赤の他人が家族のふりをして一年過ごす話が面白かったよという話(『鈴木ごっこ』読んだ!)
謎の多い「家族ごっこ」と驚きの結末
多額の借金を抱えた主婦にその埋め合わせとして命じられたのは四人の他人同士で一年間「鈴木」という家族のふりをして過ごすことだった。
そんな突飛な出だしから視点の人物を変え四季が描かれる。借金を抱えた事情も年齢も性別も違う四人が始めた家族ごっこ。慣れてきたころに「隣の奥さんと不倫しろ」と突然指示が追加された! 衝撃的なスタートや展開の中で、気になるのはこの行為の意図だ。借金と『鈴木』のふり。この関係は何なのか。途中で追加された課題の意図は何なのか。そして、自分以外の三人の正体とは。不安に思っても、彼女らが巨額の借金を返すため、そして一年後も平穏に過ごすためにはこの謎多き「鈴木ごっこ」を一年間やりとげるしかない。四人は力を合わせながら一年を過ごす。徐々に明かされるそれぞれの事情。だんだんと親しく、本当の家族のように過ごすようになる四人。そして最終章で明かされる『鈴木ごっこ』の目的と全貌はかなり衝撃的である。
さて、この話はミステリーである。結末やこの話の根幹にかかわる部分については触れるのは野暮というものだろう。しかし、触れなければ魅力が半分も伝わらない、というのもまた事実だ。だからここから先は結末を知った私の感想になる。
この話の結末は、私にとって怖いほどに驚きをもたらすものだった。ずるい、悔しい、とさえ思った。読者への挑戦状、があからさまに出されていたわけではないから、結末を予想する間もなくぐいぐい読んでしまっていたのもあるが、予想外で驚きの結末について「予想できたはず」と思ったのだ。そう。この話は誠実な「ミステリー」だ。謎の答えに行きつくためのヒントはすべて最終章までに用意されている。気づくことが出来るのか、それとも私のように見逃して悔しい思いをするのか。私としては騙されるのも楽しいのでぜひすっきり騙されてほしい、と思うが最終章までに謎に気づくのであれば、また一興だろう。
メモ:完全にタイトルで選んだ一作。思ったより面白くて当たりだった。
『鈴木ごっこ』木下半太 幻冬舎 平成二十七年 ISBN:978-4-344-42347-3