『大統領閣下』(1946) ミゲル・アンヘル・アストゥリアス
グアテマラの作家、ミゲル・アンヘル・アストゥリアスの長編、『大統領閣下』を読みました。
とにかく、どスレートに独裁政治が描かれています。昔、グアテマラに実在した独裁者をモデルにしているんだとか。
ただ、独裁者本人というよりは、独裁政権下で人々がどう生きているのか。というところに焦点を当てた作品と言えるかも知れません。
1人の人物の行動とか心理描写というよりは、全体的な空気感に引き込まれる。そんな感じです。
読んでいる間、ずっと地下通路をランプ1つ持って歩いているような緊迫感があります。全体的に暗くて、こわい。
たまに登場人物の幸福感を描く場面もありますが、なんというか、その描き方は独特な感じがします。
現実世界では決して幸せを得ることの出来ない人々が、なにか幻覚のようなものの中に幸せを見出さざるを得ない…。みたいな。
同作家の「マヤ神話」をもとにした『グアテマラ伝説集』などとはかなり違った雰囲気で、魔術的リアリズムを体現している…と捉えることも出来そうです。
(僕はむしろ、魔術的リアリズムというよりは、シュルレアリスティックな表現と、写実主義が混ざり合った雰囲気…という方がしっくりくるような気もしますが…)
死にゆく人や残される人の心情、そして絶望を与える側の事情について、リアルに描かれています。
ちょっといたたまれなくなるくらい。
時たま現れる、幻想的な文章に戸惑いつつも、比較的一気読みしやすい作品かも知れません。
読んでいて、痛々しさに耐えられない人もいるかも知れません。決して無理はせず…!でも読む価値アリです!是非。