黒ネコと地震の夢《Dream Diary 26》
xxxx年05月20日(x)
私は生家の二階の部屋で寝ていた。夜の暗がりの中、ふと目覚めると、背中に微かな床の揺れを感じた。揺れはだんだん大きくなってくる。地震だ! 私はムクと起き上がり、タンスや本棚がガタガタ揺れ始める中、階段を降りて一階へ向かった。降りながら、私はかなり早くから、眠っている時から、夢の中で地震を感じていたぞと思った。一階に降り、私は地震の震源地を探した。実は震源地には心当たりがあった。黒猫の死神だ。死神というのは、貰われて来た時に、全身真っ黒い子猫の姿を見て、姉が面白がって付けたニックネームだった。母が付けた本来の名前は思い出せない。私は死神というコトバに抵抗を感じて、あまりそう呼ぶことはなかったが、頭の中ではこうして死神と呼んでしまっている。その死神は何か悪いものでも食べたのか、あるいは病気に罹ったのか、昨日から納屋に積んである藁の上でじっと臥せっていた。目ヤニで両目はほとんど塞がり、汁気の多いネコまんまの皿に食べた形跡は無かった。息も絶え絶えの様子で、僅かに開いた口からヨダレを垂らしている。農繁期の島の農家では、遠くの町の獣医の所まで船に乗せて連れて行く時間や人手の余裕は無く、家族はただ見守りながら死神の身体の回復を待つしかなかった。まして小学生の私にはどうしようもなかった。死神の命の最後の戦いが地震を起こしたのだ。まだ成長し切っていない子猫だったのに‥‥。やがて辺りは夜明けを迎え、納屋の窓から朝日が差し込んで来た。一緒にいっぱい遊んだね。さようなら死神。私がそう呟くと、死神は静かに息を引き取っていった。地震はいつの間にか止んでいた。