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古めの桃太郎を読んだら面白かった
なぜか図書館で目に入ってしまったので、日本昔話を読んでいる。
いや違う。
”日本昔噺”である。
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著者なんて巌谷小波(いわやさざなみ)さんである。
なにその素敵な名前は。
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いや、この人めっちゃすごい人だった。
児童文学史を切り開いた人でもあるが、作詞までやっている。
富士山の歌、「ふじの山」の作詞もこの人だ。
作者の話はともかく、中身を見ていこう。
まあwikipediaの画像を見て察しが付いているとは思うが、
もちろん我々現代人に簡単に読めるような雰囲気ではない。
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もう序文の時点で打ち砕かれる感じが凄い。
もはや横文字のnoteでは書きようもない「く」を長くしたような記号が当たり前にあるくらいだし。(くの字点というらしい)
くの字点は、「そもそも」みたいな同じ繰り返しを行うときに、後半の「そも」を書かずにくの字点で置き換える、みたいな使い方をするそうだ。
しかしまさか「ことごと」みたいなときにも使えて、くの字点に濁点をプラスできるなんてのは初めて知った。
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そして記念すべき最初の話は桃太郎。
始まりはこうだ。
「昔々あるところに、ぢぢいとばばアがありましたとさ」
まさかの最初の一文からパンチが凄い。
この本を手に取って良かった。
「ババアなんて言っちゃ駄目!」と母には教わった気がするが、昔はこんな感じでOKだったらしい。日本語は深い。
そして私達のよく知る桃が流れてくる場面の効果音だが、
「ドンブラコ」だと思いきや、
「ドンブリコッコ、スッコッコ」である。
どんなノリで書いたんだろう。
酒でも飲んでたのかな……?
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そして流れる桃に対してお婆さんが手拍子をとりながらこんな事を言う。
「遠い水は辛いぞ!近い水は甘いぞ!!辛いところは避けてこい!
甘いところへ寄ってこい!!(手拍子を取りつつ)」
元気なお婆さんである。
しかしこんな「こっちのみ~ずは あ~まいぞ☆」みたいな展開、桃太郎にあっただろうか?
というかまさか「ほたるこい」の歌詞は桃太郎のパクり……いやこれ以上の追求は避けるとしよう。
そんなこんなで桃が寄ってきたのでお婆さんは拾って家に持って帰る。
今まで生きていてこんな大きな桃は見たことがないレベルだったらしい。
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そして包丁で桃を真っ二つにしようとしたとき、桃の中から声がした。
「お爺さん!!しばらく待ったッ!!!」
どう考えても赤子の口調ではない。
そして桃は自然とパックリ2つに割れる。
なんだか宇宙人のカプセル説がありえる気がしてきた。
桃太郎は2人に説明を始める。
「私は決して怪しいものではない。天津神様が『子供がいない夫婦かわいそう…』ということで私を授けたのだ。自分の子として育てなさい」
なんと桃太郎は神様から遣わされていたのだ。
”宇宙人が自分の生命維持のために老人を騙している”ように見えなくもないが、とにかくそういうことなのである。
でもそれを聞いたお爺さんお婆さんは半狂乱で喜んだらしいので、良かったのかもしれない。
そして15年後。
桃太郎は立派に育ち、感謝の念を述べる。
お爺さんのそれに対する返しが、「親が子を育てるのは当然のことだ。これから私達はお前の世話になるのだから……感謝などおかしいよ」である。
考えてみれば物語の最初からもう結構なお年を召していた。
そこから15年育てたなら、もう本当に隠居したかったのだろう。
だが桃太郎はこう返す。
「ちょっと暇を貰っていいですか?」
……どうやら隠居はもうしばらくおあずけになりそうだ。
別に桃太郎は介護を放棄したかったわけではない。(多分)
神に逆らう鬼が悪逆非道な行いをしているので退治したかったのだ。
果たしてどこからその情報を得たのか。
最初から知っていたなら15年は時間かけすぎだろという話なので、
最近神から通信でもあったのだろうか。
ともあれこれをお爺さんは快諾。
貯めておいたきびを使ってきび団子をつくり、
なんだか良い感じの装備も整えてあげて、桃太郎は出発した。
そしてその日の昼にちょっとお腹が減ったので、
木の根に腰掛けてきび団子を食べていると、犬が出てくる。
「俺の縄張りを侵すとはいい度胸だ。団子を置いていけば許す。
そうしないなら噛み殺してくれるわ!!」
犬こっわ……。
「桃太郎さん、お団子くださいな♪(しっぽフリフリ)」な犬はどこへ?
しかし桃太郎も流石である。
「何をぬかす野良犬め!俺は鬼を征伐する桃太郎だぞ!
お前こそ頭から真っ二つに切り捨ててくれるわ!!」
桃太郎も強気すぎる。
でもこれくらい血気盛んじゃないと鬼を討伐はできないのだろう。
犬もこの勢いにビビったようで、
「さては兼ねて聞き及ぶ桃太郎さまで御座りましたか!
そうとも知らず只今のご無礼、何卒御免くださりませ!!」
さっきまで噛み殺すとか言ってたのはなんだったのか。
この短時間に明確な主従関係が出来上がったようだ。
そしてお供になる流れになるのだが……
「あのう……自分もお腹空いてまして、1個でいいのできび団子くれませんか……?」
お供になって即要求するのもなかなかだが、それに対する答えは……
「これは日本一のきび団子だぞ?1個は無理だ。半分ならいいぞ」
いつの間にか、お爺さんの備蓄してた食料が日本一になっていた。
しかし桃太郎、ケチ過ぎる。
そして舞台は山へ。
次の仲間は猿である。
本の中では「ましら」となっていた。猿のことだ。
猿は壮絶なバトルシーンがあるわけでなく、最初から桃太郎相手には腰が低く、スムーズにお供に加わることになる。
そして当然のようにきび団子は半分だった。(犬にあげた残り)
いよいよラストの仲間、鳥(キジ)。
出会いは野原だった。
足元に突然飛び出てきた鳥。
犬は即座に反応し噛み殺そうとするが、鳥はひらりと身をかわして逆に犬を突き殺そうと隙をうかがっている……!
桃太郎これを見て、「此奴は大分面白い鳥だわイ…」と謎のキャラになり、この攻撃力が高そうな鳥を仲間にしようと話しかける。
「お前はなんで俺を妨げるんだ? 降参すれば家来にしてやるぞ。
邪魔をするならこの犬をけしかけてその首を引き千切ってくれる!!」
相変わらずの強気な桃太郎である。
鳥は飛び出したら犬に突然襲われた被害者だというのに……。
この殺害予告を聞いた鳥は、
「さては兼ねて聞き及ぶ桃太郎様!私はキギスという賤しき鳥です!お供になれば罪を許してくれる桃太郎様凄い!!私も仲間にしてください!!」
この鳥は世渡りが上手そうである。
そしてどうやらキジも桃太郎を知っていたようだ。
この15年の間にどんだけ評判が広まっていたのか。
なお、このセリフは原文だと天皇と話しているレベルの表現になっている。
そんな対応をされる桃太郎、本当にこの15年で一体なにを……?
そして桃太郎は3匹に対し、
「喧嘩したらお前ら……わかってるな?」という命令を発し、
それ以後、3匹は喧嘩もせず、仲良くなった。
ちなみにキジ(キギス)もきび団子は半分だった。
(どんだけ分けたくないんだよ…)
いよいよ海まで来た桃太郎一行。
しかし海なんてみたこともない3匹はビビる。
それを見て桃太郎が一喝する。
「この弱虫共が!こりゃ俺が一人で行ったほうがマシだな!
暇をやるからさっさと帰れ!!」
3匹はそれを聞くと桃太郎にすがりついて、
「そんな事言わないで!」「どうかお情けを!」「海なんか怖くないです!!」と叫ぶのだった。(DVを受けて洗脳でもされているのだろうか)
その後、なんかうまいこと船を用意した一行は海に乗り出す。
謎の船の上での宴会芸シーンが挿入されたあと、いよいよ鬼ヶ島へ。
鬼ヶ島はすごかった。
黒金の門、黒金の垣、黒金の瓦。
この時代の技術レベルとしては、明らかに鬼の方に分がありそうだ。
これ見た桃太郎は一計を案じる。
それは……キジを使った陽動作戦である。
キジは鬼ヶ島の中心部の屋根に降り立ち、挑発をした。
「やあやあ鬼ども!神の使い桃太郎将軍が征伐に来たぞ!!命が惜しかったら角を折って宝を差し出して降伏しろ!!」
「歯向かったら……”キジと犬と猿の猛将”が、日々鍛えた牙にかけて汝らを噛み殺してくれるぞ!!!」
鬼たちはこれを聞いて、大いに笑う。(わかる)
そして「片腹痛いわ!」とキジに鉄棒で殴りかかるのだが、キジがめちゃくちゃ強かったらしく、鬼を普通に蹴散らしていく。
そしてその隙を突いて、犬と猿が鉄門を破り(どうやったのかは不明)
城の中へなだれ込む!!
鬼はそれに動揺し、バッタバッタと倒されて、
もはや頭(かしら)の大鬼しか残っていない状況になった。
奇襲攻撃はすごいのだ。(本文中でも奇襲の強さについて語っている)
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大鬼は角を折って降参した。
「桃太郎様!命ばかりはお助けください!!」
桃太郎はこれを聞いてカラカラと笑い、
「命ばかりはお助けとは……!面に似合わぬ弱いやつだ。 しかしお前はあまりにも多くの人間を殺めた罪がある」
「日本へ連れていき、法の通り首をはね、瓦にして屋根の上にさらしてやるから覚悟しておけ!!」
まさかの法の概念を持ち出した桃太郎。
そして鬼瓦誕生秘話のようなものが突然出てきた。
その後、桃太郎は鬼ヶ島の宝を集める。
隠れ蓑、隠れ笠、打ち出の小槌、如意の宝珠、珊瑚、玳瑁(タイマイ)、真珠などなど。
なんだか他の物語で聞いたことのあるアイテムが入っているが、なにか関係があるのだろうか?
そんなこんなで桃太郎は宝を船に積み込み、めでたく凱旋。
お爺さんお婆さんは大喜びし、市が栄えた。
めでたしめでたし。
というわけでなぜか今更桃太郎を読み、面白かったというお話。
非常に好戦的な主人公サイドと、全滅させられる鬼たち。
まあ神様曰く鬼は悪いことをしていたらしいので仕方なかったのだろう。
そして最後に市が栄えて終わる。
要所要所の描写を見ると、
確かにこれは今の子供にそのまま話せる感じではない。
でも過去の日本のノリを知っていると全然ありなんだろうなとは思う。
時代によって物語の受け取り方も変わるのだ。
そういえば、なにかの番組で桃太郎のいろんなパターンを研究しまくった子供が出ていたのを見たので、それに感化されてこの本を手に取ったのかもしれない。
この本にある桃太郎も、多種多様な桃太郎の一つということだ。
あと、この本には浦島太郎も載っているが、自分が聞いていた「ラストに鶴になったから良かったよね!」という展開ではなく、
玉手箱を開けた浦島太郎は…
「シワだらけのおじいさんになって、腰も立たなくなってしまいましたとさ。めでたし めでたし めでたし。」
いやどこもめでたくないが?
しかも「めでたし」を3回も繰り返している。
亀を助けた15歳の優しい若者に対する仕打ちがこれか……!?
……いや、物語はハッピーエンドでなければいけないわけではない。
そもそも物語が作られたのは今より過酷だった時代だ。
個人の力ではどうしようもない理不尽な結末は、ある意味でリアルなのかもしれない……。
古文書を読む際は、それを書いた時代の状況や著者の立ち位置なども鑑みて読んでいかないと、正確な読み取りは出来ないという。
自分の主のことを書くなら媚びるだろうし、当時の有力者に有利なことを書いて利益を得ようとする人だって当然いるのだ。
……いや、昔話にそれが当てはまるのかはわからんけど。
そんなわけで、
皆さんも暇で仕方なかったら、日本昔噺を読んでみてほしい。
まさかの面白さがそこにはある。
……かもしれない。
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