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【詩】月を殺す

窓辺には
男が切り取った月の欠片たちが
寂し気な輝きを放ちつつ
整然と並べられていた

彼は冷徹な瞳で月を刺し殺し
その刃は月を切り取りながら冷たく笑う

男はしかし
欠片たちを決して売ることはない
ただ窓辺に立つことが
彼の生の証

満月の夜も
新月の夜も
男は月を刺す

そして彼は肥え
生きるのだ

だがついにある夜
彼は月殺しのかどで
捕えられた

月を殺して生きるということは
男が予期できぬ未来の憐憫の中で
立ち往生しているという
厳しい現実

彼は自分を取り巻くその現実に
どうしても気づくことができない

それゆえに彼は
それなのに彼は
絞首刑を受け入れた

最期のその瞬間に
ようやくつぶやいた彼の月への愛の言葉は
無感動で物憂げな風にさらわれて
うたかたの如く消え失せた








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