本を読みに、旅に出る
自分は怠惰な人間だ。やらないといけない事を先延ばしにする性格で、夏休みもお盆を過ぎてからヒーヒー言って宿題をするタイプだった。
本を読むのは好きだ。だが先延ばす癖は好きな事でも変わらない。家では他の遊び、モノに気を取られて〝積読(つんどく)〟を抱えがちになってしまう。
移動時間は本を読むいいタイミングだ。学生時代はバス通学で時間があり、よく本を読んでいたが、現在は本を読むほどの通勤時間がかからない生活をしている。
なので、僕は時折〝本を読むための旅〟に出る。
マイルがあったので今回は飛行機に乗ることができた。飛行機の国内線である程度の移動時間を確保するためには、北の大地か南の島に限られる。本格的な冬にさしかかり、朝晩震えながらストーブをたいてしまうこの頃。夏の残り香を感じに南に向かうことにした。
飛行機に乗るとき「離陸する時」が好きだ。長い滑走路に正対し、エンジンがうなり、徐々にスピードを上げながら滑走し始め、身体から座席に向かって重力を感じているあの瞬間がたまらない。離陸してからもしばらくは、上昇するために重力を感じることができるが、やはり滑走路ないでのそれには劣る感じがしてしまう。
のんびり本を読んでいると、CAさんが飲み物を配ってくれる。今回乗ったソラシドエアは九州を拠点とする航空会社なので、地元産にこだわったアゴユズスープが売りのひとつだ。大好きなので、乗る度に頼んでしまう。空港で買ったお弁当とあわせて朝食にした。
関西に住んでいると、なかなかアゴ出汁のものがないので新鮮だし、食事にあうのでソラシドエアに乗るときは空港で食べず、お弁当を買って持ち込むことが多い。
南の島までは約2時間。機内では大好きな水曜どうでしょうのディレクター陣の著書「現在地」と機内誌「ソラタネ」を読んだ。
水曜どうでしょうは北海道テレビで放送されていたバラエティで、2002年にレギュラー放送が終了したあとも、数年に一度のペースで新作が放送される大人気番組だ。俳優・大泉洋さんを世に出したとしても有名で、僕の大好きな番組のひとつだ。そんな水曜どうでしょうが2023年の最新作「懐かしの西表島」のウラ話が「現在地」に書かれている。
〝懐かしの〟と付いているように、どうでしょう班が西表島ロケに行くのは2度目だ。前回の西表島も面白い場面の話もたくさん書きたいが今回はやめておく。そこで一番のキャラ「ロビンソン」に再会することを目的とした今作はまた違う意味で面白かった。
話を本に戻す。本はその「ロビンソン」という人間がどうでしょう班に初めて会った2005年から時がたち、今年再会するまで、本人も、環境も大きな変化があった。しかし、変わっていなかった軸があったことも、藤村×嬉野ディレクター陣の対談形式でつづられている。
「自分の変わらない軸は何だろうか」そんなことを考えていると、那覇空港への着陸のアナウンスが流れ、瞬く間に滑走路に滑り込んだ。
この旅は移動時間に本を読むことが目的なので、到着すると基本的には普通の旅をして、読みたいときしか本は読まない。
ちょうどお昼前くらい、街中で「せんべろ」をやっているお店でお酒を飲むことにした。沖縄に来たときはよく寄っている居酒屋だ。
旅先のお店では、よく隣に座った人に話しかける。沖縄の人であれば「この辺で面白いところ、お店とか無いですか」って現地の生情報を教えてもらい、同じ観光客であればその土地の話をする。また沖縄の人もよく話しかけてくれることが多いので、隣またその隣の人と楽しくビールやら泡盛を飲むことができる。「せんべろ」とは言いながらも結局1,000円ではすまなくなってしまう。
ほろ酔い気分で店を後にし、早めにホテルにチェックインしたら部屋でもう一冊、西村京太郎「西日本鉄道殺人事件」を読むことにした。
西村京太郎は鉄道ミステリーで有名な作家だ、旅好きになったきっかけのひとつでもある。西日本鉄道、通称西鉄。九州を代表する私鉄は過去に西鉄ライオンズというプロ野球団を所有していた。九州とライオンズ、そして戦時中の特攻の歴史を織り交ぜた読み応えのある作品だった。もちろん自分は第2次世界大戦どころか、西鉄ライオンズも知らない世代だが「歴史上、戦中と戦後は区切れても、人々の生活は区切ることができなかった」ということを知れた。
日も暮れ始めて、再び街に繰り出した。目的のお店まで時間があったので、本屋に寄った。本屋には街の特性が出ることが多い。沖縄は特にそう思う。面白そうな本を3冊買った。
夜は食べてみたかった山羊料理を堪能し、ほろ酔いどころかガチ酔いしてしまったので写真を撮るのを忘れてしまった。なんとかホテルには戻ったようだが、ポケットには記憶の無いオリオンビールの缶が入っていた。戻る途中にコンビニで買ったのかな…?
次の日は、午前中の便で帰らないといけなかったが、ひさしぶりに飲み過ぎたせいか、しっかり二日酔いになり、チェックアウト時間ギリギリまでホテルで寝ていた。帰りの道中も、眠ってしまう始末で、初めて空港へ行くモノレールを乗り過ごしそうになった。沖縄のモノレール「ゆいレール」は那覇空港が終点なので、乗り過ごすと反対方向にどんどん離れてしまう。間一髪降りられたが、寝てしまっていたらと思うとぞっとした。
空港で「酒豪伝説」(沖縄で有名なヘパリーゼ的なやつ)を飲んだが、飛行機の機内でも二日酔いはまだ抜けず、帰りの移動ではまったく本が読めなかった。家に帰って、読んだ本を本棚に戻していたときにふと気づいた。
「積読増えてるやん」
当たり前だ、2冊読んで3冊買えばそうなるわ…。まだまだ積読が無くなるのは遠そうだ。