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はじめてレッズをみた日は、はじめて浦和レッズが勝利をした日
ファンの存在やその素晴らしさ。
これを考えていくことや、この大切さを伝えていくことが自分のライフワークになっている。
もし「あなたが、ファンの素晴らしさを知る原点となった出来事を挙げてください」と聞かれたら・・・
自分は、はじめてスタジアムで浦和レッズの試合を観戦した、あの日のことを答えるだろう。
それは、1993年5月29日。
ホーム駒場競技場で行われた「浦和レッズvsヴェルディ川崎」
浦和レッズが、Jリーグ開幕後はじめてリーグ戦の勝利をした試合のことである。
⚽1.人生を決めた1枚のチケット
1993年4月。
浦和のチケットぴあの前には、長い長い行列ができていた。
この日は、この年から開幕するJリーグのチケット発売日。日本初のプロサッカーリーグの誕生は、日本中を巻き込む大きなニュースにもなっていて、テレビ番組などでも連日大きく取り上げられていた。
Jリーグの観戦チケットはプラチナチケットと言われていて、その獲得競争が日本各地で勃発していた。インターネットも普及していなく、チケットを買うとすれば電話かチケット窓口しかない時代だ。
自分も浦和にあるチケットぴあへ、前日から並んだのだった。
まだ朝晩は冷える季節。
1枚の段ボールに包りながら、ひたすら待つこと20時間。
ようやく、チケットぴあの窓口に辿り着くことができた。
実は、この日のチケット購入では、2つの選択肢があった。
❶5月19日(水)ホーム開幕戦 浦和レッズvs名古屋グランパスエイト
❷5月29日(土)ホーム2戦目 浦和レッズvsヴェルディ川崎
この2試合のうち、どちらかのチケットを購入することができたのである。
浦和レッズのホーム開幕戦を買うべきか、それともカズやラモスや武田、北澤などを擁しスター軍団と言われたヴェルディ川崎戦を買うべきか。
かなり悩んだあげく、後者のチケットを取ることにした。
スター軍団であり、Jリーグのプレ大会であった1992年のヤマザキナビスコカップを制したヴェルディ川崎に、ホーム駒場スタジアムで倒してやろうという気持ちが強かったからだ。
そして、この選択がその後のサポーター人生だけでなく、自分の人生にも大きく影響を与えることになった。
(現在の浦和駒場スタジアム)
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⚽2.はじめてのスタジアム、はじめてのゴール
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「チアホーンなどの鳴り物は禁止でーす」
駒場競技場へ向かう道のあちこちで、このような声を掛けられた。
開幕した当時のJリーグの試合では、プォーンプォーンとチアホーンを観客が鳴らすのが流行っていたが、浦和レッズのサポーターはいち早くそれをやめて、声と手拍子の応援を推奨していたようだ。
このあと、何度も、何十回も、いやそれ以上の回数を通うことになった浦和駅から駒場競技場への道。
自分にとって、その最初の体験がこの日であった。
途中にある信号や曲がり角、長い下り坂なども、目に入るものすべてが新鮮に映った。
歩いて20分ほどで駒場競技場に着いた。
ここで、気持ちを入れ替えることにする。
なんと浦和レッズは、Jリーグ開幕後、まさかの4連敗。
5/16(日) ガンバ大阪 1-0 浦和レッズ
5/19(水) 浦和レッズ 0-3 名古屋グランパスエイト
5/22(土) 横浜フリューゲルス 3-1 浦和レッズ
5/26(水) ジェフユナイテッド市原 1-0 浦和レッズ
4連敗の流れを変えるためには、スター軍団のヴェルディに勝つことしかない!
そんな熱い気持ちを自分も周りのサポーターも持っていたのだろう。
スタジアムはキックオフ前からものすごい熱気だった。
ピッピー
主審が笛を吹く。
待ちに待ったキックオフ。
自分にとってはじめての浦和レッズ観戦が始まった!
「うら~わレッズ!」
スタジアムには、大きな声援がこだましていた。
ところが・・
その声援を打ち砕くかのように、前半8分ヴェルディの柱谷哲二のゴールがあっさり決まってしまう。
マジか・・
でも、まだ試合は始まったばかり!
取り返すチャンスはあるはず。
しかし、その後もヴェルディの猛攻は続く。
なんとしてでも追加ゴールは与えないと、跳ね返す浦和レッズ。
5連敗はしたくない、スター軍団には負けたくないという強い気持ち。
前半は0-1のまま、なんとか踏んばった。
ハーフタイムを挟んで後半が始まった。
前半よりも動きがいいように感じるレッズイレブン。
そして迎えた後半4分。
浦和レッズの攻撃が牙を向く。
池田伸康が遠めからシュート。名取篤に当たったボールを河野真一が蹴り込んだ。
ゴーーール!
湧きあがるスタジアム。
ついに浦和レッズが同点に追いついたのだ!
これまでの試合で、相手に先制されたら追いついたことが一度もなかった浦和レッズが、あのスター軍団のヴェルディに同点に追いつくことができたのだ。
これが、自分にとっても浦和レッズで見たはじめてのゴールとなった。
ゴールした瞬間、周りの人たちとハイタッチをした。
真っ白な紙吹雪が空に舞っていた。
いけるぞ。もしかしたら勝てるかも。
そんな雰囲気にスタジアムが包まれた。
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(上の2枚の写真は、浦和レッズオフィシャルサイトで2011年に上げられたコラム「18年前の今日(5月29日)」より転用させてもらっています)
⚽3.ヴェルディ武田の疑惑のゴール。ざわつくスタジアム
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しかし、世の中そんなに甘くなかった。
試合の終盤に差し掛かったところで、ヴェルディの武田修宏が放ったシュートがゴールネットに突き刺さってしまった。
喜ぶヴェルディの選手たち。
やられた…
自分も周りのサポーターたちも、気落ちしてしまう。
これまでの4試合と同じように負けてしまうのか・・
ざわざわ
ところが・・・
その時、今では考えられないことがスタジアムで起こった。
スタジアムのあちらこちらが、ざわつき始めたのだ。
「いま、手でトラップしたよな」
「ハンドだろ。ハンド」
VARが導入されている現在であれば、審判団がレビューしてすぐに確認できるかもしれない。
でも、当時はそんな仕組みはないし、そもそもスタジアムに大型モニターすらない。
はじめてのサッカー観戦だった自分は、選手のスピードやボールの動きに目が追いついていくのがやっとで、ハンドかどうかは正直わからなかった。
⚽4.スタジアムにこだまする大ハンドコール
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スタジアムのざわつきは、ますます大きくなる。
このまま試合が再開されては、絶対にいけない。
そんな気持ちが浦和レッズサポーター達の中で広がっていったのだろう。
なんとスタジアムが一体となって
「ハンド、ハンド」
と大ハンドコールを始めたのだ。
このハンドコールをバックに主審、副審が集まり協議が始まった。
「ハンド、ハンド」
スタジアムに鳴り響く、ハンドコール。
Jリーグが開幕してまだ2週間しか経ってなく、サポーターという文化が固まっていなかった頃だ。
その時代に浦和レッズサポーターは、自分たちの応援が圧を起こすことができ、その圧を味方にすることを自然と行っていたのかもしれない。
「ハンド、ハンド」
ピッピー。
そして、主審が笛を吹いた。
結果は、ハンド!
なんとゴールは取り消されたのだ。
「うぉー、やった!まだいけるぞ。」
浦和レッズサポーターの応援が一気にヒートアップしていった。
⚽5.延長戦からPK戦へ。そして歓喜の瞬間!
試合は1-1のまま後半を終えた。
当時のJリーグには引き分けがなく、必ず決着をつけるために仕組みになっていたため、ここからVゴール方式の延長戦に入る。
Vゴール方式とはどちらかのチームの点が入った段階でゲームが決着するというルール。
自分にとっても、もちろんはじめての延長戦である。
1点決められたら負け、1点とれば勝ち。
もう、ひたすた浦和レッズを応援するしかなかった。
しかし延長の30分も両チームともに得点がなく、試合はPK戦に持ち込まれた。
これまでずっと勝利から見放されていた浦和レッズ。
なんとしてでも、勝ちたい。
駒場競技場にヒリヒリするような緊張感が張り詰める。
がんばれ!
がんばれ!
もう祈るしかない。
そして…
うぉおおおおおお
勝った!
なんとPKまでもつれ込みながらも、スター軍団のヴェルディに勝ったのだ。
もう、スタジアム中がぐちゃぐちゃである。
負け続けていたレッズのJリーグ初勝利。
その場に、自分もいることができたのだ。
スタジアム中に赤いフラッグがなびき、たくさんの紙吹雪が空を舞っていた。みんながガッツポーズをし、抱き合って喜んでいた。
スタジアムの中だけではなく、浦和の街中がそうだったに違いない
「やっぱり俺たちがついていないと、浦和レッズはダメだよな」
自分もそうだけど、サポーターの多くがこう感じたに違いない。今では、浦和レッズサポーターがアジアNo. 1の熱狂的と言われることがある。
今思うと、その熱狂の原点は、この試合だったのかもしれない。
⚽6.当時の喜びをもう一度かみしめる
当時の試合結果が、ベースボールマガジン社から出ている浦和レッズ10年史に載っていた。
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両チームとも懐かしい選手の名前が多い。
今でもサッカー選手として現役を続けているカズ(三浦知良)もいる。カズには、心から尊敬をしてしまう。
主審は有名な岡田正義氏。
当時の駒場競技場は今ほど収容人数が多くなく、超満員でも観客は9,690人だったようだ。つまり、この勝利をスタジアムで見届けたのはこの9,690人だけしかいないことになる。
現在ホームにしている埼玉スタジアムは6万人を超える収容人数。多くの人がひとつの試合で熱狂できるスタジアムがあるということは、サポーターにとって本当に幸せなことなのだと感じる。
実は、この日のことは映像やWEBなどでもほとんど見つけることができず、少しうろ覚えの部分もあった。
ところが、浦和レッズのマッチデープログラムを長年制作している清尾 淳さんが昨年の5月29日のnoteでかなり詳しい内容を書いてくださったおかげで、その答え合わせをできることになった。
あの「ハンドコール」が実際にあって、その後にハンド取り消しがあったことも書いてくれている。(もちろん審判の判定には影響してなかったと思うけど)
一進一退の試合の中、PK戦の末、ギリギリで勝利(浦和レッズとしてのJリーグ初勝利)し、その後浦和の街が勝利の喜びに包まれたこともだ。
やっぱり、自分の「はじめての浦和レッズ観戦」の記憶は間違っていなかったみたいだ。
そしてヴェルディの武田修宏が右サイドでパスを受け、そのまま持ち込みシュート。2点目が決まったかに見えたが、パスを受けた際にトラップしたボールが手に当たっていたということで取り消された。
主審が副審に確認に行ったのだが、それを促したのはスタジアムを揺らすかのような「ハンド!ハンド!」の大コールだった。
しかし・・・
この年、浦和レッズは負け続けダントツの最下位となった。
その後のリーグ戦ではヴェルディにコテンパンにやられた。
お偉い方からは、Jリーグのお荷物と比喩される屈辱もあった。
この年の悔しさは、ずっと忘れていない。他のサポーターもクラブも忘れていないだろう。
それが、後々のリーグ制覇や3回に渡るアジア制覇の大きなバネになったに違いない。
⚽7.あの試合から、浦和レッズの虜になった
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あれから30年。
日本中にJリーグのクラブができ、素晴らしいスタジアムとサポーターが増えていった。
スタジアムでは多くのドラマと奇跡が起こってきたし、これからも起こり続けると思う。そして、その瞬間に立ち会ったファン・サポーター達の熱量は高まり、熱狂の渦が沸き起こっていく。
それが、自分達の持っているアイデンティティと重ね合わさり唯一無二の存在になっていった。
自分も同じだった。
あの試合から、浦和レッズの虜になった。
浦和レッズのシーズンチケットを買うようになり、アウェー遠征にもいくようになった。
浦和に住むようになった。
Jリーグのファンを増やすアイデアコンテストに応募し、受賞することもできた。
そして、ファンやサポーターの気持ちを考えることやそれを高め広げていくことをずっと考え続けていて、それが今の仕事につながっている。
それも、あの1枚のチケットのおかげだ。
あのチケットを選んだおかげで・・・
「はじめてレッズをみた日」が「はじめて浦和レッズが勝利をした日」になった。
そして、その後30年間ずっと、心が躍るような日々を送ることができている。
ありがとう。
そして・・・
We are Reds!
~最後まで読んでいただき、ありがとうございました~
このマガジンでは、スポーツの持つ価値やスタジアムの熱量を上げていくために何が必要かを書き綴っています。
今回使用した写真は、今期のホーム開幕戦(駒場スタジアム)のものを使っています。
はじめてレッズを見た日をテーマに4つの話を書いてみました。よろしければ、ぜひ!
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