枚、ハンボー通りを描いた絵とその両

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『西洋人との結婚に関する産業的状況』③(作者:ヴー・チョン・フン、1930年代ベトナムのルポルタージュ)

『西洋人との結婚に関する産業的状況』③(作者:ヴー・チョン・フン、1930年代ベトナムのルポルタージュ)

 第三章 お前は俺のことを夫として認めたくないのか?

 真っ暗な空に汚い道路、これが・・・夜十時の〈厩〉の裏手から見える風景である。私は冒険者であるかのように辺りを散策してみた。危険の尽きない冒険だ。目の前にはただ暗闇ばかりが広がっている。時々、靴が水たまりの上を打ち、飛沫の音が響いた。どこか家先でコツコツとタイルの上を蹄が打つ音がする。さらに耳には馬のいななきも聞こえてきた。その馬は涎を垂らし

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『西洋人との結婚に関する産業的状況』②(作者:ヴー・チョン・フン、1930年代ベトナムのルポルタージュ)

『西洋人との結婚に関する産業的状況』②(作者:ヴー・チョン・フン、1930年代ベトナムのルポルタージュ)

第二章 妻、側室らを非難すること

 その男とは知り合いになったばかりなのではある。だが、すっかり昔からの友人になってしまい、ドゥブル・マグナム を二本半開けた時には、彼は非常に多くのことを語ってくれていた。酒は血を温める。温まった血は人に愛情を考えさせる。ただし愛情はいつも人を必ず苦しめる。目の前でオピウム台に寝そべっているこの男は、私と何も変わらない凡人のような所作をしていたが、れっきとしたケ

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『西洋人との結婚に関する産業的状況』①(作者:ヴー・チョン・フン、1930年代ベトナムのルポルタージュ)

『西洋人との結婚に関する産業的状況』①(作者:ヴー・チョン・フン、1930年代ベトナムのルポルタージュ)

第一章 頭と耳

 喫茶店の老婆は震え出した・・・。
 自らよりも体力の優れた者の出鱈目な激しい怒りを前にして、私はすぐさまに立ち上がり、守勢を保つために何歩か退かなければならなかった。臆病な話し方を徹したのも、そうしておけば、易々と口を割られることもなかろうと思ったからである。またさらに怯えた様子で屈服し、ただ譲歩するような姿勢を続けたのも、この私の守りを固めた体制が相手側にさらなる油を注ぐこと

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『西洋人との結婚に関する産業的状況』(1930年代ベトナムのルポルタージュ)を掲載するに当たって

『西洋人との結婚に関する産業的状況』(1930年代ベトナムのルポルタージュ)を掲載するに当たって

 ベトナム文学研究者である川口健一氏は、本記事のタイトル『Kỹ nghệ lấy Tây』を『西洋人と結婚する技術』と訳した。たしかに、この記事の中では、多くの女性が西洋人男性を手玉に取る、そんな場面がいくつか見られるが、その話題が記事の全体を占めているわけではないため、『西洋人と結婚する技術』と訳するのは、少々内容との齟齬が出てくるように思われる。そのため、大家に歯向かうようで恐縮ではあるのだが

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