遠藤誉氏の本は今まで何冊も読んできて感銘を受けてきたが、この著作もまた現在の中国共産党の在り方そのものを問うもので、他の「中国専門家」とはその情報力や洞察力の深さで一線を画す素晴らしい内容である。
本書の内容は主に建国前の時代において西北革命根拠地を築き革命に大きな貢献を行った高崗や習近平の父親である習仲勲と権力奪取のために毛沢東に取り入って彼らを自殺や失脚に追い込んだ鄧小平とその一味を描いている。
また革命後の時代では無実の罪で16年の投獄されていた習仲勲が復活して辣腕を振い、広東地域の経済特区を作り上げていった姿と、当時権力を持っていた華国鋒を権謀策術で追い落とし権力を掌握し、習仲勲の実績を横取りして追い落としていく鄧小平の姿が検証されている。そしてそのことが現在の権力者である習近平の政策にどのような影響を与えているか様々な考察がなされている。
やはり印象的なのは習仲勲の高潔な人格とその能力の高さであり、また革命の成功に大きな貢献を行い、改革開放の基礎を築き上げたにも関わらず、権力闘争の結果、不遇で歴史の片隅に消え去ってしまった悲劇の姿である。
また我々が長い間信じてきた(信じ込まされてきた)鄧小平神話の大半は創作であり、権力を得るためならば何でも行うであろう鄧小平の悪辣な姿が良く理解できる。
このことは以前読んだ春名幹男の「ロッキード疑獄 角栄ヲ葬リ巨悪ヲ逃ス」を彷彿とする。(この本では歴史を詳細に検討することにより、悪辣な人格のキッシンジャーがいかにして田中を失脚に追い込んでいったのかを検証分析した。)
遠藤氏は既に80歳を迎えかなりご高齢であり「この執筆が人生最後の仕事になるかもしれない」とあとがきに書いておられるが、彼女のように幼少期より中国と関わり、真に中国と中国共産党を理解していてそれを批判分析できる人は(少なくとも日本人の中には)ほかにいないと思われるので、ぜひ長生きされてこれからも歴史の真実に迫る素晴らしい著作を執筆し続けていただきたいと思う。
(2021年12月22日)