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『Patrick Vegee』全曲レビュー

待ちに待ったUNISON SQUARE GARDENの8thアルバム、『Patrick Vegee』が9月30日に発売された。

前作のMMMに続き、今回もアプローチは違うものの曲名、曲順を発売日までシークレットにした上でのリリース。
こういうところでいちいちユニゾンはファンをワクワクさせてくれる。

発売から数日、タイミングがやっと組み合って聴くに至った。
聴く前に体を清めようと一旦お風呂に入ってから視聴に臨んだ。

自分が購入したのは約一万の特装版で、ブックレット、ジグソーパズル、特典Blu-ray付属の内容だった。
ていうかまずデケぇ。棚に収納するスペースを考えなければいけない大きさ。お歳暮の箱ぐらいの大きさはある。
せめて歌詞カードくらいは普通のサイズにしてくれ。

また特典のBlu-rayには以前の配信ライブ、そして更にそのオーディオコメンタリーが丸々ついており、一通り鑑賞したがこれはファンなら絶対買いの内容で充実の内容だった。(このコメンタリーは特装じゃなく普通の初回限定版にはあるのかな、どうなんだろう)

前回のエントリで書いた日向坂46のアルバムに続き、
相変わらず個人的な感想と好みに終始するのみであるがこちらも全曲レビューを書き連ねたい。
また、日向坂のエントリでは☆5つの評価にしたがユニゾンの場合はそうしてしまうと全部☆☆☆☆☆になってしまうので10段階評価に分ける。

以下。

1. Hatch I need

(オススメ度:☆☆☆☆☆☆)

直近アルバム恒例の2分で終わる変化球曲。
…と思いきや今回はユニゾンの王道とは違うが完全に変化球とも言い難いロックチューン。5th~7thの1曲目を混ぜこぜにしたらこんなんできましたよ、「何かこれから変なの始まるよ」感に溢れている。
歌詞はアルバム冒頭恒例の「てめぇらの物差しで俺らを図るなよ」的なやつ。

2. マーメイドスキャンダラス

(オススメ度:☆☆☆☆☆☆☆☆☆)

1曲目のラストフレーズ『Hatch』から『マーメイド』→【8枚目
今回はそういうナンバーコールできたか!というまずそれに目から鱗。
いつの間にか4th(見方によっては3rdもかな?)恒例行事。

楽曲はユニゾンのロック寄りに触れたほうの王道チューン。
既存だとシューゲイザースピーカー辺りが近いかな。
歌詞は切なメルヘン。シングルでも行けるような楽曲を普通に何曲もアルバムに出してくるから強いよなあユニゾン。

3. スロウカーヴは打てない(that made me crazy)

(オススメ度:☆☆☆☆☆☆☆☆)

近々のユニゾンであれば3曲目はヒットシングル曲、あるいはリード曲を置くのだが今回はこのスロウカーヴ。
ティザー視聴ではキャッチーなAメロが誘うポップチューンかと思いきや、意外とポップではあるがタイトル通り変化球であった。
既存曲で言うならメカトル時空探検隊が近いかな、と思う。
まさに「直球かな」と思いきや変化球を振らされた感じ。やられた。
そしてラスト歌詞のフレーズから次曲へ。

4. Catch up, latency

(オススメ度:☆☆☆☆☆☆☆☆)

シングル曲。彼らの代名詞のようなメロディ、フレーズ、曲調。
「もしも今フルカラープログラムのような曲をユニゾンがやるなら」って感じのいい意味で捻りがないユニゾン純度満点の曲。
間奏はちょいひねくれてるけど。
たぶんこの曲を好きかどうか、でユニゾンというバンドが好きかどうか分かる試金石のような存在なのだと思う。

それにしてもこの曲のPV、もうちょいどうにかならんかったかと未だに思う。林檎追いかけてないで演奏してるメンバー映してくれ。

5. 摂食ビジランテ

(オススメ度:☆☆☆☆☆☆)

アルバムに一曲はある異端児曲。
田淵もブックレットで言っていたが1stの「WINDOW開ける」方面の曲。
結構ハードロック寄りのサウンドなのだが、2分半であっという間に終わるのもありこのアルバムの中で良いブリッジとして機能している。
歌詞は物騒な事言われつつもなかなか噛み砕けない。田淵自身がそう言ってるんだからリスナー側はお手上げ。雰囲気を楽しもう。

6. 夏影テールライト

(オススメ度:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆)

リード曲その2。PVも公開されたね。
個人的に「やっとこういう曲きたか!!!」って歓喜した。
大好きな曲「流星のスコール」を思わせるイントロから、
切ないメロディとギターフレーズで夏の終わりを想起させる。

ユニゾン比ではあるが、シンプルな構成であり
足し算でなく引き算で考えられた曲なのだと感じた。
既存では流星のスコール、リトルタイムストップ、mouth to mouseのような曲。ユニゾン初期~中期みを感じる。
今のタイアップ続きの現況だと難しいかもだけど、こういう曲シングルで出して欲しいんだよ!(切実)

7. Phantom Joke

(オススメ度:☆☆☆☆☆☆☆☆)

前曲の「ジョークってことにしといて。」からのタイトル通りの最新Sg。高速色々混ぜ混ぜ変拍子キラーロックチューン。
例えるならラーメン二郎。食べたことないけど。
自分の感想の変遷としては、
「はえー今回のユニゾンはよりロックでかっこえー」→「諸々詰め込みすぎだろ何か違うんだよなぁ」→「やっぱめちゃくちゃこの曲かっこいい!」
シュガー以降、最近のユニゾンの曲は色々詰め込みすぎな傾向がある。
良い曲なのは間違いないけどね。

8. 世界はファンシー

(オススメ度:☆☆☆☆☆☆☆☆)

今回のリード曲。キラーチューン。
「めっちゃロックだけど変な曲」が形容にふさわしいかも。
少なくとも両親にユニゾンを勧めるとしたら候補からまず外れる1曲。
5thで「天国と地獄」がリードになった時も衝撃を受けたけど、今回はその100倍以上の衝撃。
「ユニゾンらしくないことをやってるユニゾンらしい曲」という自分でも何言ってるか分からない評価。
ただめちゃくちゃヘビロテしたい気分に駆られる曲。
そういった意味でファンシーな世界。

9.弥生町ロンリープラネット

(オススメ度:☆☆☆☆☆☆☆)

前曲のThe fancy is lonely.のフレーズからロンリー繋がりでこの曲へ。
バラード枠。配信ライブでも披露されてたね。
静かなA,Bメロから6弦全てを開放弦でジャーンからの重厚なロックバラードへ。そしてまた静の流れへ。うまく言えないけど好きだなぁこの曲。

10. 春が来てぼくら

(オススメ度:☆☆☆☆☆☆☆)

配信ライブでもやっていた、前曲「そしてぼくらの春が来る」というフレーズからのミディアムバラードシングル。
本当にユニゾンは曲のつなぎが完璧。この繋ぎで☆1つ足してもいいくらい。
ユニゾンでは異端のミディアムなバラードかつポップソング。
この類の曲が異端なことがまずロックだよなぁ。

作曲した田淵はかなりの手応えを感じていたそうなのだが、残念ながら世間の評判はいまいちだった。

自分が思うに、この曲があまり売れなかった理由は2つ。
「ユニゾンファンが求めるユニゾンの曲とは違った」
勿論良い曲だとは思うけど、ファン全体が「一番好き」かというとそうでもない反応だった(結果ユニゾンらしさを前面に出したカップリングのが人気出た)
「かと言って一般層への訴求があるわけでもなかった」
アニメタイアップというマスには向けた環境ではなかったこと(シュガーは例外に売れたけど)、
ミディアムバラードだけど何だかんだユニゾンの曲なので複雑な曲構成、ナウなヤングには届かなかった。上記諸々色んな要素が重なってセルアウトには至らなかった。

でも田淵、俺はこの曲すごい好きだよ。確かにランキング32位なのは納得だし自分としてもそのぐらいの位置だけど。
あとPVのTシャツ売って欲しい。whateverのやつおしゃれ。

11. Simple Simple Anecdote

(オススメ度:☆☆☆☆☆☆☆☆☆)

フライデイノベルス枠、というか気楽に聴けるポップソング。
ポップアルバムならこの曲で締めてもいいくらい。
過去に「Cheap Cheap Endroll」という似たタイトルの曲があるが(自分も度々記事のタイトルで引用させてもらっている)、同曲が「ちょっとやんちゃな兄」だとしたらこの曲は「愛されキャラの弟」って感じ。
どちらも2分強で終わるし。
しかし今回のアルバム、2分台の曲けっこうあるね。すき。
曲の方向性としてはどっちかというと「mix juiceのいうとおり」とかに近い気がする。すき。 

12. 101回目のプロローグ

(オススメ度:☆☆☆☆☆☆☆☆)

ティザーで聴いた時と比べフル尺で聴いたら予想と違うやんけランキング第一位。多分このアルバム聴いたみんなもそうでしょ。
Patrick Vegeeを締めるのは壮大な組曲。唯一この曲だけ5分超え。
Youtubeで公開されたロックバラード風の部分は中盤のブロックで、
序盤はむしろ前曲のような軽やかなポップチューン。
そして後半はユニゾンロックに回帰し序盤のサビ→Aメロの流れを序盤、中盤のいいとこどりのサウンドで奏でる。最後Aメロで締めるのもポイント。

その中でこの曲はユニゾンについていく物好きに対してのささやかなメッセージが込められているとも感じた。(本人はブックレットで否定してたけどね)

1曲目の「このバンドの都合のいいとこだけ切り取って良い気になってんじゃねぇよ」といったメッセージから、
最終曲で「ユニゾンもバンドとして今まで色々あったけど、物好きなやつとならこの日(ライブ?)を分かちあってもいいよ」とちょっとデレる。(妄想)

45分、12曲の壮大な組曲を、天邪鬼かつ非常に綺麗な形で幕を閉じた。

総評

(オススメ度:☆☆☆☆☆☆☆☆)

前作の7th『MODE MOOD MODE』はユニゾンの中でもキャッチーな曲が多く、リード曲の「君の瞳に恋してない」を筆頭にポップな曲が多いアルバムであった。しかし一つのロックアルバムとしても絶妙なバランスで成立している奇跡的なアルバムだった。
「シュガーソングとビターステップ」以後新たなフェーズに突入した(してしまったとも言える)ユニゾンの到達点と言える傑作だった。
ただ同時に、この路線を踏襲しつつ更なる作品を作るのは難しいのではないか、との思いはあった。

そんな中での新譜『Patrick Vegee』。彼らの新たな寄り道として提示されたこの作品。何の危惧も必要ない、ファンとしても満足の一作だった。
リード曲が「世界がファンシー」、そしてコンセプトが「ぐちゃぐちゃ」との前情報でどんなカオスな新譜出るねん、と恐々してた思いはあったのだが思いの外ポップな楽曲も多く、むしろ一つのアルバムとしてまとまっているじゃないか、といった感想。インタビューでは「攻撃的な歌詞を増やしたアルバム」とも言っていたが、むしろ自分は歌詞の一節一節に以前のアルバムよりも寄り添うような優しさも感じた。

例えるなら2ndの『JET CO.』のようにあっという間に駆け抜けていく要素もあり、アルバムを構成するロジックとしては5th『Catcher In The Spy』、6th『Dr,Izzy』のような硬派さもある。
ポップなんだけど、キャッチーかというとたぶん違う。その点で一見さんにはピンとこないアルバムかもしれないとは思う。
聴き終えた後の「何だったんだこれ、とにかく良かったけどさ」感は今までのアルバムの中でも過去一強い。そう捉えると「なんか、グチャっとしてるんだよな」というキャッチコピーにも合点がいく。

また、このアルバムは良い意味で「これ」といった代表する曲がなく、全12曲で1つの組曲のような印象も受けた。所々曲間の繋がりが過去最高に多いし。これはバンド側があえて作り出した意図なのだと感じた。

ただ、その組曲を構成する一曲一曲が確かに良い曲なのである。

Patrick Vegee、まだまだ読み取れない。
一聴は勿論、二聴、三聴するだけでなく一年後にやっと評価が決まるかも知れない。ただとにかくユニゾンファンにとっては間違いないアルバムだという事は保証したい。まずは一聴あれ。

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