【詩】沼で溺れるわたしを微笑みながら傍観するきみ
わたしは沼で溺れていた
沼で死にそうになっていた
満開の桜に囲まれた沼の中心で
春の風に吹かれながら
泥と花びらにまみれて溺れていた
きみは優しい目をしていた
沼のそばでふんわりたたずんでいた
桜の花びらを頭にたくさんのせて
春の風に吹かれながら
沼で溺れるわたしに微笑みかけていた
そんな危機的状況下
わたしの頭のなかでは
きみがくれた遠いことばが
未練がましくリフレインしていた
これは
実に都合の良い
悲観的エンドロール
縁どられたふたりの虚像は
かすかに
到底叶わぬ願いも虚しく
不定愁訴の底に葬られ
たくらみは
融雪を告げるかのように
ゆっくりゆっくり
溶かされて
桜が舞い散る沼の中心で
わたしはもう顔じゅう泥まみれで
きみはふんわりたたずんでいて
わたしは今にも呼吸がとまりそうで
きみは優しい目をして微笑んでいて
満開の桜は心をまどわせる儚さで
きみの微笑みは涙をさそう切なさで
相変わらずわたしの頭のなかでは
きみがくれた遠いことばが鳴っている
やわらかな声色で鳴っている
この世の安寧秩序を
思いやりを
わたしの慕情を
きみの消沈を
全て包み込むかのように
鳴り響いているのだ
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