荒れ地の希望
部屋が荒れ地だ。
祖母を除く4人分の洗濯物が山積みになっている。
それに伯父宛の手紙。
私の部屋のはずなのに、どんどん私の部屋じゃなくなっていくような感覚。
なんだろう、この侵入される感じ。ずかずかと土足で、荒らされていく。
とても居心地が悪くて、今すぐ帰りたいと思った。
一体私はどこへ帰りたいのだろう。
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数日ぶりに伯父の病室に行くと、やつれた様子で横たわっていた。
仕事の合間だったので、汚れ物を交換するわずかの時間しかいられなかったが、今家族の中で自由に伯父に会えるのは私だけなので足繁く通っている。
伯父の中ではあと半月ほどで退院できるつもりでいたらしい。
回診にきた主治医に、今月中に退院できるかと尋ねて撃沈していた。
最低でも3ヶ月はかかると言われたことをすっかり忘れていたようだ。
歩くどころか車椅子に座ることもままならない今の状況で、伯父はどこに帰ろうとしているのだろう。伯父もまた、私と同じようにここではないどこかへ逃げ出したくなったのだろうか。
壊れたラジオのごとく、伯父は同じ質問を繰り返す。
「他の家族はどうしている?皆元気?」と。
その度に私も「元気になったら皆に会いに行こうね」と返す。
元気になったらって便利な言葉だ。
祖母にも同じ言葉をかけ続けている。
「もう少し元気になったら、伯父に会いに行こうね」と。
祖母にとって、伯父は生きる希望で、何歳になっても守るべき大切な存在。
だからこそ、辛いリハビリも耐え抜いたのだと誇らしげに語っていた。
祖母が今の伯父を見たらなんというだろう。
気丈に振る舞うのだろうか。それとも気落ちしてしまうのだろうか。
それがわからなくて伯父と祖母を会わせられずにいる。
いつか祖母と同じ施設で暮らすことが伯父の生きる希望ならば、それはできる限り叶えてあげたいと思う。祖母にとっての生きる希望が伯父で、伯父にとっての生きる希望が祖母ならば、二人を引き裂くわけにはいかない。
精神的にも経済的にもズブズブに依存し合っている二人だ。
今みたいに何ヶ月も離れ離れになるのは、きっと伯父が生まれてから初めてのことだろう。それがいいのか悪いのか、私にはもうわからなくなっている。
ともかく伯父が祖母の元に帰れるように、私が自分の部屋を帰る場所だと再認識できるように、荒れ地なりに整備していかねばならない。
まだまだ先は長くて険しい。