見出し画像

源氏物語 文字と紙

先日のおでかけの続きと・・・
すこし前にNHKで放送されていた"源氏物語と紙について"、覚書的に書いておこうと思います。

皇居三の丸尚蔵館のあとは、大手町の隣の三越前駅へ。
日本橋三越のアートギャラリーで、大河ドラマ「光る君へ」の題字や、出演者への書の指導をされている根本知さんの個展があるということで見たいと思ったのです。

源氏物語の各帖から一首づつ選ばれた書が、物語の流れや背景を簡潔にまとめた解説とともに展示されていました。

「桐 壺」

いずれの御時にか・・・で始まる「源氏物語」の第一帖。
美しいです・・。

カリグラフィーもそうだけど、こういう長文って書き間違えないものかな・・といつも思ってしまう素人の私。

撮影はご自由に、とのことでしたが
なんとなく気になるものを少しだけ。

「花散里」

橘の香を
なつかしみ
ほととぎす
花散里を
尋ねてぞとふ

光源氏から麗景殿女御への贈歌

光源氏が関係を持った女性のなかでも、いちばんホっとする存在が
花散里はなちるさとだったので、
なんとなく撮らせていただきました。


「胡 蝶」

花園の
胡蝶をさへや
下草に
秋まつ虫は
うとく見るらむ

紫上から秋好中宮へ

光源氏が六条院を造営する際、院を4つに区切り、
紫上、秋好中宮(六条御息所の娘)、花散里、明石君を住まわせ、それぞれ春・秋・夏・冬の趣を持たせました。
光源氏は紫上のいる春の町で船楽を催した際、紫上が秋好中宮へ歌を贈るエピソードは、大和和紀の漫画「あさきゆめみし」にもあって、好きなところです。

マット(と呼んでいいのかな)の部分の花模様がとても可愛らしくて、
春の町(区画)と秋の町が競うようにしていたシーンが思い出されます。

ひらがなが美しいなぁと思ったのは、「光る君へ」を見てからです。
それまではあまり気にしたことがありませんでした。
奈良時代、和文で使われていた漢字と違って、ひらがなは意味ではなく音。
日常会話や感情が表現しやすく、読む側も感情移入しやすいので、
そのことも一条天皇が「源氏物語」に惹かれた理由のひとつのようです。

会場には根本さんご本人もいらっしゃいましたが、
お弟子さんたちかな?たくさんいらしたし、
私なんぞは素人すぎて、お話して聞いてみたいことすら思いつかないレベル。
ひととおり見て、会場をあとにしました。

会場の入り口に展示されていた「光る君へ」のタイトルのオリジナルを見ることができたのも、収穫。


根本さんの作品でも使われていた美しい紙ですが、
「光る君へ」のなかで、一条天皇に献上するために作られた「源氏物語」の特別な豪華本が思い出されます。
美しいからの紙の色を選んで、丁寧に製本していく様子が
紙好きとしてはとてもわくわくしました。

私が京都で刷った唐紙。雲母がきらきらしています。


「光る君へ」のなかで、豪華本は長方形でした。
でも、実際に一条天皇に献上されたものは正方形だったかもしれません。

すこし前に放送されたNHKの「歴史探偵」という番組で「源氏物語」が特集され、藤原道長役の柄本佑、一条天皇役の塩野瑛久がゲストで、面白い内容だったので書き留めておこうと思います。

番組にでてきたのは、千葉のお寺に保管されている「源氏物語」の写本。
紫式部のオリジナルも平安時代の写本も現存しておらず、
鎌倉時代のもので最古の写本のひとつだそうです。
それが正方形でした。

当時、紙は長方形のほうが正方形より格が上だったそうです。
和歌や漢詩に比べ、物語は仏教では「嘘をつく罪」と考えられたため、
和歌集などは長方形に書かれていたけれど、
物語は格の低い正方形の紙に書かれていたとか。

紙の形にも格があるとは知りませんでした・・・。

番組では「源氏物語」にはどのくらいの紙が使われたか、ということを計算していました。
その鎌倉時代の写本は41巻めの「幻」で、長方形の大きな紙を三つ折りにしてそれを半分にする六つ半本むつはんぼん
そこから計算して、元の紙は5枚必要だったそう。

「源氏物語」全54巻の文字数を数え(よく数えたな~~)
清書だけでも紙が507枚必要だったと割り出していました。
それに加えて、推こう、下書き、書き損じがあると考えると
2千枚以上必要!
とのことです。

京都の一条通りに紙屋町というところがあり、紙屋川が流れていて、
平安時代、朝廷が運営する紙屋院かみやいんという、紙を作るところがあったそう。
手間のかかる紙はすべて役所に回され、公文書などに使われていたとか。

そのようなわけで、紙は一般には流通しないので、
紫式部が大量の紙を自分で入手するのは不可能。
ということで、誰かから与えられた・・・つまり
時の権力者である藤原道長から与えられたと考えられる、というお話でした。

道長自身、26年間にわたり「御堂関白記」という日記を書いていて
長期にわたって質のいい紙を入手できていたという事実があります。

番組のなかでも、源氏物語の豪華本の再現をしていました。
「光る君へ」と違って、正方形です。
雲母うんもを使った唐の紙の作り方も実演されていて、
2020年(もう4年前!)に京都で唐紙の制作ワークショップで、雲母を使って刷ったものを思い出していました。

番組のなかでも版木が紹介されていました。

それにしても、唐紙というのは襖で使ったり、最近ではアートとして飾るイメージがあったけれども、
模様の上に源氏物語を書いてしまうなんて、考えたこともなかったです。
読みにくいのではないか・・・と、つい思ってしまうけれども・・。

京都に行ったら、また唐紙のお店をのぞいてみたいです。

書くこと、描くこと、撮ることで表現し続けたいと思います。サポートいただけましたなら、自分を豊かにしてさらに循環させていけるよう、大切に使わせていただきます。