【読書メモ】『イエスタデイをうたって』(著:冬目景)
本棚の断捨離をしていたら久々に発掘、なんとなく再読してみました、全11巻+1冊。連載期間は足掛け17年くらいだったのでしょうか、最初に出会ったのは3巻がでていたくらいで、どこか居心地の良い倦怠感が魅力的で追いかけていたシリーズです。
そういえば数年前にアニメにもなっていて、見た覚えはあるのですが内容はあまり印象には残っていないような、、大枠としては原作の雰囲気を上手く表現できていたのは覚えているのですが、うーん。
物語の舞台設定は2000年前後だと思いますが、今の世代にこれは受けるのだろうか、ちなみに榀子先生派でした。
1巻の奥付をみると1999年発行、雑誌掲載は平成10年とありますから、もう四半世紀は前ですか。確か大学を卒業して半年が過ぎたくらいから始まる物語、主人公はフリーター2名に非常勤講師1名(だったかな?)と、氷河期世代を生きている一人として、当時から妙な親近感を持ちながら読んでいた覚えがあります。自身のヘタレ具合とか世の中へのもどかしさとか、モロモロとシンクロさせながら。
連載が始まった時は同世代(20代半ば)だったのですが、今となっては息子(4月から大学生)の方が彼らの世代に近くなってしまいましたねぇ、、なんにせよ1990年代後半から2000年代前半にかけてのシニカルな世相が上手く表現されていると、そう思います。今では使わなくなってしまったのかもしれませんが「自分探し」なんてフレーズを、思い出してみたりも。
2巻、3巻は永遠に続くかとも思われる、先は見えないけれども、たわいもない日常の描写が続きます。それらに羨ましさを感じるのは、年を取ったからか失ったモノだからか、、20代の頃しか得られないものはあるよなぁ、、なんて思いながらも、この辺りから少しづつ、少しづつに変化の兆しがでていて、伏線とみるか匂わせとみるか、三角関係だけでとどまらずに縁が円として広がっていくのは、群像劇としても秀逸と思います。
4巻の柚原さんのエピソードは結構好みです、物語のターニングポイントとしても。リクオ・シナコ・ハルの関係に、徐々に変化が出始めるきっかけになったのだなぁ、と、読み返してみればあらためて。ゆるやかな日常を積み重ねながら生きていくという事は、決して不変でもないのだな、とは。
そして5巻では「恋人たちの予感」との章題も示すように、徐々に徐々に、本当にゆったりと距離を縮め始めた二人。
そういえば「青春の蹉跌」の高校生カップルの近未来は『ももんち』という作品でうかがい知ることもできたと思いますが、、手放してしまったかな。
6巻、気づいたら正社員になってコンビニバイトを辞めたリクオくん、あわせてそれぞれを取り巻く環境にも変化が起きていきます。環境をトリガーとして人々の関係性も変わっていくことになりますが、、何気に気になる杏子さん&クマさんペアがちょっとした暗示に見えたりも。
物語終盤、一つの動きがあります。一つ一つの積み重ねの結果として、なかなかに興味深く、、確かに『めぞん一刻』へのアンサーの一つとも見れますね、と今更ながらに。
7巻は新年から春先にかけて、イロイロなはじまりの年の物語でした。
それこそ『めぞん一刻』での響子さんのデジャブを感じたりも。二人ともに、今までが今までであっただけに、急激な変化についていけてないような。そんなやきもき感もまた理解できるだけにせつなさもありますが、、若さゆえの勢いって大事だよ、なんて思うのは、年取った証ですかね、、「これが若さか、、」的な。
8巻は思った以上に不意打ちな感じの物語。穏やかで緩やかな関係に、徐々に変化の兆しがみて取れます。どの人物の気持ちもわかるだけにやはり、やきもきとしてしまいますねぇ、、
それにしても、いつのまにやら年代はだいぶ先に進んでしまってるよなぁ、、なんなら主人公たちの親世代にまで、ともあらためて。
個人的には結構決定的なフレーズだと思います、いろいろな意味合いで。やはり頭だけでも感情だけでも乗り切れなくなるのかな、20代も後半にかかってくると、なんて、後方腕組み気分で。
9巻では、こうして少年少女は「大人」になっていくのか的な展開かと思ったら、、相変わらずに進んでいるようで停滞している各々の関係が散見、うーん。。
さざ波が大波になりそうな、振り切るのも沈んでいくのも、どちらを選んでも一つの選択、どちらも正解でしょうし、またどちらも不正解なのでしょう、、見方ひとつで。大事なのは、「自分で選び取ること」、「選び取った結果と向き合うこと」かな、と。
10巻にいたり、ようやくそれぞれの「選択」があきらかになりつつ、、変わらない安寧の中に居続けるのは心地が良いけれど、いつまでもそのままでいられるわけでもなく。また、生きていくということは前に進むということでもあるのかな、と。
変わることには痛みが伴うけれど、人はそうやって営みを重ねてきたのかな、その痛みをどうやって乗り越えていくのか、、さて、物語も終盤に向けて加速していきます。
11巻でようやく一つの終わりへと収斂されていきます。初めて読んだのは、ちょうど仕事を始めたころ、働くということを悩んでいた時期でもありました。劇中の時間は5年程の経過だったのかな、20代の5年は劇的な変化を伴います、煌びやかな記憶とともに、、40代、50代だと10年ひと昔なんて言い回しで片づけてしまいたくもなりますが、まぁ、ここまで来るとノスタルジーの延長ですねぇ。
人生は何が起きるかわからない、どうなるのかもわからない。だからこそ、一つ一つを丁寧に選択していきたいですし、その結果が何であれ、まずは受け入れて、その上で大切に前向きに繋いでいきたいなぁ、なんて風にも思います。
そんなこんなでふと思い出したのが、塩野さんのこちらの一節。
20代を軸とした若者たちの青春群像劇、久々の再読でしたがやはり面白い、一気読みでした。基本、いい人しか出てこないのも安心して読める理由の一つかな。
さて、4月から大学生の息子はどんな青春を過ごすことになるのかな、と、少しの羨ましさをも感じながら、、自身の20代への郷愁とともに(アラフィフです)。