読書感想文ーー『ひとりでカラカサさしてゆく』
江國香織『ひとりでカラカサさしてゆく』を読んだ。
江國香織さんは、言わずと知れた、人気のある大作家ともいわれる人だ。
文体なのか、読後感なのか、何なのか忘れたが、過去に読んだ際に、合わないと思い、それ以来ずっと「江國香織さんはな……」と読んでこなかった。読まず嫌いをしていた。
今回はいつかの新聞の書評欄に載っていて、(失礼ながら)久しぶりだし、試しに読んでみようかなと、図書館で借りたものだ。
今まで読まずにいてごめんなさいと思うくらい、面白かった。
さて、この『ひとりでカラカサさしてゆく』は、3人の80代男女が、大晦日のホテルの一室で猟銃を使って一緒に命を絶つという事件から始まる。
物語は件の3人の男女、ではなくて、残された人々、家族(遺族)や、友人や、知り合いやがどのようにその事件を受止め、「その後」を生きていくのか、生きているのかを描いたものだ。
残された人々は、特に3人のうちの2人の遺族たちの心境は複雑だ(1人は身内がいない)。
こんなふうな死を選んだのは何故?
悲しみ、憤り、不可解さによる不愉快。
一方で、思い出を辿ってみれば、家族というだけで、彼の人とどんな繋がりがあったのだろうという、家族の絆とも言えるものの脆さや、薄さ。
家族なのに、自分は何も知らなかった、という惨めさ。寂しさ。
遺族のなかには、彼の人ならこういう死もありうるかなと思う人もいる。だからといって、彼の人の死を悲しまないわけではなく、いなくなった人を思って、近年の自分の薄情さを思ったりもする。死後には、心の中で話しかけたりもする。
大切だと思っていた人が、思わぬ死に方をした場合は、思わぬ死に方でなくても、とても悲しい。
私は祖父母を亡くした時、前後不覚になって、泣きまくった経験がある。親族一同ドン引きなほど泣いて泣いて、もはや、何がどう悲しいのか分からないくらい泣いて、鼻をかみ、泣いて、鼻をかんだ。ティッシュが足りなくて、困った記憶がある。小さな喪の鞄は鼻をかんだティッシュでぱんぱんになった。
この『ひとりでカラカサさしてゆく』
にも、死者の死を受け入れられず、泣きまくる人物が出てくる。
その泣き方、嘆き方は、いっそ身勝手に思え、本当は死者を思って泣いているのではないのでないか、と思えるほどだ。悲しむ自分がかわいそうなのでは、と。
本人としては、無性に悲しくて涙が噴き出す。と語られているので、そうなのだろうが、場も時も弁えない様子からは、その悲しみはかなり身勝手に感じる。
自分の悲しみに溺れて、道理を失っている。とも言える。まるで、あの時の自分を見るような気分になった。
その人物が、物語の最終盤になって、悲しみのすべてを、誰かに理解してもらおうと思っていた。でも、土台そんなことは無理で、無理だということはとても淋しいが、そういう淋しさによって、やっと自分も、死んだ彼の人のことも許せるようなことがあると分かった、という一節がある。
悲しんでばかり、嘆いてばかりの自分、身内にさえ内緒で、勝手に死んだ彼の人。そこには、恨みのような気持ちもあっただろうし、黙って勝手に死ぬなんて、裏切りではないかと思う気持ちもあるはず。それほど、家族を信頼していなかったのかという、疑心も湧く。
誰かと分かり合うことができないということが、淋しいけれども、自分や他者への許しと救いになるというのは、不思議だけど、私にはとても納得がいく成り行きだと思った。
誰とも分かり合えない悲しみだから、その悲しみは、どこまでも自分のものでいい。
とことん悲しむと、人というのは、吹っ切れたように、その悲しみを生み出した人やものへの気持ちが、怒りや悲しみから、温かい「許し」のような気持ちになる。そして、なにより何かが落ち着いて、納得できる。
彼の人がどんな風にして死んでも、私の日常は、変わらず回り続け、いいことも悪いことも起こり続ける。
泣くこともあるし、笑ってしまうこともある。
そんな日々を繰り返しているうちに、悲しみにこだわり続けることを飽きるというのはいいすぎでも、慣れてしまい、「まあ、いいか」と思える日がくる。
それを許すと呼ぶなら、許せる日がくる。
ひとりでカラカサさしてゆく
というタイトルの、「カラカサ」はなんとなくモダンでハイカラなイメージがある。普通のアンブレラとは、違う気がする。
ひとりで傘をさして、どこに行くのか。
辛いことも悲しいことも、結局は「ひとり」で、その嵐を耐え忍べるのような「傘」をさして、時には、その傘をくるりと回したりなんかして、生きていく。生きるってきっとそういうこと。
【今日の英作文】
「図書館のHPで本の予約をしました。今読んでいる本をその日までに読了しようという、強い動機づけになるからです。」
"I reserved a book on the library website. That's because it becames a strong motivation to finish the book I'm reading now by the day I can receive it''
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