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#すっぱいチェリー🍒 第4話「新しいかくれんぼ」

「ちょ、ちょっと盛男、何やってんのっ!!」

その声で目覚めた私は、
目の前にいた母である雅子の姿で安堵した。

保育園から自宅に帰ってきた後や、休みである
土日は、盛男は家の前の公園でよく遊んでいた。
公園に花壇があり、薔薇が植っていたので、子
供たちはバラ公園と呼んでいた。

バラ公園には少し広いスペースがあり、近所の
子供たちが集まって、そこでよく庭球野球をし
ていた。近所の子供たちの中で盛男は1番年下
で、兄の広雅も公園の野球に参加していたとい
うこともあり、ごまめ扱い(年長者が特別扱い
で遊びに入れてあげる時に年少者をごまめと呼
ぶ)で、野球のメンバーに入れてもらっていた。
メンバーに入れてもらう代わりに、年長者の言
われた通りにしなければならないことが多かっ
た。

野球もひとしきり盛り上がり、子供たちも少し
疲れたり、飽きてきた頃、近所の山口という名
のお兄ちゃんが、盛男の兄である広雅に話しか
けた。

「なぁ、広くん、なんか違う遊びしようや〜」

夕方になっていて、夜ご飯の時間まではあと1
時間ほどだ。

近所の中で1番年上の広雅は言った。

「家から縄跳びを取ってこようや」

子供たちは走って家まで戻り、縄跳びを持って
すぐにもう一度公園に集まった。

広雅の号令で子供たちは一斉に縄跳びを始めた
が、疲れているのかすぐに子供たちは跳ぶこと
をやめてしまった。

みんながその場にしゃがみ込んでいると、

「いえ〜い、いえ〜い、いえ〜い」
と広雅は縄跳びを持って盛男に近付き出した。
その広雅の行動を察知してか、山口くんも他
の子供たちも、盛男の周りに集まってきた。

何が始まるのかは分からなかったが、盛男は
みんなに囲まれて嬉しくなった。

「盛男、ちょっと新しいかくれんぼをするから、
こっちに来てみ〜」

広雅は盛男の背中を押しながら、公園のある
場所へ誘導し始めた。盛男は自分を先頭にし
て付いてくるお兄ちゃんやお姉ちゃんたちが
クスクス笑っていることに嬉しくなって、な
んだか楽しい気分になってきた。

「いえ〜い、いえ〜い、いえ〜い」
どんどん盛り上がるみんなにつられて、盛男
もニヤニヤしだした。そして兄である広雅が
盛男に言った。

「盛男には、新しいかくれんぼの鬼をやって
もらうわ。なんせ初めての遊びやから、難し
いかもしらんけど、お前、できるか?」

「うんっ、やってみるっ!」

盛男は兄や近所のお兄ちゃんお姉ちゃんの
期待に応えたいと思った。

「そしたら盛男、今からこの縄跳びで鬼は
この木に括られるんねん。でもな、軽く結
ぶから大丈夫や。お前は括られた後、目を
瞑ってゆっくり100数えるんや。できるよ
な?盛男っ」

「うん、できるっ!」

説明を聴きながら、みんなの協力のもと、
盛男の体には、縄跳びがグルグルと巻かれて
木に縛られた状態になっていった。盛男は
力一杯目を瞑って、ゆっくりと数字を数え
始めた。

盛男は100まで数えることなんて、今までした
ことがなかったが、とにかく1から10を繰り返
すように何度も何度も唱えた。

その間に、その場にいたお兄ちゃんやお姉ちゃ
んが一気に走り出していく足音が目を瞑ってい
ても盛男には伝わってきた。いつもより早く走
っていく足音を聴いて、いよいよ新しいかくれ
んぼが始まるのだと盛男は心を弾ませた。

そして足音が聞こえなくなった頃、盛男はそっと
目を開け始めた。

辺りはシ〜ンとしていた。

盛男はとにかく、新しいかくれんぼの鬼役とし
て兄達からの期待に応えたいと思い、まずは大
きな声で心を弾ませながら問いかけた。

「もういいか〜いっ?」

辺りは静まり返っていて、返事がない。

「も〜うい〜いか〜〜いっ?」

一気に薄暗くなっていくのを感じた。

公園内はより静けさを増していく。

盛男は少し不安になり、とりあえず兄達を探そ
うと体に巻きつけられた縄跳びを取ろうとして、
後ろに組まれた状態の両腕を動かしてみた。

「あ、あれっ、う、動かない‥」

何度も動かしてみたが、縄は解けない。

盛男は急に怖くなって大声で何度も叫んだ。

「お兄ちゃ〜〜んっ!お姉ちゃ〜〜んっ!」

「お兄ちゃ〜〜ん!ちょっと来て〜〜〜!」

「縄跳び、取れへん寝んけど〜〜〜〜〜!」

盛男は自分が今、どんな状況になっているのか
よくわからなくなり、涙が止まらなくなった。

何度叫んでも、誰も戻ってこない。

もうこのまま死んでしまうのかとも思った。

泣き疲れて、知らないうちに縄で括られた
状態で、盛男はそのまま眠ってしまった。


「えっ、盛男っ、あんた何やってんの!
晩御飯やのに帰ってけえへんからどうした
んかと思って見にきたら、こんなところで
括られて寝てるなんてどないしたんや!」

うっすら目を開けると、とても驚いた表情の
母雅子が立っていた。

盛男はほっとして、更に大泣きしたい気持ち
になったが、もう出る涙は残っていなかった。

新しいかくれんぼは、誰も見つけられないど
ころか、やっと見つけられる形で幕を閉じた。

その後、兄の広雅がこっぴどく怒られたこと
は言うまでもなかった。

それから盛男は縄跳びや紐を見ると、縛られる
かもしれないと不安になってしまうようなトラ
ウマを抱えて生きていくのであった。








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