【読書メモ】『斜陽』(著:太宰治)
少し前、太宰治作の『羅生門』があったらしいとのネットイジリを見て思い出した一冊。手元には角川文庫版があるのですが、表紙が暗闇の中で微笑む少女となかなかに印象的です。
さて、物語の舞台は戦後間もない混乱期の日本。軸になるのは4名の男女、でしょうか。戦後の混乱期にそれぞれが悩み、苦しんでいる、そんな様子の物語が綴られていくことになります。
どこかお嬢様然としたバツイチの、「かず子」。復員後、なんとも退廃的な生活を送るかず子の弟、「直治」。戦後の混乱の中でも誇りを見失わず凛と在り続ける、その二人の「母」。そして、どこか太宰自身を投影したかのような無頼な小説家、「上原」。
劇中では主にかず子の視点で語られていきますが、、皆が悶えている中でも、どこか危機感のない悩みを持ち続ける彼女、そんな様子を楽天的で前向きととらえればよいのか、ただの甘ったれと言い捨てればよいのか、、悩ましいところです。
直治と母、二人を失っていく中でも、さして好きでもない上原との不義の子を授かりたいと。およそ生活力のないかず子がシングルマザーとなる、先に見えるのは緩やかな破綻でしかないとも思いますが、、
この後、“母”となったかず子がどうなっていくのか、意外と強かにのほほんと生きていったのではないか、と個人的には。そんな根拠のない明るさが、戦後の苦しい現実の日本社会において受け入れられていった理由の一つでもないかなと、そんな風に感じた一冊です。
ちなみに今の表紙はAmazonだとこんな(↑)感じですが、うちの本棚にある角川文庫版はこんな(↓)感じです。