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【詩】葉と生贄
沈鬱に煌めく枯れ葉たちは
生贄の記憶をさまよいの壁に打ち付け 足早に去り行く
新緑は朗らかに 常しえの鎮魂歌を彼の脳天へ呪縛し
ついに気のふれた紅葉は
死を仄めかす不可解な踊りを 彼の前で軽やかに舞ってみせた
葉脈の陰影は 方々に宙の揺曳を生み出し
揺曳は旋律の海となる
生贄は長年 この海から抜け出せるのか悩み続けた
それはひとえに 彼の頭の後ろ辺りが禿げているためだけではない
彼には旋律の色が見えたのだ
その色は絶えず流転し
同じ色調の仄かを地上に移調する
生贄は葉を偏愛していた
ただその愛ゆえに
土やあすふぁるとが いかに彼に攻め寄せようとも
ひたすらに忍苦を貫いた
時に葉の一枚でもはらりと舞ってこようなら
これは謀殺かも知れぬと思われた
またその馥郁たるや いよいよ悩ましく荒れ狂うが
涙をからし 声をかぎりに愛を叫ぶ彼の上には
変わらず無言の絶望が降り頻るのみであった
いとも憐れな生贄は その愛の適わぬゆえ
そこはかとなきやるせなさという 死の病に日々追われるうち
直ちに地上で絶え入ることができぬなら
いっそ天上に身を投じようかとすら妄想した
しかし生贄は
例え生贄であろうとも 選ばれし者
無論彼は
何のゆえに選ばれたのか 何のもとに自らが奉呈されるのか
それのみは悟っていた
悟っていたからこそ 彼は
選ばれし者という ただその尊厳だけを頼りに
生贄としての生涯を
辛苦と愛に満ちたその交錯した生涯を
儚く そしてひそやかに 全うしたのである