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#すっぱいチェリー🍒第7話「されど恩人」


「えっ、そんなんしてもいいんかな…」。

盛男が小学校1年生になり、しばらくすると
父の広男が病気で亡くなった。そのタイミン
グで自営業のアパレルの会社をたたむことに
なった。

小学校2年生から、隣町の学校に転校した。

環境も変わり、不安で仕方なかった盛男は、
毎日のようによく泣いていた。学校へ行く直
前まで家で泣いていたのだが、当時は、登校
しないという選択肢はなかった。

転校初日、配属されたクラスで、教壇の横に
立ち、小さな声で自己紹介をした。するとク
ラスの1人の男の子が声をあげた。
「おぉ、盛男やんけ〜!」。保育園の時に一緒
だった、悪ガキのヒデキだった。ヒデキは保
育園の時から目立つ存在で、当時足が速かっ
た(その時期がピーク)盛男に一目置いてく
れていた感じだった。

1年ぶりの再会だった。

ヒデキの家は、色々と問題を抱えている家庭で、
3歳上のお兄さんが既にやんちゃで有名で、そ
の兄の影響を受け、ヒデキもなかなかのワルに
なっている様子だったと、後から知った。

そんなヒデキが、転校したての不安そうな盛男
によく声をかけてくれて、何も分からない盛男
に色々と教えてくれた。

盛男がヒデキから教わったことで、特に強く言
われたことは3つあった。

まず、服の重ね着。初日は始業式なのでブレザ
ーみたいなものを着ないといけなかったが、
2日目からは私服でいいことを教えてくれた。
ただ、どんな私服を着ていいのか分からなかっ
た盛男に、長袖の服の上に、半袖を着て登校す
るように教えてくれた。

家に帰って、急いでおかんに用意してもらった。
ただ、次の日に登校してその姿だったのは、ヒ
デキと盛男の2人だけだった。先生に怒られた。

2つ目は、自転車登校だった。
夏の暑い日に、ヒデキは自転車で学校へ行こう
と、前日の夕方に打ち合わせてきた。楽に行け
る方がいいに決まってるとヒデキは当たり前の
ように言ってきた。当時、盛男の家には、母の
雅子と兄の広雅の自転車しかなく、それに、さ
すがにそれはイケナイコトだと、盛男でもなん
となくわかったので、
「自分の自転車がないから無理だ」
と伝えたら、
「よし、迎えに行くから」
とヒデキは言い出した。

次の日、ヒデキはボロボロのママチャリで、
本当に盛男の家まで迎えにきた。
「自転車で学校に行って、
ほんまに大丈夫なん?」
と盛男がヒデキにもう一度聞くと、

「俺に任せろ、大丈夫!」

と、少し何かを企んでいるような顔で答えた。

二人乗りで学校に向かう。盛男は自転車の後ろ
に乗ることに、全く慣れていなかったので、
オロオロしながら、ヒデキの背中にしがみつい
ていた。

でも、ちょっと気持ちが高ぶった。ヒデキの秘策
を信じた。

ヒデキはいつものルートで学校に向かう。
しかし、校門の20メートル前あたりで、
門番の先生に見つかって、

「おいおい、待て待て〜‼︎」と、

ダッシュで駆け寄ってきた先生達に、あっけなく
止められた。

ヒデキは叫んだ。

「盛男が足痛いって言うてるんや!
自転車で来て何が悪いねんっ!」

一日中、盛男は右足を引きずるフリをした。

3つ目は、いよいよタバコだった。
小学校2年生。学校が終わって、夕方にヒデキ
が遊ぼうと誘ってきた。
「お前ん家に、イイモノを持っていく」。
盛男はお菓子だと思い込んでいたが、ヒデキが
持ってきたのは、本物のタバコだった。

ヒデキは慣れた手つきでタバコに火を付け、
大人が吸うような感じで、完全に肺の中に、
吸ったものをいれている様子だった。

「盛男は、ふかすだけにしとき」その意味も
分からなかったが、ヒデキは盛男の分のタバコ
に火をつけ、手に渡してきた。

盛男は断れず、見様見真似で口の近くに持って
いった。
「ゴホゴホゴホゴホゴホッ‥」。
唇に挟んだ瞬間、気持ち悪くなって、一吸いも
できず、すぐにむせてしまった。

「はははっ、盛男は子供やな〜」。

そのセリフに、
「ボクたち、小2ですよね〜」
と、心の中で盛男はツッコミを入れた。

ヒデキから教わった印象的な事柄は、それが
最後の出来事となった。

少しして、ヒデキがタバコを吸っていることが、
学校にバレた。

呼び出しがかかり、かなりの罰を受け、だいぶ
問い詰められたらしい。他に一緒に吸っていた
者を追求され、ヒデキはどうやら自白したらし
く、数人の名前が上がった。

後日、その数人も集められたが、
その中の名前に
「〇〇、〇〇、盛男、〇〇‥」
そう、盛男の名前も入っていたのだ。

「一瞬、口に挟んだだけやのに〜〜」

そんな言い訳は通じるわけはなかった。
盛男は先生にも、家で兄にも、ボコボコにされ、
やりきれない思いを胸に、反省をした。

その出来事があった翌日から、ヒデキは学校に
来なくなった。そして3年生の時には、ヒデキ
が転校したと聞かされた。

色んなことを教えてくれたヒデキ。

痛い目にはあったけど、不安だった盛男にとっ
ては、とにかく心強い存在だった。

小学校2年生の出来事から、現在に至るまで、
盛男がタバコを吸ったのは、その1回きりだ。

盛男は思う。

ヒデキよ。タバコが自分に合わないことを、
教えてくれてありがとう。

それからは、基本的にビビリな盛男は
真面目に、控え目に、生きることを決めた。

ただ時々、ヒデキと自転車に乗って、学校に
行った時の、胸の高ぶりを思い出しては、

「たまには思い切ったことを
 してみてもいいかもな〜」

と思う時もある盛男であった。

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