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文学フリマ東京39 感想文① 内藤みか氏著 仙台 夜の寄り道

 

 年をまたいでしまいましたが、今回は兼ねてからのお約束通り、昨年の12月に東京ビッグサイトで開催された文学フリマ東京39にて入手しました、作家の 内藤みか氏 による著書、「仙台 夜の寄り道」についての感想文を書かせて頂きます。

 文学フリマの良い所は、作家さんに直接お会い出来ることですね!
とても参考になるお話が聞けましたし、本当に得るものが多いです。
内藤様、その節はどうもありがとうございました!感謝です。

 で、感想文なんですが、学生以来でちゃんと書けるか心配なんですけどね、なにはともあれ早速行ってみましょう。

 「仙台 夜の寄り道」は、昔は触れる事さえタブーとされて来たDV、ドメスティックバイオレンスに纏わる小説です。

もしかしたら読み手を選ぶかもしれませんが、それでもこうしたことが実は身近にあるのだと言う現実(※物語はフィクションです)を知る意味で、是非みなさまにも読んで頂きたい良作だと感じました。


短編ですが十分読み応えがあり、情景のスケッチや心理描写が丁寧かつ繊細で、スッとその場に入って行ける所は、本物の作家さんはやはり凄いなと思う次第です、勉強になりました。

 主人公の女性は、短かった結婚生活の中で負わされた心の傷を癒すため仙台を訪れます。

そこで、あるサービスを利用するわけですが、それは " 恋人 " のレンタルなんですね、そう言うのが有るって初めて知りました。
本当に、お金を出せば何でもある時代になって来たんだなと思わずにはいられませんね。

で、" 彼氏 " とデートをする中で、ここに至るまでの回想シーンが描かれていきます。

主人公はすでに離婚も成立しているのですが、そこまでの出来事(その後も、)が壮絶なんです。

元の夫はかなり時代錯誤的で、女性を所有物としか考えられないたげではなく、ちょっとサイコな、自分をコントロール出来ない人物として描かれていて、配偶者への暴力も平気で正当化してしまいます。

明らかにEQが低い。

初めから解っていれば結婚しないでしょうが、恐ろしいのはそれまで猫を被って隠してたこと、
で、後に本性を現し始めるんです。

私自身も機能不全家族で暴力的な父親に育てられましたので、その理解不能で理不尽過ぎる暴力の描写や理屈には、当事者としてフラッシュバックしそうなほどリアリティを感じました。

 その上彼女の両親も味方になってくれ無いんです。

 普通なら、親が子供の味方であるのは当然だと思われるでしょうけど…ここで描かれているように、実際には身内は助けにならない事も多いのかもしれません。

 臭いものには蓋をすると言いますか、親自身が現実を受け入れられない、なかったことにしてしまう。
または、当事者同士よりも両家の関係を重視してしまうのでしょうか。
彼らは正しい判断が出来るほど強くないことをあっさり露呈する場合が多いようです。

またまた私事ですが、子供をおいて行った母親と再会した時、親父が私たちに振るった暴力について話すと、母親は聞きたがらないし認めないんです。
それは罪悪感(それとも認知の歪み?)からくるのかもしれませんが、本人には理解出来ない。
現実、と言うか人ってやっぱりそんなものなんでしょうかね。

 癒し

夫の暴力から逃れるため、家を出て一人暮らしを始めた主人公ですが、その心細さ、寂しさを埋めるためでしょうか、 " つなぎ " の関係を求めます。
それが今回の " サービス " なわけです。

レンタル恋人を利用する理由は人それぞれあるのでしょう、

人はこれまで寂しさを和らげるために、あらゆるサービスを生み出して来ました。

ちょっと脱線ですけど、昔、スピルバーグの 
" A.I. " と言う映画を観ましたが、あれは人間の心が退廃した近未来のデストピアを描いた作品でした。

で、途中ですが脇役でジュード・ロウ演じる 
" ジゴロ・ロボット " が出てきます。
彼の作られた目的は人間の女性を心身ともに癒すこと。

ある女性が彼に癒しを求めるのですが、彼女の身体の傷…おそらくパートナーからのDVによる…がチラッとそのAIロボットの目に映り、悲しげな表情になるんです。
そのシーンがなんともいたたまれなかったのを思い出しました。

 作中の " レンタル彼氏 " の目的はお金であり、女性に与える癒しも単なるサービスに過ぎず、あわよくば己の欲望を満たすチャンスさえうかがう狡猾な男。
線引についてはある意味、機械やロボット以上で、人間味の無さには閉口します。

昨今取り上げられているホストクラブの問題にも通じますが、人を人と思わない人間性の先には、いったいどんな未来があるのかと思わずにはいられません。

 しかし、それはまた主人公にとって、色んな意味で現実を取り戻す役目を果たしていると感じました。
やはりそれはイミテーションな関係であり、かりそめのものである事を理解するきっかけにもなったのではないでしょうか。

 それでも、

「今日、男の人に優しくしてもらえた。
それだけで、とても幸せなこと。」

と主人公は言います。

"人から受けた傷は、人でしか癒せない " 

何処かでそう聞いた事がありますが、同時に " 人の業 " の深さを感じました。

旧約聖書の記述、失楽園後の完全性を失ったアダムとエバに対する神の宣告が思い出されます。

 「あなた(エバ)は夫(アダム)を恋い慕うが、彼は、あなたを支配することになる。」  

創世記3:16


 この物語の救いは、

彼女が所謂 " AC(アダルトチルドレン) " ではない?というところかもしれません。

もしそうだったとしたら、元の夫と共依存の関係に陥り、暴力は更に悪化して命が危ぶまれる状態になっていたか、或いは逃げおおせたとしても、他のまた似たような誰かを引き寄せたり、こういったレンタル恋人に依存してしまったりと、物事はより複雑で救いのない結末になったかもしれません。

ロビン・ノーウッド著「愛しすぎる女たち」にはそのような女性の破滅と再生の例がたくさん登場します。

 本作の主人公は自ら立ち上がり、正しい選択が出来る人、そのためには利用出来るものは利用するしたたかさ、単なる被害者でおわらない強さを持っているように感じられて少しホッとしました。

彼女の明るい未来を願わずにはいられない。

 
 今現在も、多くの女性たちが被害に遭っていて、そうしたニュースやスキャンダルが巷を賑わせています。
更に残念なことに、それを見聞きする人達の多くが単なるゴシップネタ程にしか考えておらず、その無関心さ故にいつまで経ってもこの問題が無くならない要因ともなっているように感じます。

私のかつての想い人も、「この世界は女性が生きにくい」と言っていましたが、そうした現状が一刻も早く過去のものとなるよう、心から願ってやみません。

 
  この他にも内藤氏には沢山の興味深い著書がありますので、みなさまも是非お手にとって頂けたらと思います。

内藤様、センシティブな内容で多大なエネルギーが必要だったとの事ですが、良い作品を書き上げて下さり感謝致します。

 それでは最後までお読み頂きありがとうございました。

 次回も引き続き、文学フリマ東京39にて見つけた作品の感想文をお届けしたいと思います。

どうぞ宜しくお願い致します。

露草一新

三重県伊勢市を流れる宮川のほとりにて。
フリマでお会いした時にサインを頂きました🥰
ありがとうございます🙏


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