チャイナドレスを知ろうとしたら女性の権利、ジェンダー観、ビジネスまで繋がってた話
最近、チャイナドレスに惹かれてるんですよ。モチーフとしてよく見る気もするし。
チャイナドレスではないものの、立ち襟と柄がそれっぽいブラウスを今期ついに手に入れたり。
でも、こういう国のイメージが根強いデザインってよそ者が気軽に触れていいもんなのか? と不安になりまして。。。
ということでチャイナドレスのことを知ろう! と思って大学の図書館で手に取ったのがこの『チャイナドレスの文化史』(謝黎/青弓社)。
パラパラ見てチャイナドレスの写真が多かったので、楽しそうや! と読み始めたのですが、ジェンダー観とか女性の権利の話、ビジネスや政治とも絡み合っていてかなり面白かったので、ざっくりざっくり感想をまとめます。3,000字くらいあるよ。
あ、これから引用の中に「旗袍(チーパオ)」っていう単語が出てきたら、チャイナドレスのことです。
チャイナドレスは資本主義によって作られてきた
まず、実はチャイナドレスってここ100年〜200年くらいの歴史しかないらしく。ファッションとして広まったことで今の形になったんだとか。
旗袍の成立を歴史的にたどってみると、漢族の伝統を引き継ぐ服装の形態でありながら、一方では満州族の伝統を背景にもち、また胡人などの異民族の服装も影響している。(中略)このような複合的な系譜を刻みながら民族的な色彩を帯びていった服装が、民国期に資本主義経済や西洋の影響を受けながら商品化し、ファッションとして受容されていった。(p.141)
最初は民族の階級とか身分を表現するために着られるようになったが、それもどんどん混ざっていって、西洋の文化が入ってきた。それから西洋の布や飾りを取り入れたチャイナドレスが西洋風の教育を受けた女学生たちの間で大流行。これが今のチャイナドレスの始まりらしい。
この時に西洋の布が大流行しちゃったから、「国外にお金が流れる!やばいやばい!」と思った人が、当時のカリスマ女学生に国産布のチャイナドレスを着せて国内経済を活性化させたりしてたんだって。プロパガンダじゃん。
そのあとも女性のファッションでかなりの経済が回ってたから、職人もどんどん新しい型を流行らせてビジネスを加速させていったとか。「上海人はみな『成衣匠』の傀儡なのだ」とか揶揄されてたらしいよ。いやー、流行って昔から誰かに仕組まれてたんだな。
西洋文化を取り入れていったチャイナドレス
1920年代には国内にどんどん西洋の物が上陸する。だけど洋装は流行らなくて、女性たちは西洋の布や飾りで良いチャイナドレスを作ることに情熱を燃やしていたらしい。
チャイナドレスをベルベットやウールでも仕立てていたって、ツルッツルの化繊しか見たことなかったから驚いた。年中着てたんだもん、冬仕様もそりゃあるよね!
ツイードのとか売ってる店あった。かわいい(チャイナ服専門店my Chinaスクリーンショット)
カッコ良すぎるFF女士
カリスマ女学生の話がちょっと出てきたけど、英語が話せてモダンな生活を送っている女性をFF女士って呼んだらしい。FFっていうのはForeign Fashion。TT女士とかEE女士ってのもいたって。単純にネーミングがキャッチーで好き。ギャルに流行らせてほしい。FF女士。
FF女士の殷明珠(culture.ifeng.com)
「新女性」の主張から社会は変わってない...
チャイナドレスにパーマ、ハイヒールで社交界に出入りする華やかなライフスタイルと、男女平等の思想を持った進歩的な女性たちを「新女性」といったらしいんだけど。これ、1941年に「新女性」の主張として書かれたんだって。
「私を奴隷として見ているのか? あなたはまだ封建社会で生きているのね。いまは文明の時代だから、女子は男子の私有物ではないの。男子も女子もみんな平等なの。わかった?」(p.74)
こっから70年も経ってて、世界はまだこれを主張し続けなければならんのか...! という打ちひしがれ感を覚えてしまった。社会、先が長い。
「新女性」の思想は映画を通して広まっていったらしいんだけど、やっぱりこういう思想と服装の変化はセットなんだなと思った。
新女性(每日头条)
文化の転換の裏に政治あり
いくら西洋文化が入ってこようとその地位を保ち続けたチャイナドレスだけど、今の中国で日常的に着られてるのは見ないよね。
文化大革命期に盛んだった伝統否定の運動は旗袍批判につながり、民国旗袍は資本主義の悪しき服飾として排除されるようになった。かわって人々が身に着けたのが人民服だった。(p.118)
ってことで資本主義の元で繁栄したチャイナドレス文化は、社会主義へ向かう中で途絶えてしまったのだった。
やはりこういう大きな変化は政策レベルじゃないと起きないんだな。日本が和服→洋服にガッと転換したのも戦争を経てだし。政治が文化を作る。
面子とか男女とか価値観とか
なんでそんなにチャイナドレスにお金かけてたの? って話には、「腹より面子」って価値観が深く関わってるらしい。
「腹より面子」という考え方は、現代中国でもなじみがある生き方である。つまり彼らにとって、人間が生きているうえで最も大事なことは、面子を立てることなのだ。そのすばらしい面子をいち早く他人に理解させる方法は、やはりすてきな新装を身に着けることなのである。(p.63)
流行に乗った新しいチャイナドレスを着ることが面子を保つためにご飯を食べるよりも必要だったんだと。
中国のことについてはほとんど夏代さんのツイートから得ているんだけど、確かにめちゃくちゃメンツの大切さを説いていらっしゃったな。
この本には、その背景も少し記述があった。
上海人は見えっ張りである。(中略)移民からなるこの街で暮らす各地から集まってきた者たちにとって、かつて彼らが出身地で暮らしていたときの拘束力(地域共同体、村落、町にある暗黙のルールやしきたりなど)は意味がなくなった。つまり、誰がどこから来て、どんな仕事をしているのか、互いにわからないし干渉もしない。そして、その人間の「価値」をすべて外見から判断するようになったのだ。(p.62)
なるほど。今はこうではないかもしれないけど、こういう歴史的背景があるらしい。
価値観の話をもうひとつすると、興味深かったのがこの言い回し。
金持ちにせよ貧乏人にせよ、男性は女性を選ぶときには外観を重視した。相手がきれいであれば自分は馬や牛になってもいい、という考え方が男性社会にあった。(pp.47-48)
今でも中国の男性は女性にめっちゃ尽くす(貢ぐ?)って聞くけどそういう価値観と関係あるんだろうか。女性にお金をかける文化があるっていうイメージ。気になる。
さいごに
全体として、「女性の服装から見る中国近代史」という感じ。文化を扱うって内容めっちゃ幅広い。
内容はわりと平易な文章で読みやすいと思うけど、高校世界史レベルの中国史を知っていればなお良しぽい。いきなり女真人、旗人、漢人の身分の話とかから始まるので、知らない人は面食らうかも。
でも写真も多いから、書籍名の通り単純にチャイナドレスのデザインの変遷を楽しむのにめっちゃ使える。やっぱチャイナドレスのデザイン可愛すぎる。作りたい。。。
もう絶版なのかAmazonでは正規より2,000円以上価格がつり上がってるから、Kindleが良さそう。(私は大学図書館で借りちゃったけど)
この調子でアジアカルチャーを掘り下げていきたいぞ〜と思っているオサナイでした。
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