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はじめて、スタジアムの奇跡を見た日
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昨日行われた浦和レッズvsFC東京。
浦和レッズのホーム埼玉スタジアムでは、子どもたちが観戦を楽しめようなイベントが詰まった「GoGoRedsデー」が4年ぶりに開催された。
天気はあいにくの雨。温度も湿度も高く、観戦するには正直言ってあまりよくない環境ではあったけれど、多くの子どもたちがスタジアムに来てくれて、熱い戦いを観戦してくれた。
試合の方は、両チーム共に決め手がなく0-0の引き分け。
本当のことを言うと、はじめてスタジアムに来てくれた子どもたちにゴールシーンを見せたかったし、勝利の歌「We Are Diamonds」を一緒に歌いたかった。勝負の世界はなかなか思い通りにはいかない。
子どもたちが、浦和レッズの試合をまた見にいきたいと思ってくれるよう願うばかりである。
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自分が浦和レッズを応援して、かれこれ30年になる。
シーズチケット歴も26年になるので、見てきた試合は何百試合になったのかわからないくらいになっている。
応援してきた30年の中には、この試合を見たら誰もが絶対に浦和レッズのファンになってしまうといえる試合がいくつもある。
その中で一つだけ、この試合だけは特別だと思える試合を紹介して欲しいと言われたら、自分はこの試合を紹介したいと思う。
何十年経ってもずっと記憶の中に残っている。自分が「はじめてスタジアムで奇跡というものを見た日」であった。
2000年11月19日 J2最終戦
2000年11月19日(土)J2最終節。
本当に特別な日だった。
1年前、J1リーグからJ2リーグにJクラブで初めて降格するという屈辱を味わった浦和レッズ。
降格したJ2リーグでも苦戦が続き、最終節まで昇格争いの残り1枠を争うという状況になってしまった。
しかも引き分けでは昇格は難しく、勝つしかないという崖っぷちの試合になってしまった。
この日浦和レッズはホーム駒場スタジアムでサガン鳥栖を迎え、J1復帰がかかる最終戦を行った。駒場スタジアムは、1年前に延長Ⅴゴールを決めたにもかかわらず降格が決まってしまった「世界一悲しいⅤゴール」の場所。
舞台は揃った。
自分も気合を入れて、朝イチからスタジアムに向かった。
駒場スタジアムには同じように多くのサポーターが集結。スタジアム定員ギリギリの2万人を超える観客となった。
そして、キックオフ。
昇格をかけた最終戦が始まった。
さあ、勝つぞ!
サポーターたちの熱い思いが声援になって、スタジアムにこだましていた。
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緊張感もあったけれど、それがいいカタチで作用したのか、前半は非常にいい流れだった。浦和レッズは鳥栖ゴールを何度も脅かし、優勢に試合を進めることができた。
スタジアムの雰囲気も熱く、いい感じだった。
その流れは後半が始まっても続き、ついに先制点を決めることができた。
湧き上がる駒場スタジアム。
誰もが、これで、いける!と感じたものだろう。
しかし・・
そんなにうまく進まないのがサッカーの世界だ。
しばらくして鳥栖に同点ゴールを奪われてしまう。
それまでイケイケだったスタジアムが、少しずつ重たい雰囲気に変わっていく。
さらに試合は悪い方向に傾いてしまう。
浦和レッズが自陣ペナルティエリア内で一発レッドの反則を犯してしまったのだ。
浦和レッズには退場者が出て10人になってしまった。しかも鳥栖にはPKが与えられた。
ここで、PKを決められたら試合が逆転されてしまう大ピンチ。しかも10人しかいないのだ。J1昇格が遠のいてしまう。
「頼む。なんとか止めてくれ!」
スタジアム全体が祈るように、キーパーの西部選手に注目する。
相手の選手がPKを蹴った。
しかし…
キーパー西部選手が飛んだ方向は、キックの弾道とは逆だった。
「やられた」
その瞬間、自分はこう思ってしまった。
ところが…
ゴールに向かっていったはずの鳥栖のシュートは少しだけ軌道を外しゴールポストにあたった。
しかしピンチは続く。そのこぼれ球を詰めていた相手の選手がシュートをする。しかし、そのシュートもゴールの上を越えていった。
「助かった」
スタジアムに神様がいたのかはわからない。みんなの祈りが通じたのかもわからない。とにかくギリギリのギリギリの状態で、浦和レッズ史に残る絶体絶命のピンチを乗り越えることができたのだった。
しかし安堵している状況はなかった。
そのあとの浦和レッズは10人で長い時間を戦わなくてはならなかった。しかも、勝たなくてはならなかった。
鳥栖の攻撃をかわしながら、なんとか得点をとろうとしていたが、そのまま互いにゴールを決めることができずに後半終了ホイッスルがなってしまった。
試合はそのまま延長戦(当時は延長Vゴール方式がとられていた)に突入した。
奇跡の延長Ⅴゴール
選手もサポーターも誰も試合を諦めていなかった。絶対にこの延長戦でゴールを決める。
試合を決めてやる。そんな熱い想いが駒場スタジアムを包み込んでいた。
2年続けて、このスタジアムで悔し涙を流したくない。
そして遂に、みんなの想いが奇跡を起こした!
延長前半、浦和レッズのフリーキックの場面。
相手にあたったこぼれ球が土橋選手の前にこぼれていく。
そのこぼれ球を拾った土橋選手がロングシュートを打った。そのシュートは大きな弧を描くようにネットへ吸い込まれていく。
うおおおおお。うわあああああ。
もう、誰も声になってない。叫び声がスタジアム中に浦和の街に響き渡った。
浦和レッズが延長Vゴールで勝利を決めたのだ。
土壇場の土壇場でJ1復帰を決めることができたのだ!
このシュートの弾道は、20年以上経った今でも自分の目にスローモーションのように焼き付いている。
そして、周りのサポーター達と抱き合い、皆泣きながら喜んだことを今でも覚えている。
久々にYouTubeに上がっている動画を見た。
サポーターの声援が凄すぎて、放送がよく聞こえないくらいだ。
最後のゴールについて解説の方が「浦和レッズサポーターの全ての気持ちが乗ったシュート」と言っていた。まさにその通りだと思う。
このVゴールがなければ、1年でのJ1リーグ復帰はなかったし、今のアジアを代表するような浦和レッズというクラブにはなっていなかっただろう。
みんなの記憶に残っていく
この試合について、浦和レッズのことをnoteに書いているみなさんもいろいろ思いを語ってくれている。
清尾 淳さん
そのネガティブシンキングをコールリーダーのひと言だった。
「おい、2万人!」
おぅ!
「そりゃ、2万人の声じゃねえだろ!」
いかりや長介のようなセリフで、駒場は笑いに包まれ、嫌な緊張感がなくなった。同時に「2万人」というのは自分たちにも呼びかけているんだと、メーン、バックの指定席サポーターの闘う気持ちが高まった。
1シーズンの苦しい闘いの成果を今日出そう。それのためにみんなが全力を出そう。
駒場に来るときに緊張のあまり吐き気を催したと後で明かしてくれたコールリーダーの第一声(第二声?)で駒場が一つにまとまった。
遠山勤さん
駒場全体が悲鳴混じりのざわめきに包まれる。後で知った事だが、このPK宣告とほぼ時を同じくして、昇格を争う大分が先制点を挙げていた。
どんな作家でも、演出家でも、映画監督でも描き切れないだろう意地悪で最悪のシナリオ。私は、PKの場所を目の前にする西側スタンドで、文字通り凍ってしまっていた。帰宅後、録画していたテレビ埼玉の中継を見ると、「えっ、赤。赤ですか。えーっ」という上野アナの悲鳴のような実況と、ユニの裾で顔の汗(涙か)を拭いながらピッチを下がる室井の姿を映している。室井は「俺のせいで来年もJ2か」と、この時思っていたという。
このPKのシーンは今でもスローモーションのように思い出すことが出来る。蹴られたPKは右へ飛んだ西部とは逆の方向に。「もうダメだ」と思うと、ボールはポストを叩き、跳ね返ったボールはキッカーの下へ。再び蹴られたシュートはゴール上方を通過した(これが反則という事に、この時全く気付かなかった)。浦和は最大のピンチを脱した。10人対11人という不利な状況は続くものの、選手もスタンドも力を取り戻していた。
kaz_goalさん
終盤のレッズは苦しみながら、なんとか2位に留まってはいたが、くらいついてくる大分の結果を祈るような気持ちで確かめる日々が続く。
そして迎えた最終戦。
先制はしたものの、まさかの失点。
レッドカードで一人少ない状況からの、目の覚めるようなVゴール。
この日の試合は、まるでこの一年を象徴するかのような展開だった。
ここまでドラマチックにしなくても…と、さっきまで事あるごとに祈りを捧げていたサッカーの神様に小言を言いたくなってしまったが、おかげで何年経っても忘れられない。
machikoさん
同点のまま延長戦へ。そのとき現れた岡野のダッシュで元気を取り戻せた気持ちになりました。他会場の結果は全く見てなかったのですが、Vゴールでも勝てばJ1に昇格できることは認識していました。
そして、延長戦前半5分、フリーキックのこぼれ球が土橋の下へ。蹴ったシュートはゆっくりゴールマウスに吸い込まれていきました。
その瞬間、信じられないものを見たような気がしましたが、すぐに我に返り、あらん限りの声で叫んだ私がいました。
前年の残留争いの苦しさ、このシーズンのJ2での戦いのもどかしさ、すべてのことを洗い流してくれるカタルシスでした。
記憶を繋いでいく
ファンやサポーターの想いが重なり、大きなチカラとなる。そして、それらが語られ受け継がれてクラブの歴史を作っていく。
はじめて、スタジアムの奇跡を見た試合。
それは、自分だけでなく浦和レッズを愛すべての人の記憶に残る伝説の試合だった。
昨日、埼玉スタジアムに来てくれたたくさんの子どもたちにも、スタジアムは心からワクワクできる場所で、時にはこのような奇跡が起こることを知って欲しいと思う。
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