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俺は奴隷で奴隷には詩が必要だ。~「サボる哲学」!詩とアナーキズム~

どうも残業が増えると不満が募る。生きた心地を忘れて、叫びだしたくなる。「この、ブルシットジョブが!!」と。資本主義と世間体の鎖が肉に食い込む感触を思い出す。あぁ、俺は、自由ではない。現代の奴隷だ。戦争と植民支配が生み出した、支配者と奴隷の関係。時を超え、俺は、まだ鎖につながれている。

そんな時、俺は図書館や本屋へ行く。俺にとって、本は自由の象徴だ。本の中には、鎖がない。あるのは物語と知識だ。物語と知識は、ともに支配者に抵抗する古来からの手段である。そんなわけで俺は、鎖を感じた時、より強く本を求める。

怒りと悲しみが沸き立つ心で、一冊の本を見つけた。

あぁ、なんてアナーキーなタイトルだ。今の俺にピッタリじゃないか。心が震える。俺の奴隷根性を叩き直してくれたまえよ!値段も見ずに購入した。こうやって、鎖に傷を与え続けなければ、そうやって希望にすがらなければ、俺の精神はやがて使い物にならなくなる。

なぜこうも従順に、俺たちは、社会の奴隷をやっているんだろう。カネ、生産性、世間体、あらゆるものが俺たちの”やりたいこと”を阻害する。みんなそうだから、明日生きていくために、家族を食わせるために、会社を潰さないために、リスクを減らすために、老後楽をするために、全てのブレーキは、つまるところ、「お前が奴隷をやれば丸く収まるんだよ」と言っている。あるいは、「未来のために今を犠牲にしろ」と言っている。その通りだ。そんなことは知っている。けれど、俺にはラッダイトと起こすパワーも、商船の帆を(ストライク)する勇気もない。あぁ、悔しい。歯がゆい。情けない。

壮絶に過酷な労働環境だった航海時代の商船のクルー。彼らは、まさに船長の奴隷だった。海を走る超絶ブラック企業。クルーは、病に伏せ、飢餓にもだえ、家族を人質に取られ、それでも気概奮発、船長に反旗を翻し、船の帆を打ち倒した(Strikeした)。これが、ストライキの語源なんだそうな。クソっ!かっこいいじゃないかよ。

塀の上で生きろと言った養老孟子

少し話を変えよう。養老孟司は、塀の上で生きろと言った。塀というのは、常識と非常識、公とプライベート、労働人と私人、といった堺のことだ。完全に会社の人間になるな、嫌ならいつでも辞められて、会社以外の情勢にも目が行き届く、移動しやすい、そういうポジションに身を置け、と言っているのである。

ズッポリ奴隷にハマるなよ、ということだ。俺はこれを信条にしている。いつでも辞めてやる、囲い込まれない、お前の道具ではないし、お前の仲間でもない。俺は、一匹狼だ。次の瞬間、ピョンと隣へ移ってやる。

それでも残業をしてしまう自分の情けなさと言ったら言葉にならない。俺は、涙が出そうになる。本当に、日本のみな様、労働者の同士のみな様、お疲れ様です。

詩はアナーキーだ

さて、そこで詩である。ずいぶん前から詩を書いている。書こうとして書いているのではない。降りてくるものを書き留めている、といった方が正確だ。前述の本の中で、詩とアナーキーが語られる個所がある。グッときたので紹介する。(引用ではなく咀嚼してお届けする)

中動態と詩

この世の言語というのは、能動と受動の関係を軸にしている。英語がその典型だ。主語Sがあり、述語Vがあり、対象物Oがある。誰かが、何かを、どうこうする、のだ。

中心はいつでも主語である。私が、何かに影響を与える。私こそ優位であり、対象はその影響を免れ得ない。この言語の構造こそ支配的な認識と結びついている、という。能動と受動という思考の枠組みは、支配、被支配へと直結する。そこでは、主従関係が常に存在し、対象は主語の支配下に置かれる。

学校で習った第三文型。SVO。
You strike me! お前は、俺を殴る。
I strike you! 俺はお前を殴る。
主語と対象は、戦争を始める。
それがこの世界である。資本主義であり、競争社会である。

そこへもって、一つの穴が示される。中動態、だ。これは、主語が動詞に巻き込まれている状態、だ。

なんのこっちゃ。

具体的に言えば、詩が詩人に降りてくること、だ。音楽がミュージシャンに宿ること、だ。そこに主従関係はない。そこには意志もない。優位も競争もない。自然にそうなっちゃった、のだ。

主語の性格、思考、意思、強弱、すべては無視されて、その行為だけ、その奇跡だけ、キラッと光り、浮かび上がる。能動でも受動でもない。ただそこに起こる、中動態。

能動と受動の塀の上に詩は舞い降りる。
俺はそれをそっと手に取り、書き留める。

一瞬だけ、肉は鎖から解かれ、心は空を舞う。
カネも生産性も名声も、すべてシャットアウト。

ただそこに詩が生まれ、俺は、奴隷になった夢を見ていたのか、と錯覚する。





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