春眠
公園の自然散策路をゆっくりと歩きました。
木立の道は、ゆるやかな上り坂でした。
新緑の空気を吸い込みながら一歩一歩進みます。
木漏れ日を体いっぱいに受け止めようと、両手を広げます。
指先が、道に沿って咲き誇る薄紫のツツジにあと少しで触れるところでした。
そうやって進んでゆくと、高い木々に囲まれた小さな広場に出ました。
見上げると雲ひとつない空でした。
空の手前で風が吹いているらしく、梢がゆれていました。
広場の隅に、木のベンチがありました。
そこに腰掛けることにしました。
ずっと太陽に照らされていたのでしょう。
そのベンチはふくふくとあたたまっていました。
気持ちがいいので思いっきりベンチに寝そべってみることにしました。
背中から伝わってくるのは、お日さまのあたたかさ。
ほほに感じるのは、ひんやりとしたそよ風。
目を閉じました。
まぶたの裏が太陽の色に照らされました。
小鳥の鳴き声が聞こえてきました。
しばらくすると、背中のあたたかさとほほの涼しさは、渾然一体となって身体に溶け込んできました。
いつのまにか、小鳥はどこかへ飛んでいったようです。
身体を包みこむものは何もないのに、たしかに何かに包まれました。
その刹那、そよ風にしたがって身体は宙に浮きました。
*****
ふと、あたたかさを感じました。
どこからともなく小鳥が近づいてきました。
ゆっくりと目を開けました。
光に照らされた世界は、さっきよりもずっとずっと美しく見えました。
握った両手のこぶしを空高くつきあげて、身体を大きく伸ばしました。
息をたっぷり吸うと、あたためられた新緑の香りがしました。
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