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共創デザインとナノイー技術で、避難生活のにおい問題を解決したい

こんにちは。UCI Lab.の渡辺です。このnoteでは、私たちUCI Lab.と京都工芸繊維大学 畔柳研究室がパナソニックと取り組んでいる「避難所の衛生ストレス」解決プロジェクトについて、24年度から最新までの活動をご紹介します。


広川町社会福祉協議会との共同実証実験


被災地で実は深刻な「におい」問題の解決に、産学連携で挑む「避難所の衛生ストレス」解決プロジェクト。2021年7月に正式スタートして以来、被災地へのフィールドワークと製品のプロトタイピングの往復を何度も繰り返してきました。

2024年3月末、私は福岡県八女郡広川町を訪れていました。目的は広川町社会福祉協議会(以下、広川町社協)との共同実証実験に関する協定を締結するため。

広川町訪問は昨年12月以来のこと。そのときは、豪雨で被害を受けた実際の品々を用いながら、災害現場に特有なにおいを消す、あるいは減らすことができるのかの実験を行いました。その結果、開発に携わった私たちも驚くほどの効果を得ることができたのです。

2023年12月の実験の様子
実際のにおいに効果があった!という手応えが協定締結につながりました


その効果と、災害時だけでなく日常の福祉や生活のシーンで活用できそうという手応えから、2024年度に向けて、広川町社協とUCI Lab.の間で共同実証実験に関する協定を締結することになりました。

共創デザインの紆余曲折


2023年度までのプロジェクトで完成したプロトタイプはどれも、従来のナノイーXの活用の仕方とは違う新しいアイデアで作成されています。つまり、広い空間全体にナノイーXを放出するのではなく、限定された空間にナノイーXを充満させ、そこに物を入れるという使い方です。広川町社協との共同実証実験ではこれら4つのプロトタイプを持ち込み、さらに改良を重ねながら、職員の皆さんや利用者の方に使ってみていただくプロセスを何度か繰り返しました。

当初準備していた4つのプロトタイプ
広川町社協がある保健・福祉センターのエントランスで、試作品を展示しながら実験
即興で、会議室の椅子のにおいを対象に実験(ちゃんと効果がありました!)
災害時だけでなく、日常の社会福祉協議会やボランティアの皆さんの活動についてお伺い


私たちが目指していたのは、災害時だけでなく、日常から使い慣れておくデザインの実現。そのためには、広川町社協に関わるボランティアや利用者の皆さんが、日々の活動の中で直感的に理解できてスムーズに使っていただけることが重要になってきます。

実験を始めてみると、それが私たちが予想したよりも難しいことがわかってきました。
当初私たちが想定していた使い方は以下の2つでした。ひとつめは、まず施設でプロダクトを展示や紹介をして町の皆さんに興味を持ってもらい、それぞれのにおいが気になる物を持ち寄り使用していただくこと。もうひとつの想定は、広川町のボランティア活動センターで「くらサポ(くらしのサポーター)」さんに持参してもらい、訪問したご家庭で活用いただくことでした。
しかし実際には、そもそも皆さんがナノイーX自体を深くご存知ではないこと、においの気になるものをいつも携行していないこと、公の場で個人的な物を預けることに抵抗があることなどが浮かび上がってくることに。

広川町でのワークショップでブレイクスルー!


こうした現場でのさまざまな気づきといくつかのプロダクト改良の往復を経て、8月23日に広川町社協の職員3名と京都工芸繊維大学畔柳先生と学生1名、UCI Lab.の2名、さらに飛び入りで参加してくださった「つなぎteおおむた」の彌永恵理さんの8名でワークショップを実施。4時間近くをかけて、6−8月の実証実験で集めた声をまとめ、最終プロダクトに向けたアイデアをまとめていきました。

8月23日のワークショップの様子(フィードバックのまとめ)

職員の皆さんには、実際の試作品を現場で積極的に利用やご紹介されていたからこそ得られる、とても豊かできめ細かなフィードバックをいただきました。
さらに、職員の皆さんが初体験と仰っていたアイデアブレストでは、畔柳先生も驚くほど、たくさんのアイデアが掛け合いながら出てくる充実のセッションとなりました。

畔柳先生リードのもと、絵で断片的なアイデアをみんなが次々に出していきます


そうして、浮かび上がってきたのが、2つのプロダクト。まず、日常でナノイーXの(避難所でも役立つ)効果を知ってもらうために、施設の休憩室などで「靴を脱ぐ」動作に着目。用途を靴に特化して、今ある習慣の中で効果を体感 認知してもらう靴箱タイプ
そして、ボランティアで家庭を訪問したときに、お掃除など支援をされている時間に気軽に洗えない物に使える大きなバッグタイプ。こちらは、特にわかりやすい対象として「枕」を想定することに。それぞれについて、これまでの実証実験の結果を踏まえた様々な要件やアイデアとともに、実際に現場で役立つデザインを具体的につくっていくことになりました。

ワークショップの場でまとまった2つのプロダクトとその要件整理
アイデアブレストのあと、投票も参考にしながらポイントを探っていく
アイデアブレストは2つのアイテムで時間を分けて実施


現場で長期間試してもらったからこそ


このプロジェクトでは、開始した3年前から、防災を特別なこととせず「日常から使い慣れておくデザイン」をゴールのひとつとして進めてきました。とはいえ、それを本当の生活の中で実現するためには、多様な選択肢があります。私たちは、当初は日常で使い慣れておくために各世帯で購入し使用する物を想定していました。しかし、緊急時の限られた荷物の中で持ち込む難しさ、避難先で限られた世帯が使う難しさに気づきました。そこで、緊急時に避難所になりうる場所で日頃から使用してもらうことを目指したのです。しかし、公の場の日常で、プライベートなにおいをケアすることは抵抗が大きいことが浮かび上がってきました。そして、現場で“さりげなく”使えるというキーワードに辿り着いたのです。
すこし多めの紆余曲折、遠回りをした気もしますが、こうして実際に効果のある試作品を持ち込みながら、こたえを一緒につくっていく試行錯誤の営みこそが共創デザインの実践だと、改めて感じました。

「自然なふるまい」を求めて施設内を動き回るなかで下駄箱に出会う


いよいよ、最終プロダクトを現場へ


時間を少し戻して、今年の7月のこと。私たちの活動を知ったプライムライフテクノロジーズ株式会社(以下、PLT社)の方からご連絡をいただきました。PLT社では新しい取り組みとして、ミサワホームが事業主体となり東京都大田区と事業契約を締結し、旧羽田旭小学校敷地を活用した試作開発拠点等を含む産業支援施設の運営を準備中。そのテストケースとして、私たちの試作品の製造をお手伝いいただけることになりました(!)。
まだ試作品の仕様や素材の詳細が見えず、試行錯誤段階であった私たちにとって、大変ありがたい支援でした。この「作り手のいる安心感」が、8月末の広川町でのワークショップをのびのび発想できる場にしたとも言えます。

こうした偶然の出会いなどを経て、広川町社協との共同実証実験の成果を、さらに多くの「もしもの時に避難所になる現場」へ実装していく、次のステップに向けた準備が整っていきました。
9月以降は、京都でプロダクトの試作と設計が急ピッチで進められ、途中パナソニック(滋賀)の技術者からのアドバイスもいただきながら、さらに福岡の広川町社協での検証も重ねて、いよいよ近日、東京大田区の工房で最終プロトタイプが完成します。本当に、全国のたくさんの方々の協力無くして、この日を迎えることはできませんでした。

11月7日に広川町で再度ワークショップを実施。地元のテレビ局にも取材いただきました。

ただ、この「いつもともしも」のための防災プロダクトを全国の現場に本当に届けるには、あとひと息の挑戦が必要になります。完成した最終プロトタイプと、具体的な挑戦については、近々改めてご報告させてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
引き続き応援のほど、よろしくお願いします。(渡辺)

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