『エルサレム』の装幀を読む
書評をまとめるつもりでしたが、まだ混乱中。
そこでひとまず、ゴンサロ・M・タヴァレス『エルサレム』(木下眞穂訳)の装幀を紹介したいと思います。
緑と青の混じる闇のなか、教会の輪郭だけがぼうっとうかぶ。物語の冒頭は夜明け前、ミリアは教会にはいりたいのに、ドアは固く閉ざされている。
タイトルの下には、作中で強い印象を残す旧約聖書からの一節。原語のポルトガル語が背表紙まで巻きついている。
(DeepL翻訳:もし私があなたを忘れたら、エルサレムよ、私の右手を乾かしてください。)
中東では乾きが命取りになるのだろうか、と想像したりする。
裏表紙のイメージは表とまったく異なるのだが、それは実物を見てのお楽しみということで。
ざらざらとした手ざわりの黒色の帯は角度によって千鳥格子がうかびあがり、箱が一面に並んだような立体感を演出する。
この作品を読んでいるときは自分まで箱のなかにいる感覚に襲われ、息苦しくなるほどだが、そんななか救いとなってくれるのが、可憐な色のしおりである。
奈落に垂れた蜘蛛の糸のように、これさえあれば現実に戻れる、光の射す方へのぼっていける、と思える。現実にとくに光が射していなくても……
読後、ページを閉じてふたたび表紙を見る。モスクのような丸い屋根に十字架。エルサレムがユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地であることを考える。登場人物たちを駆り立てたもの、避けがたいぶつかり合いについて思う。
一日たち、二日たっても、ずっとエルサレムが脳裏にちらついている気がする。ちょうど背表紙の題字の位置とおなじ、右上のあたりで。
(装幀:仁木順平、装画:小村希史)