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【読書ノート】『ガザ日記: ジェノサイドの記録』アーティフ・アブー・サイフ (著)

著者はガザの難民キャンプ生まれだが、英国の大学で修士、欧州大学院で博士号を取得した知識人で自治政府の文化大臣。イスラエルがパレスチナ自治区ガザへの爆撃を始めた2023年10月7日から作家である著者が、イギリス出版社に送り続けた約3カ月にわたる日記。ニュース映像などで爆撃と虐殺の酷い有様が断片的に報道されていたが、やはりガザ内部がどうなっているのか理解するのは困難であった。この日記は文章で攻撃されているガザ現地がどのようになっているか、リアルタイムで描かれている貴重な記録で爆撃や殺戮の凄まじさが理解できる。著者も今回の攻撃で、長年付き合いのあった多くの近親者や友人知人を失っている。読むのにそれ相応の時間もかかるが、ガザの現状を知るために出来るだけ多くの人が読むべき内容(現在11か国語に翻訳されているそうだ)。この本を手早く翻訳出版した地平社は良い仕事をしていると実感。

<目次>
1章 砲弾と爆撃-- Day1 2023年10月7日…Day33 11月8日
2章 包囲網-- Day34 11月9日…Day44 11月19日
3章 喪失と決心-- Day45 11月20日…Day48 11月23日
4章 「休戦」-- Day49 11月24日…Day55 11月30日
5章 戦争オーケストラ-- Day56 12月1日…Day70 12月15日
6章 避難の民-- Day71 12月16日…-- Day85 12月30日


以下気になった個所を抜粋:

ガザの人々にとって戦争は天候へのもので、私たちはずっとその中に生きている。私たちに発言権はなく、生まれたその日から、戦争はただやってきては去っていく。ほとんどのガザ人はこの地の外に出たことがない。戦争が当たり前でない生活がどのようなものか知らないし、自由が何かも知らない。 それを欲していることはわかっているが、実際に味わったことなどないのだ。p274

ガザ地区のどこに行っても、人々裏切られ、見捨てられたと感じている。誰も私たちのことなどを気にかけてないようだ。誰も救出に来ないし、支援の提供さえない。イスラエルがどんな戦術使っても、どんな新しい残虐行為を実行しても、誰も反対の声をあげない。私たちは見捨てられてしまい、運命に直面して甘受しろといわれるが、私たちはそこに何の発言権もない。私たちが何を感じようが、何を考えようが、誰も耳を傾けない。私たちは見捨てられている。

国際機関はといえば、ジャーナリストたちよりも前に北部を離れた。赤十字がガザ市の事務所から撤退した日のことを覚えている。戦争の第二週のことだった。私たちはプレハウスから通りに出て、赤十字の車両が列を作ってあるアル=シャハーダ通りにある事務所を出ていくのを見た。彼らは、海外からのスタッフだけでなく、現地採用の職員とその家族も全員避難させた。当時の噂では、デイル・アル=パラフの施設の方が安全なので、そちらに移転するとのことだった。これは非常に早い時期のことで、イスラエルが民間人に退去を要求し始める前のことだった。他の国連機関も同じように行動した。彼らはみんな去っていった。みんな逃げ出して、ガザ市を見捨て、自分で何とかしろとばかりに放り出したのだった。 赤十字の任務は戦争時に民間人の保護を保証することなのに、彼らは民間人が戦争で殺されるままに放置した。国連も同じことをした。この状況で、罪のないものがいるのか?他の戦争や、他の世界の他の地域では、彼らは持ち場にとどまり、仕事を続け、報告を出し続けるのに、なぜだ?他の場所は保護され続けるのに、なぜガザでは急速に姿を消してしまうのか? いざという時になったら逃げ出すのであれば、いったい何のために彼らはここにいるのか? p379 - p380

今、皆さんが手にしているものは日記のつもりでかけ始めたものではない。毎日これを書いたのは、何が起きているのかを他の人たちに知ってほしかったからだ。自分が死んだ場合に備えて、日々の出来事の記録を残しておきたかったからだ。私は死の気配を何度も感じた。死が私の背後に不気味に姿を表し、肩越しに迫ってくるのを感じ。だからそれをかわす手段として私は執筆した。勝てないまでもそれに逆らう方法として、そして何よりも、気を紛らわす手段として書いたのだ。戦争は継続し、私は生き残ることしか考えられなくなる。死者を悼むことはできない。回復することもできない。悲しみは先送りしなければならない。今はそんなことを考えている時ではない。しかし、この本の中で、私は自分を愛し、失ったすべての人々に会うことができ、彼らと話し続けることができる。この本の中でなら、彼らがまだ私と共にいると信じ続けることができる。 p441

(2024年9月7日)


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