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一貫斎始末記

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幕末の近江、鉄砲鍛冶の村・国友に一貫斎という鍛冶師がいた。時代の流れにより、鉄砲は時代遅れのものに。そこで、一貫斎は鉄砲に代わるものがないか模索を始めるが……。
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記事一覧

日輪を望む9―一貫斎魔鏡顛末

 水無月晦日の日は、日々の雑事をこなしているとすぐに訪れた。  午前中に仕事を終え、一貫…

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日輪を望む8―一貫斎魔鏡顛末

【能当から眠龍へ】  卯月に入ってしばらくして、神鏡、反射望遠鏡のめどは立った。もちろん…

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日輪を望む7―一貫斎魔鏡顛末

 春が感じられるようになったその晩も、井戸端にいた。鍜治場でもある鉄砲の工場は、常時火が…

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日輪を望む6―一貫斎魔鏡顛末

 又兵衛の一人語りの後、刹那の沈黙を経て一貫斎が言葉を絞り出す。 「そういえば、神社など…

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日輪を望む5―一貫斎魔鏡顛末

 秋の初めに始まった鏡の鋳造は、湖に白鳥が訪れ、伊吹山の頂が白くなる季節になっても、一向…

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日輪を望む4―一貫斎魔鏡顛末

 又兵衛は、以前に鏡作りの工場にいたのだそうだが、そこから独り立ちをして、今は自分の腕一…

日輪を望む3―一貫斎魔鏡顛末

 盆を手に、火を小さくして隅々まで掃除された鉄砲鍛冶の現場を通り、棟梁・一貫斎の作業場へ足を向けた。  障子越しに声をかけ、中に入ると口角に泡して作業の段取りを尋ねているところだった。 「すなわち、鏡面の仕上げには、研磨するものの硬さで調整をするのだな。して、その素材は何なのだ」 「それを教えてしまっちゃあ、こっちもおまんまの食い上げですわ」 「いや、ある程度分かっているのだ。炭だな、それと水銀と梅酢か……」 「もちろん、そうですけれど……」  鍍金師は困り顔でこ

日輪を望む2―一貫斎魔鏡顛末

 国友一貫斎藤兵衛は、当代随一の鉄砲職人だ。  その名は近江のみならず、全国にとどろく。…

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日輪を望む1―一貫斎魔鏡顛末

【月に届く鏡】 「佐平治様。お仕事終わりに大変申し訳ございませんが、お客様にお茶をお持ち…

鉄の華(くろがねのはな)10

 八日後の朝、ニレの待つ山村は、あの日藤内の様子を見に行った時よりも拓けていた。四半世紀…

鉄の華(くろがねのはな)9

 試射の二日後、「今宵、江戸から客人が来るんだが一緒に話を聞いてくれないか」と藤兵衛が云…

鉄の華(くろがねのはな)8

 夏の盛りが過ぎるころ、気砲の威力を強化することと、弾を一〇発まで連射することには成功し…

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鉄の華(くろがねのはな)7

 食事が終わり、囲炉裏の周りには私と藤兵衛二人になった。 「江戸では、得ることが多かった…

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鉄の華(くろがねのはな)6

【星斗をつかむ】  文政五(一八二二)年の年が明けると、筆まめな藤兵衛は江戸からの帰郷を知らせてきた。水が温む四月ごろ本人に先んじて、こもで巻いた大きなつづらが届いた。つけられた手紙には、「江戸での成果につき屋根のあるところで丁寧に保管するように」との指示があった。  もともと江戸への出府は、藤兵衛が直接彦根藩から二百匁(口径五〇ミリ)玉大筒の注文を受けたことが発端だった。鉄砲の注文は、幕府からにせよ彦根藩からのものにせよ国友村の年寄を通すことが定めで、その取り決めを破っ