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#すっぱいチェリー🍒 第2話「大切なモノ」 


「お前、やっぱり、見てたやんな〜」
ヒデキはニヤリと笑った。

盛男は保育園に通っていた。同じポピー組の
ヒデキは、とてもやんちゃな男の子だった。
スカートめくりの常習犯で、先生たちからも
ヒデキはよく怒られていた。盛男は他の園児
に比べて体は大きい方だったが、ビビリで大
人しいタイプであり、ヒデキとは自然と距離
を置いていた。

「おい、盛男、ちょっと来てみ〜」
ある日の昼休みの時間に、ヒデキが盛男に近
づいてきて囁いた。腕を引っ張られ、教室の
前のほうの隅っこに案内された。おもちゃな
どが収納されている棚の近くだ。

「えっ、えっ、なになに、どうしたん?」
盛男は少しビビりながらヒデキの方を見た。
「内緒やで、ここに座ってたら、的場先生の
大切なモノが見えるねん」
それを聴いた盛男はなんだかドキドキした。
意味がよくわからなかったが、ヒデキの言う
ことなので、悪いことだと思った。
「そ、そんなんしたら、あかんねんで〜」
と盛男は慌てて元の席に戻ろうとした。
ヒデキは戻ろうとする盛男の腕を強く掴み、
「まあ、見とけって」
と再び盛男をおもちゃ箱の前に座らせた。

昼休みが終わりかけの頃、的場先生が園児
たちにおもちゃの片付けの号令をかけた。
同じクラスの園児たちが次々におもちゃ箱の
前に集まり、おもちゃを的場先生に渡したり、
直接おもちゃ箱の中に直したり、そうしたやり
とりが始まった。

「はいはい、床にポンと置いていかないでね〜」
と、的場先生が園児たちに言葉掛けをしたその
瞬間、的場先生が、床に置かれた複数の小さい
おもちゃを四つん這いで回収し始めた。
その時は訪れた。付けていたエプロンとクマの
絵が描かれた薄手のTシャツの胸元の部分が
大きく開き、そこから的場先生の大切なモノ
の一部が、こちらに挨拶をしてきたのだ。

「この場所ええやろ、内緒やからな、盛男!」
盛男はなんとも言えない気持ちになりながら、
「はじめまして」と心の中でご挨拶をした。

次の日の保育園の昼休み。盛男はおもちゃ箱
の近くに座っていた。イケナイコトだと思い
ながらも、どうしても心と体が動いてしまう。
でもヒデキと同じ行動はしてはいけないとい
う思いもあった。ヒデキは堂々と定位置に座っ
てその時を待っていたが、盛男はおもちゃを片
付けながら、チラッチラッと的場先生の大切な
モノに細かくご挨拶をする形でヒデキとは距離
を置いていた。

そのうち盛男は、秘密の場所じゃなくても、
ご挨拶ができる瞬間があることに気づいた。
意識が高まると、色々と見えてくるものだ。
床に立膝をついて座っている的場先生の横に
立つ状況の時などは、気が付けば、ご挨拶を
済ませられる時があった。ヒデキにはバレな
いようにしていたが、ヒデキの臭覚も大した
もので、すぐにそういう場には顔を出してき
た。ヒデキが接近してきた時は、あえてその
場を離れることで、ヒデキとは違う自分を示
していた。

しばらく経ったある日、的場先生が盛男の側に
きた時に、床に落ちていた何かに気づき、突然
しゃがみ込む場面があった。盛男は急に動き出
す先生のほうに自然と視線を向けた。すると、
またご挨拶の場面に遭遇することとなった。

じっと見つめる盛男の視線に、的場先生が気付
いて笑顔で言った。

「あ、このくまちゃんのTシャツ?、
気に入ってるの。可愛いでしょ!」

一瞬にして園児達の視線が集まった。
盛男の時が止まった。
本当はくまちゃんではなく、間違いなく、
その奥に意識がいっていたのだ。
盛男はイケナイコトをしてしまったと思い、
頭が真っ白になってしまった。

何も言えず、ただ頷くしかできない盛男。
おそらく、盛男が的場先生の母性的な部分に
ご挨拶していたことなんて、ほとんどの園児
にはわからなかったであろう。純粋に、くま
のTシャツが可愛いと思っている、体が大っ
きい割にビビリな盛男という印象だっただろ
う。

ただ、残酷にも、その場を見ていたヒデキは
ニヤリとして言い放った。

「盛男くん、先生のおっぱい見てたやろ〜、
い〜けないんだ〜、いけないんだ〜♪」

「え〜、いやだ〜、盛男くん、
そんなことしてるの〜」

特に女の子たちからの視線が痛かった。
盛男はどうしようもなく、大泣きした。

的場先生との別室での話し合いの後、終わ
りの会で「クマちゃん好きの盛男くん」と
いうことで園児たちにも説明され、ポピー
組は落ち着きを取り戻したのだが、なぜか
みんなの前で「ごめんなさい」を繰り返す
盛男の姿をみんなは不思議に思っていた。

その後しばらくの間、ポピー組の園児たちから
盛男が「おっぱい星人」という称号を与えられ
たことは言うまでもなかった。









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