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彼らの住む世界は光か、影かー映画『関心領域』

加害の上に成り立つ幸福は光だろうか、影だろうか。そんなことを考えさせられるような映画だった。

映画『関心領域』

1945年、アウシュヴィッツ収容所の壁の向こうで幸せに暮らす一家。子供たちのためにプールまで設置された広大な庭付きの一軒家。幸せな日常。収容所から上がる煙。叫び声。銃声。

暗転とライティング

この映画で不穏さをより強調させているのは暗転とライティングだろう。映画開始冒頭1分程度はスクリーンが暗いまま、音楽だけが鳴り続ける。その後映し出されるのはのどかな風景と家族たちの幸せな日常だ。

また、夜になり一家が眠りにつく前。父親が家中の電気を消して回る。ひとつずつ電気が消され、暗くなっていく室内。父親が闇に吸い込まれていくように見える。

そして、映画終了直前。
夜のドイツ軍の建物内、誰もいない階段を父親が下っていくシーン。途中から階段の電気は消えている。上は明るいのに下は暗い。そこを闇に向かって進んでいく場面で映画は終了する。
この映画で結局この家族がどうなったとかは全く明かされない。ただ光と影が強調され、その中で日常が進んでいき、壁の向こう側に意識を向けない人もいれば、不安を覚える人もいる。ただそれだけのことがずっと続いていく。

ヘンゼルとグレーテル

不安に思っているのだろうか、娘の一人が時折夜中に眠れず起きていることがある。それを見つけるたびに父親が絵本の読み聞かせをして寝かしつけるのだが、そのうちのひとつが『ヘンゼルとグレーテル』だった。
『ヘンゼルとグレーテル』なんて長いこと読んでいないのですっかり話の内容を忘れていたが、映画内で取り上げられていた場面はここだ。
グレーテルが魔女の隙をつき、魔女をかまどに閉じ込めて生きたまま焼き殺すところだ。そんな話を収容所の横で、収容所の責任者をしている父親が話している。確か『ヘンゼルとグレーテル』の話の流れでは魔女が悪者だったはずだ。ナチスも悪者を退治するように、ユダヤ人を収容所に送り込んでいただろう。魔女が悪者なのかわからなくなってくる。

光と影

この映画にわかりやすい起承転結はない。家族の中で状況が変わったりすることはあるけれど、基本的に平和な日常が続いており、当たり前のように収容所が横にある。
多分彼らに加害をしている意識はない。普通に生きているだけだ。それが正しいかどうかなんて考えることもない。

今回のサムネイルに設定している画像は映画のキービジュアルだ。一家が幸せに暮らす庭を切り取っている。映画内ではずっと快晴で、綺麗な青空が広がっていたはずだ。でもこの画像の空は、深い闇に包まれている。

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