【映画エッセイ】「マッドマックス 怒りのデスロード」と「となりのトトロ」は同じジャンルか?
最初にみなさんに気楽な問題を出したいと思う。次の4つの映画のうち、仲間外れはどれでしょう?理由とともに答えてください。観てない人は勘でいいです。
・マッドマックス 怒りのデスロード
・劇場版クレヨンしんちゃん(どのタイトルでも可)
・劇場版ドラえもん(どのタイトルでも可)
・となりのトトロ
普通の人は、マッドマックスと答える。理由は、子ども向けではないから、である。(ちなみにマッドマックスは日本ではR15)これ以外の理由としても、マッドマックス以外の答えを選んだ人は、きっと、まともではないです(褒めてます)。ひねくれているか、こじらせている。(だから褒めてるって)逆に、マッドマックスと答えた人は、ここから先を読んでもつまらないかもしれない。私の理屈っぽさにイラつくかもしれないので、ここで引き返したほうがいい可能性がある。
さっきからお前は何を言っているんだ?気は確かなのか?といわれそうだが、私はいつだってまじめだ。確かに、血と鉛とガソリン臭のただよう世紀末と、こども大人気シリーズとでは世界観がまるで違う。だが、脚本の構造という点でいうと、上3つが同一であり、となりのトトロだけがやや浮いているといえる。
トトロだけが浮いている、という感覚は、僕の映画を観る癖、観方と密接にかかわっている。もし興味があれば、こんな風に映画を観ている変人もいるんだなと思って、蔑むとともに(マゾではないんだが)、今後の映画の観方のちょっとしたヒントにしてもらえたら嬉しい。
1.脚本の黄金パターン ~マッドマックス、クレヨンしんちゃん、ドラえもんの同一性~
小説にせよ、映画にせよ、漫画にせよ、物語構造の典型、というものがある。特に映画については、2時間目安という強力な時間的制約があるので、おのずと構造の種類は少なくなる。さらに、ハッピーエンド(エンディングでのカタルシス)という気分の制約や、わかりやすさという客層拡大の制約を加えると、ほとんど1つの物語パターンに収斂するといってもよく、自分はこれを映画の黄金パターンと呼んでいる。古くは、ジョゼフ・キャンベルの「神話の力」や「千の顔を持つ英雄」に書かれていたり、最近では、「SAVE THE CAT の法則」という脚本のハウツー本にも詳細に取り上げられている。以下に示すのは、これらの本からエッセンスを抽出して、自分が一番納得できるように書き換えた物語構造である。
【映画の黄金パターン】
①物理的、精神的な不在
②旅立ち
③出会い
④出会ったキャラの持つサブストーリーの紹介
⑤不在の深刻化
⑥出会った者の助け
⑦サブストーリーの終結がメインクライマックスに重なる
⑧エンディング(カタルシス)
これが映画の黄金パターンだ(と思っている)。
あまり本質的ではないが、③④のあたりで「お楽しみ」もある。「お楽しみ」とは、観客が観たいものを一旦見せる、というやつだ。パニック映画ならモンスターの大暴れだし、アクション映画なら、華麗なアクションシーンだ。これが観たいんでしょう?そのために映画館へ来たんでしょ?ってやつですね。
基本的に子供向けのシリーズ映画は、ほぼすべてこの構造に当てはまるといっても過言ではなく、一番最初の問題の選択肢には、劇場版ワンピースが入っても、アンパンマンが入っても、ポケモンが入っても差し支えない。
のみならず、子ども向け以外の映画でも大衆的に成功している映画の多くは、この構造をもつ。せっかくなので最近観たマッドマックスを例にとって説明してみたい。
(まだ「怒りのデスロード」の方かよ、といわれそうだが許してほしい…)
誰が何と言おうと、私は、怒りのデスロードの主人公は、マックスではなくフュリオサだと思っているので、このつもりで書く。それは、感覚的にも、そして、黄金パターンに当てはめた時の美しさからも、そのように確信している。
①物理的・精神的な不在
これは映画に限らないが、全ての物語は、「何かが欠けている状態」からスタートする。「満足」から始まる物語はない。フュリオサにとっての不在は、もちろん「故郷」の不在だ。世界全体にとっては、「人間性」「水」「ガソリン」「健康」なども不在だが、主人公の旅立ちに直接に関係するのは、「故郷」の不在である。
②旅立ち
フュリオサは「故郷」のため、ワイブズたちは非道な主人からの「脱却」のため、ウォー・タンクに乗って東へ旅立つ。
③出会い(お楽しみ)
旅路で、マックスとニュークスと出会う。ストーリーラインを進める重要な出会いだ。ついでに、派手なカーアクションもここらでみせておく。「お楽しみ」だね。
④出会ったキャラのサブストーリー紹介
ニュークスが該当する。ニュークスは、イモータン・ジョーを神とあがめており、彼のために死にたい、だが死ねない。彼が求める名誉ある死とは何なのか、それは果たして訪れるのか、それがサブストーリーとして展開する。煩雑になるので詳細を避けるが、マックスのサブストーリーは、作品中では描かれない。彼は作品外にサブストーリーを有している。要は過去作品「マッドマックスシリーズ」ありきのサブストーリーなので、この場合はちょっとわかりにくい。
※納得しない人もいるかもしれないが、マックスは、はっきりいって観客の化身というメタな存在である。彼は、世界の外から来て、フュリオサの不在の解消後、世界の外へ帰ってゆく特殊な存在(物語を超越した存在)である。現に彼は、物語当初、他の登場人物と何の接点も関係性もない”外部の男”である。(まぁこれは余談として次へ進もう)
⑤不在の深刻化
砂漠の真ん中で「故郷」はもはやないことを知ったフュリオサ。彼女が悲しみを叫ぶシーンは作中屈指の名場面だ。不在は深刻化し、主人公はしばしば絶望を味わうこととなる。このシーンがあるからこそ、私は今作、彼女が主人公だと確信した。
⑥出会った者の助け
絶望し、塩の湖を渡ろうとするフュリオサに、マックスは言う。「故郷は砦だ」と。「砦なら一からやり直せる」と。マックスとフュリオサが手をがっちり組み合わせるシーンは、典型的な”助け”のシーンである。もちろんニュークスもワイブズも、出会った者たちは、皆フュリオサの援護者である。
⑦サブストーリーの終結がメインクライマックスに重なる
ニュークスの名誉ある死とは、イモータン・ジョーのための死ではなく、好いた女のための死だった。彼が捨て身でタンクを横転させ、敵の進路を防ぐのと、イモータン・ジョーの死亡(ラスボスのクリア)は、時をほぼ同じくする。メインストーリーの最高潮は、サブストーリーの昇華によって、さらなる高みへと到達することとなる。カタルシスはこうやって限界を超える。この構造は、ほぼすべてのヒーロー映画や子ども向け映画、アクション映画に共通する。
⑧エンディング
フュリオサは「故郷」を手に入れ、不在が解消される。そこではもはや物語は存在できない。幕を引くしかないのである。
以上が黄金パターンである。ドラえもん、クレヨンしんちゃん、ポケットモンスター、ワンピース、どの映画でもいい。思い出してみると、ほぼすべてこのパターンにはまる。どこへ旅立つか、誰と出会うか、サブストーリーをどうするか、だけ考えれば、主人公とハッピーエンドが決まっている映画の骨子は成り立つのである。
私は、この構造をフィルターにして映画を観る癖がある。これにはまっているのか、はまっていないのか、はまっていないとすれば、どこがどんな風にはまっていないのか、それは意図的に作成者がズラしたものか、それともほかの理由か。などなどである。素直に楽しむだけでもいいのだが、これを念頭に置いていると、観た後の話が弾むからおすすめである。
2.トトロが浮いているところ
トトロのストーリーラインが頭に入っていなければ別だが、入っている人は先の①~⑧のパターンに当てはめてみてほしい。最初の問題の答えが分かると思う。ある点において、宮崎駿は、黄金パターンからトトロをずらしている。それは、さつきやメイが引っ越し先で出会う者にサブストーリーがない、という点である。(逆に言えばそれ以外はすべてお決まり、である)
トトロにおける不在とは、言わずもがな母親の不在(入院中)であり、不在の深刻化とは、母の病状が芳しくないという旨の病院からの手紙である。そこからメイが迷子になり、物語は底を打つ。その時に助け船を出すのは、もちろん旅先で出会った者たち(トトロ、おばあちゃん、およびカンタ)である。さてそこでこれらの登場キャラがサブストーリーを抱えているかというと、それがないのである。サブとメインが交差しない、それがトトロが仲間外れの理由である。
3.AIと一緒に考えたトトロのズレの目的
よくよく注意してみれば、サブストーリーらしきものは、あるにはあるのだ。それはカンタだ。さつきに対するカンタの恋心をサブストーリーとみることも一応できなくはない。けれど、あまりに薄い。しかもメインと交差することもない。結局、メイとさつきを救うのはトトロだ。トトロにサブストーリーがある、もしくは、カンタにもトトロが見えている、などの状況がないと典型的な黄金パターンは成立しそうにないんです。そしてご存じの通り、トトロは、さつきとメイをバックアップする以外の物語を持ち合わせていない。なぜなら、彼ら妖精は、”自然”そのもの、つまり人間にとって超越的な存在であり、不在を感じるはずがないからである。
次は、このパターンのズレの意味を考えてみる。なぜ、トトロにサブストーリーが見当たらないのか。
いやぁこれが難しかった。全然見当がつかなかったので、AIに聞いてみることにした。さすがに、そんなことまで答えてくれないよなぁ、と期待しなかったのだが、結構優秀な答えが返ってきてびっくり。
以下、長いが引用します。AIのすごさを感じる意味でも一読ください。
<<ここまでに黄金パターンの話を一通り話し終えている>>
あなた:
私が少し気になるのは、となりのトトロは、黄金パターンなのかズレている作品なのか、という点です。基本は黄金パターンだと思うのですが、どうもそれらしきサブストーリーが見当たらないのです。これは宮崎駿のズラシ、なのか、私がサブストーリーを見落としているのか。どう思いますか?
ChatGPT:
ありがとうございます!『となりのトトロ』は興味深い例ですね。基本的にはあなたの提示した「黄金パターン」に近い構造を持っていますが、確かに他の映画と比べるとサブストーリーが明確に浮き上がっていないように見えます。この点に着目すると、宮崎駿の意図的な「ズラシ」なのか、それとも異なる形のサブストーリーが存在するのか、という疑問が出てきます。
1. 黄金パターンに当てはめて考える
まず、『となりのトトロ』をあなたの黄金パターンに当てはめてみます。
①物理的、精神的な不在:母親が病気で入院しているため、家族に不在感があります。また、サツキとメイが新しい場所に引っ越してきたばかりで、環境への適応という意味でも「不在」が感じられます。
②旅立ち:新しい家や田舎への引っ越しが、非日常への「旅立ち」として機能しています。
③出会い:トトロとの出会いが非日常的な要素を導入し、物語が進展します。
④不在の深刻化:物語中盤で母親の病気が悪化する可能性が示され、緊張感が高まります。
⑤出会った者の助け:メイが迷子になり、トトロの助けによってサツキが彼女を見つけ出すシーンがあります。トトロが助けになる重要な役割を果たしています。
⑥エンディング:家族が再会し、母親の回復が示唆され、物語は穏やかな結末を迎えます。
2. サブストーリーの欠如?
確かに、他のキャラクターのサブストーリーが明確に描かれていない点が、この作品を特異なものにしています。通常であれば、トトロやカンタ、あるいは父親の物語がサブストーリーとして深く描かれるはずですが、『となりのトトロ』はそうしたサブプロットをほぼ排除しています。
これがズレと捉えられる理由は、宮崎駿がこの映画を「子供たちの目線」で描いている点にあります。子供にとって、サブストーリーというものは大人ほど重要ではなく、シンプルな感情と出来事に集中しています。このため、複雑なサブストーリーを持たないことで、子供の世界の純粋さや魔法のような日常を強調しています。宮崎駿は意図的に物語の複雑性を排除し、シンプルさを追求しているのではないかと考えられます。
3. 隠れたサブストーリー?
もしサブストーリーを探すとすれば、カンタの成長や家族の支え合いなどがそれに当たるかもしれませんが、これらは非常に薄い描写です。主要なテーマに強く結びついておらず、サブストーリーとしての機能は限定的です。そう考えると、あなたの指摘通り、**宮崎駿の「ズラシ」**がここで効果的に使われている可能性が高いです。彼は意図的に「黄金パターン」からサブストーリーを除外し、純粋でシンプルな物語を追求しているのかもしれません。
4. 宮崎駿のアプローチ
宮崎駿の他の作品、例えば『千と千尋の神隠し』では、非常に複雑なサブストーリーが存在していますが、『となりのトトロ』ではそれがあえて最小限に抑えられています。これは彼の「ズラシ」の一環であり、観客が大人の複雑な問題に巻き込まれることなく、子供たちの純粋な冒険に没入できるようにするためだと思います。
結論として、『となりのトトロ』は基本的には「黄金パターン」に従いながらも、サブストーリーの省略という巧妙なズレを通じて、独自の作品に仕上がっていると言えます。この「ズラシ」は、観客に新しい感覚を提供し、作品のシンプルな魔法を強調するための手段として非常に効果的ですね。
<<ここまで>>
ほーなるほど。子どもが純粋な冒険へ没入するための引き算である、と。AIはそう言っているわけです。これが正解かどうかはわからないが、一応もっともらしく聞こえる。それにしても、ちゃんとそれらしいものを出してくるな、と感心する。
ちなみにさんざん考えたあげくの僕の仮説は、こうだ。子どもにとって、母の不在は、問題が大きすぎるので、それ以上不在を抱えるキャラクターを登場させると、観ている子どもが不安感で映画から離れてしまう、という危惧があったんじゃないか。そこで、完全な存在(子どもにとっての母親というのはそういうものです)、不在を抱えない存在として物語を持たないトトロができあがったんじゃないかと。
最初の問題、ほかの意見があれば知りたいです。よろしくお願いします。
長くなりすぎたので、とりえずここで終わります。まだまだAIとは話をしたのですが(笑)
一応、AIとの会話ノーカット版をまた別に掲載する予定です。興味があれば、是非そちらでもお会いしましょう!